~『流星』の伝説~
1
「ひとりのときに限って・・・‼」
爪をレイピアで弾く。衝撃に後ろに下がったところを逃さず貫く。返り血をよける余裕などない。金髪が、肌が、白いワンピースが、自分のものではない血で赤く染まっていった。
2
時は、少し遡る。
レイルは、王都から離れた村の結界を確認に行っており、数日は帰れないと言っていた。もちろんリィもついて行きたかったのだが、なにかあったときに指示を仰ぐ人がいないと困ると騎士達に言われ、やむなく王都にとどまっているのだ。レイルがフリーデン王国の騎士団に入ってから早二か月。彼は副騎士長になっていた。何で騎士長がレイルでなく、私なのかと言うと、レイルが副騎士長でいいと言い張ったからだ。私の方がこの国をよく知ってるから、と言って騎士達を納得させていた。───そんなことで納得しないでほしい。
とにかく、騎士長と副騎士長が二人揃っていないのは私にとっても不安だ。だから、不満など持っていない。そう、持っていないのだ。
しかし、レイルのいない数日は何も当番にあたっていない。一人きりの寂しさを紛らわせようと意味もなく布を縫っていたときだった。
───山の麓の村で、結界が破れたと連絡が入ったのは。
王都や村々を囲む結界は、術者がいるわけではない。巨大な結界石が村の四方におかれ、それが結界を作っているのだ。
その巨大な結界石の欠片が王都に保管されていて、どこの町の結界石か分かるようになっている。市販の結界石は透明なので一目瞭然だ。村を守る結界石を砕いて売るもしくは使う者がいたときすぐに見つけるためこうして国が管理している。
結界がいつ切れるか分からないのもあって、騎士に石の様子を見ろと言っていたのが役に立った。
青色の結界石が、見る見るうちに光を失い、黒っぽくなっていったと騎士は話した。青の結界石のある村は──アスール村。遠い。レイルのいる村からのほうが近いかもしれない。だが、彼に伝えようがない。騎士団と衛兵隊の人数と能力を考えれば、呼びに行かせることもできない。かといって、リーシア王国に助けを求めても、救援は間に合わないだろう。
そうこうしているうちに、時間はすぎてゆく。仕方ない。道中考える。一刻も早く向かうべきだ。
───そして今に至る。
このままではだめだ。体力と集中力が切れたとき、負ける。
いちかばちか、やるしかない。
「長い時間押さえることだけを考えろ!私を信じて──耐えてくれ‼」
数歩下がる。私を襲おうとする魔獣は、衛兵と騎士が止めてくれている。
目も閉じたリィから、光る鳥が二羽現れた。鳥は、逆方向へいき、美しい光の軌跡を描いてゆく。あっという間に村を囲むと鳥は消失した。光の線は、消えずに残っている。その線を、リィは魔力でなぞった。ここまで大きな結界を作ったことは今までない。魔力が足りるかどうかも分からない。ただ、信じた。自分の力を。
膨大な魔力が流れ出ていく。あと少し、もう少し・・・
ラインが、繋がった。
金色の光がひときわ強く輝き、結界が完成する。と同時に、結界の中にいた魔獣達は粒子となって消えてゆく。
騎士と衛兵の、鬨の声が聞こえる。
魔力を多く消費し、限界だった。
だんだん意識が遠のく。でもその前に、これだけは───
力を振り絞って、空に光の弾を打ち上げた。
レイルが見つけてくれるようにと祈りながら。
3
レイル達はリィの魔法に気付き、割とすぐにやってきたらしい。そこから怪我をした者の回復をし、王都に帰った。リィは魔力切れをおこし気がついたのは家のベッドの上で、言っては何だがレイルは面白いぐらい取り乱していた。
───村を守る結界を一人で作った話は、『流星』の有名な伝説のひとつとして、後世まで語りつがれるのだった。




