~故郷からの帰り道~
1
「で、レイル。私、レイルのことを何にも聞いたことがないなぁ~って思うんだけど」
村からの帰り道、突然リィが言った。
「僕の、こと?」
「そう。レイルがこれまでどんな風に生きてきたのか」
確かに、一度も話したことはなかった。否、話せなかった。家族や村の人達の気持ちを薄々感じながら、目を背け続けてきたのだから。それをしっかりと見つめ、答えを出したのはたったの三日前だ。罪悪感は残っているが、もう前とは違う。今なら、話せる気がする。他人としか思えなかった二人を、自分の両親だと言えるようになった今なら。
「・・・僕は、十歳以前の記憶がないんだ。両親は井戸に落ちたって言ってたけど」
リィが目を見開く。だが口をはさむことはせず、静かに聞いていた。
「魔獣との戦いのとき、リィと会って・・・あとは知ってのとおりだよ」
全てを語り終え、レイルは隣をゆっくりと見た。
「だから、帰ったとき・・・」
瞳がゆれ、リィはそれを隠すように瞼を閉じた。伏せられた睫が小刻みに震える。再び目をあけたとき、リィは申し訳なさそうな顔以外は普段の様子に戻っていた。
「なんか、ごめんね。話したくなかったでしょ?」
「いや、いいんだ。───僕も、誰かに聞いてほしかったから」
リィはひとつ息をはくと、
「レイルに聞いておいて、自分のことを話さないのはおかしいね。・・・私が皆から『流星』って呼ばれているのは知ってるよね?」
「うん。二十年近く前には、リピアっていう人が同じように呼ばれてたらしいね」
「私が『流星』って呼ばれるのは当然のことなの。だって」
「私は───リピアの生まれ変わりだから」
2
「リィが・・・リピアの、生まれ変わり?でも、そんなことが・・・」
「あるの。リピアだった時の私は、いずれ都市や村を囲む結界が古くなって破れるだろうと思った。襲い来る魔獣に耐えうる戦力が無いことも分かってた。そのことを思い出したのは戦いが終わってからで、何やってるのって自分に言いたいけど。───それはいいとして」
息をつぎ、
「私がその場にいれば可能性は残る。でも、私は戦えるような体じゃなかった」
年をとり、老いた体は思うように動かない。
「そこで考えたのは、自分の記憶を結晶化させるっていう方法。結晶に触れた私はリピアの記憶を取り戻したの」
おそるおそる、レイルを見る。
自然の摂理に背き、人より長い人生を得た私を、彼はどう思っているのか───
「───それでも、リィはリィだ。リピアの生まれ変わりでも、何も変わらないよ。・・・まあ、驚いたけど」
自分の秘密を知っても、なんら変わらない態度を見て、思った。
こういう人だから、私は彼に惹かれたのだ。
「リィ?」
立ち止まったリィに、レイルが心配そうな声を出す。
瞳が潤み、視界が滲んだ。
好きだ。彼が、狂おしいほど。
指先で溢れそうな涙を払うと、レイルに笑顔を向ける。レイルが息を呑んだ。
「ありがとう・・・ありがとう、レイル」
「これからも・・・一緒にいてくれる?」
レイルは微笑むと、
「当たり前だよ。───ずっと、一緒にいよう」
距離が縮まり、唇が軽くふれ合った。
リィとレイルは歩くのを再開し、家に帰る。
かけがえのない、二人の家に。




