~故郷~
1
「ここが・・・レイルの故郷・・・」
十五歳のときに村を出てから、一度も帰ったことはなかった。手紙すら出していないが、リィと共に生きることを伝えようとやってきたのだ。
村の入り口を通って、怪しい記憶をたどり、家についた。自分の家という実感は相変わらずなかった。ドアを数回ノックする。他人の家を訪ねるような様子に、リィが微かに眉をひそめた。それには触れず、少し待っているとドアが開いた。中から出てきた青い髪の女性はレイルの顔を見ると、
「レイル?レイルなの?」
その問いに頷く。次の瞬間、レイルは女性──母──に抱き締められていた。
「良かった・・・無事で・・・!」
2
レイルが帰ったことを知り、多くの村人が顔を見にきた。皆が和やかに話しかけてくれるのが、苦しかった。
皆、迷っていたのだ。突然記憶をなくした自分にどのような接し方をすればいいのだろうと。
迷いの中、村人達は可能な限り前と変わらず接しようと努めた。皆、一生懸命考えてくれていたのだ。そのことに気付かなかった愚かな自分は、誰にも言わず、村を飛び出した。
───皆に、心配をかけていることを知らずに。
「───っ!」
「レイル⁉」
罪悪感に耐えきれずに席を立つと、走って外に出た。リィが呼ぶ声が聞こえたが、無視した。
ひたすら、通い慣れた道を走り森に入る。
ある一本の木を見つけると、走るのをやめ、幹に寄りかかった。木に体重を預け、手で顔を覆った。
何故。何故まだ皆、優しくしてくれる。
自分は村人達から逃げたのに、何故。
何も言わず、いなくなったのに。嫌な思いも、させたはずなのに。
それでも何故、何故、なぜ──────。
「レイル」
底の見えない暗闇に沈んでいこうとするレイルを、呼ぶ者がいた。
リィ、ではない。ならば誰が───
ゆっくりと顔を上げると、目に入ったのは長い青色の髪の毛。
記憶のないレイルに対し、周囲が母親だと言っていた女性。名前は確か、レイカだった。
「な、んで・・・」
「レイル?」
「何で、追いかけてきたんだ・・・」
「私が、レイルの母親だから」
「何で、まだ優しくしてくれるんだよ・・・!僕はひどいことをしたのに・・・‼何で・・・‼」
「レイルが、大切だから」
体が、温かいものに包まれる。温かさに縋りついて、レイルは声を上げて泣いた。もはや言葉にならなかった。泣いて、泣いて、泣き続けた。
いつしか泣き声は消え、森は静かな寝息と葉が擦れる音、頭上を飛ぶ鳥の声が聞こえるのみとなっていた。
3
予定していた三日の滞在を終え、レイルとリィは村の出入口に立っていた。二人の前にはレイルの両親がいる。
「それじゃ・・・もう行くよ」
「はい。気をつけてね」
二人に背を向けて歩き出す。が、途中で止まると振り返り、
「また、来るから。・・・父さん、母さん」
記憶を失ってから、初めてそう呼んだ。声は掠れてしまったが、ちゃんと両親に届いたことは二人の笑顔が証明していた。
だから、レイルも笑顔で───
「ありがとう‼」
父と母に叫んだのだった。




