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77 フリードリッヒとテレーゼ

 少し時は遡り12月中旬のパルナン。ゾレスト北部のこの地にはフリードリッヒが派遣されていた。サンデルのハリー達と違い、こちら側はちゃんと最前線の雰囲気を醸し出していた。この場合サンデルの方がおかしいのだ。ある意味ハリーの才能といえた。

 フリードリッヒはモーリッツの助力を得て、積極的に活動を行っていた。情報収集はシルヴィン麾下のエドガー率いる特殊部隊が引き受けた。戦闘以外は門外漢で諜報活動の経験などないフリードリッヒはエドガーに全面的に任せる事にした。エドガーは聡明な男で、大将軍直属である事を鼻にかける訳でもなく、自らの職務をこなしていた。見た目はどこにでもいそうな普通の男である。だが彼の真価は見た目では分からない。

 エドガーは到着早々に部下をゾレストに潜入させ、自身はけっして動かなかった。フリードリッヒはてっきりエドガーが乗り込むものと思っていたので、素直に尋ねた。


「その必要があれば動きますが、情報を扱うにあたり、集まった情報を分析する事の方が難しいのです。それに部下に任せた方が効率もいいです」

「確かにな。私は自分で動かないと気がすまないので、よく部下に怒られる」


 アールファレムの部下には、同様の傾向の者が多い。アールファレム自身からして、戦場では率先して動く為、アルスラーダ達は気が気でない。自らを囮に使うのが常套手段で、いくら周囲がたしなめても、改めようとはしない。アールファレムからすれば敵の目的が自身である以上、最大限活用すべきであるという持論を譲らない。身の安全などいくら優先しても、運が悪ければどこにいても死ぬ。なら少しでも勝率を上げる方を選ぶという訳だ。そして敵はそれが罠だと疑いつつも、目の前の甘美な餌に食らい付くのだ。

 アールファレムの姿勢はけっして上に立つ者として誉められたものではない。そしてアールファレムのその悪癖は部下達に多大な影響を与えた。ハリーやマルクスといった戦闘馬鹿もとい猪突猛進型は言うまでもなく、フリードリッヒのような良識派までも大将とは斯くあるべきと追随するのだから、部下としては迷惑きわまりない。

 エドガーの発言を喜んだのは、傍で控えていたテレーゼだ。フリードリッヒより二歳下の彼女は嬉しそうに目を輝かせた。


「そうでしょうとも。上に立つ者がでしゃばると部下がやりにくいのです。大将は後ろでどっしりと構えるものです」


 勝ち気なテレーゼは遠慮というものを知らない。フリードリッヒは部下に自由な発言を許していた。萎縮するよりは個性を伸ばす方針だが、今回は旗色が悪い。

 救いを求めるようにモーリッツを見やったが、にやにや笑うだけで助けようとはしない。


「閣下は将軍としての自覚が足りないようですな」


 モーリッツは人前ではフリードリッヒに対し敬語を用いる。親しみは感じられるのだが、フリードリッヒとしてはその距離感が寂しくなる。親友が部下というのは気心が知れてやりやすい反面、立場の違いを嫌でも実感せざるを得ない。フリードリッヒが感じるほど、当のモーリッツが気にしていないので、余計にもやもやするのだ。


「そうはいうが率先して動けば、部下たちも背中を見て、奮起するのではないか」


 孤立無援のフリードリッヒの声は後半しりすぼみになっていった。残りの三人から反対と同情の目を向けられたからだ。

 エドガーはフリードリッヒとは一時的な上下関係である事を理解している。ここでシルヴィンならどうするかなど批判めいた事を言わないだけの分別はある。

 シルヴィンは目一杯部下を活用する。自らも動くが、部下で済むような場合にでしゃばる事はしない。要所のみ抑え、信頼する部下達に任せるのがシルヴィンの方針である。容赦なくこきつかう上官の事を頭から締め出し、エドガーは好意を込めてフリードリッヒ達主従を眺めた。


「フリードリッヒ様はもう少し部下を信頼して下さい!」


 テレーゼの言には深い親愛が込められていた。肩より長い赤毛を無造作に束ね、長身で男勝りなテレーゼだが、一途にフリードリッヒを慕う様は、非常にいじらしい。モーリッツは浮いた噂のないフリードリッヒを心配していたが、常に甲斐甲斐しく世話をやくテレーゼを好ましく思い秘かに応援していた。

 フリードリッヒは男女間の仲には鈍い方であるが、流石にテレーゼの思いには気付かざるを得ない。気付かない振りをしているだけだった。

 部下相手にややこしい関係になりたくないし、そもそも誰とも恋愛する気になれない。シルヴィンに宣言した通り、フリードリッヒは生涯独身を貫くつもりだった。だがフリードリッヒは本人が思うよりもてるのだ。

 鍛え上げられた身体には贅肉などひとかけらもなく、背丈は標準よりやや高い。短めの濃紺色の髪にさわやかな蒼い瞳の正統派の美男子。それにくわえて人柄もよく、部下からも慕われている。貴族出身だが嫌味なところはなく、所作に品がある。はっきりいって出来すぎた優等生なのだ。いつも行動を共にするのが、がさつ代表格のハリーなので余計に引き立つのだが、無論狙っている訳ではない。


「勿論信頼しているとも。テレーゼ、いつも助かっている。ありがとう」


 このような台詞を臆面もなく言ってのけ、真っ直ぐテレーゼを見詰めて笑いかけるのだから、天然のたらしだろう。案の定テレーゼはのぼせ上がり、言葉を発する事もできず、机に指で何やら文字のようなものを書きだした。

 エドガーは深くテレーゼに同情して、苦笑を浮かべた。フリードリッヒは気持ちに応えられないのなら、突き放すべきなのだが、優しい態度でついつい期待させてしまうのだ。

 恋愛経験値など将軍としての資質とは無関係である。しかし十代の若者でもフリードリッヒより上手くやるだろう。

 エドガーはフリードリッヒには本命がいると踏んでいた。誰かは分からないが、それを調べるほど暇ではない。それよりも大事な任務を任されているのだ。

 フリードリッヒは話が終わったと判断して本題に戻るよう、エドガーを促した。


「閣下のやり方に口を挟むつもりはありません。では報告に戻ります」


 今のエドガーの頭にあるのは特殊任務を完遂させるという使命感だけだ。モーリッツは空き時間はいつもゾレストの方角を眺めていた。

 階級が同じなので、エドガーはモーリッツに対しては敬語は使わない。モーリッツも同様だが、エドガーが派遣された原因が自分にあるので、いつも申し訳なさそうにしていた。エドガーからすればモーリッツに責任がある訳ではないので、気にしないように言うのだが、どうも割り切れないらしい。モーリッツの為に早く家族を解放してやりたかった。


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