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72 幸せな二人の朝

 アルスラーダが目覚めると、窓の外まだ薄暗く、アールファレムはまだ眠っていた。中々寝付けなかった筈だが、思いの外眠れたようで、十分な睡眠がとれているのが分かり、感謝するようにアールファレムの頭を軽く撫でた。柔らかい手触りを堪能していると、ジークがアールファレムの背中に擦り寄ってきた。至福の時を邪魔されたアルスラーダはジークを抱き上げると寝台から摘まみ出した。当然ジークは抗議するように唸りだしたが、アルスラーダが睨み付けると、小さく啼いて床に伏せてしまった。

 アルスラーダはジークの様子に満足して、アールファレムの方を向くと、ばっちり目が合った。


「申し訳ありません。起こしてしまいましたか」

「あれで起きない方がおかしいぞ」

「そうですか? 昨夜は私が何をしても起きなかったんですがね」


 にやにやと笑うアルスラーダに、アールファレムは頬を膨らませた。


「寝ている間に何をした?」


 アールファレムははだけた胸に今更気付いて、慌てて痕が付いていないか確認しだした。


「そうですね。へその辺りとか内腿とかに痕が付いているかも知れません」


 アールファレムは顔を真っ赤にして、アルスラーダに背を向けて言われた場所を一通り調べた。勿論アルスラーダはそこまでしていない。からかわれた事に気付いたアールファレムは怒りながらアルスラーダに向き直った。


「アルス! からかったな!」

「嘘じゃありませんよ。今から付けるんです」


 アルスラーダはさらりと言うと、強引に覆い被さった。身構えるアールファレムに安心させるように優しく唇を重ねた。さりげなく胸をまさぐろうとしたところ、ジークが大きな声で吠えた。

 アールファレムがアルスラーダを押し退けて身を起こし、寝台の端に腰掛け手を広げると、ジークは尻尾を振って腕の中に飛び込んだ。

 膝の上に乗せて、頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めた。勝ち誇ったような表情に見えるのはアルスラーダの気のせいだろう。


「ジークお早う。今から散歩に行くか?」

「訓練にいくのではないのですか?」

「こんな時間にシウは来ていないだろう。先にジークと庭を散歩する事にする」


 アールファレムはジークを下ろすと、さっさと着替えだした。慌ててアルスラーダは手伝いを申し出たが、アールファレムは隣室を指差した。


「ジークと一緒に待っていてくれ」


 アルスラーダは渋々ジークを担いで隣室へと移った。身支度を済ませたアールファレムが顔を出すと、室内には険悪な雰囲気が漂っていた。


「アルス、どうしてジークと仲良く出来ないんだ?」


 アールファレムが腰に手をあてて尋ねたが、アルスラーダはそっぽを向いた。


「気に食わないんです」


 唸るジークに目線を合わせないアルスラーダ、旅の時は仕方無しにジークの面倒をみていたが、宮殿に戻ればジークは人気者でアルスラーダがわざわざ世話をするまでもない。特にフィリップやブルーノは日中はいつも一緒に過ごしている。

 いっそ夜も押し付けたいぐらいだったが、アールファレムが寂しがるのだ。いくらでもアルスラーダが付き合うと言っているのだが、毎晩は嫌とはっきり言われて傷付いた。ジークとは毎晩一緒に寝ているくせに、何故自分は駄目なのかと真剣に詰め寄って、言わせるな! と怒鳴られた。その様子があまりに可愛らしかったので、アルスラーダは怒りの感情がどこかにいってしまい、ついでれでれしてしまった。

 だがジークが憎たらしい事にはかわりない。そしてジークもアルスラーダを嫌っていた。勿論アルスラーダが暴力を振るう事はない。雑に扱うことはあるが、そこまでの衝動はない。気に食わないというのが一番しっくりくる表現だった。


「ジーク行くぞ!」


 アールファレムが扉を開けると、ジークは尻尾を振りながらアールファレムの足元にじゃれついた。アールファレムがアルスラーダの方を向くと、アルスラーダは苛つきながらも付き従う事にした。

 アールファレムがアルスラーダの脇をつつくと、機嫌を直し微笑みかけた。


「アルファ様、今年もよろしくお願いいたします」

「うん? そういえば挨拶していないな。こちらこそよろしくお願いする」


 何せ夜も一緒に過ごしていた訳で今更だったが、挨拶は大事である。アールファレムは昨夜早く寝てしまった事を後悔したが、今更どうしようもない。今年は何回ぐらいアルスラーダと一緒に寝られるだろうかと考えて、羞恥で悶えだした。


「アルファ様、どうなさったのですか?」


 急に赤面して壁を指でつつき出したアールファレムに驚いて、アルスラーダは戸惑いながら肩に手を置いた。


「いや何でもない。走るぞ」


 アールファレムはジークに声を掛けると、走り出した。ジークが一生懸命に追い掛けていき、驚いた女官や侍従が慌てて脇に避けて、お辞儀するなか、見た目にはさっそうと疾走した。アルスラーダは見失わないぐらいの速度で追い掛けた。

 中庭にたどり着くとアールファレムも走るのをやめて、アルスラーダが追い付くのを待ち、一緒に中庭をぶらつきだした。まだ朝日は昇りきっておらず、朝靄の静けさが心地良く、二人は会話なしの散歩を楽しんだ。

 時折アールファレムがアルスラーダを見上げると、軽く首を傾げ、視線で問いかけるが、アールファレムは嬉しそうに笑い、アルスラーダの服を軽く握り締め、無言のまま中庭を歩いた。ジークはアールファレムが着いてくるのを確認しながら、あちこちを走り回っていた。

 穏やかな気持ちで、二人は散策を楽しみ、やがて朝日が昇るのを湖の畔で待つ事にした。辺りにはまったく人がおらず、アールファレムは大胆な気分になり、アルスラーダに手を差し出した。アルスラーダの大きな手がアールファレムの手をしっかりと握り返し、アールファレムは嬉しくなって、アルスラーダにもたれ掛かった。

 朝日が完全に顔を出すと、先程までとは違う景色が広がり、二人は飽きる事なく、湖を眺めていた。


「名残惜しいですが、そろそろ訓練に行きましょう」


 アルスラーダが促すと、アールファレムは辺りを見回し、誰もいないのを確認すると、背伸びしてアルスラーダに軽く口付けた。突然の行動にアルスラーダが驚いていると、照れ臭くなったアールファレムはジークに声を掛けて駆け出した。

 アルスラーダは今日は追い掛けてばかりだなと思いながら、アールファレムの背中を見失わないように、だが追い越さないように加減しながら、走り出した。

 いつまでもこんな日常が続けばよいと、心の中で二人が思うような幸せな朝だった。


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