67 アルスラーダ猛省する?
翌朝アルスラーダはアールファレムの元へ顔を出した。練兵所に行く前に謝罪する事にしたのだ。寝室に顔を出すと、いつものようにルーヴェルがアールファレムの髪を梳かしていた。
「昨日は申し訳ありませんでした」
アルスラーダは深く頭を下げたまま動かなかった。
「一晩牢屋にいたのか?」
ルーヴェルが尋ねたが、アルスラーダはそのままの姿勢を貫いた。
「シルヴィンに出してもらった。アルファ様、お気持ちを無視するような真似をして本当に申し訳ありません」
アールファレムは立ち上がり、アルスラーダのつむじを人差し指でつついた。ルーヴェルはジークを抱いて、そろりと部屋を出た。一晩アールファレムを独り占めしたのだ、それぐらいの余裕はある。
「アルスとは皇帝としてではなく、一人の女性として向き合いたい。でもアルス、執務室では駄目だ。私は皇帝なんだ。分かって欲しい」
「アルファ様……」
「私はアルスが好きだ。嫌いだから拒むわけじゃないんだ」
アールファレムは拒絶した事でアルスラーダが傷付くのを恐れていた。アルスラーダはアールファレムを優しく抱き締めた。
「アルファ様、馬鹿な私をお許し下さい」
「……ごめん。牢屋に入れたのはやり過ぎだった。あんな場所に……」
アルスラーダは人差し指でアールファレムの口を押さえた。
「お陰で自分の馬鹿さが分かりました。バルドが椅子を差し入れてくれたので、それほど居心地も悪くなかったですよ。それに……いえ、それだけです」
「そこまで言いかけてやめるなよ。他に何かあったのか?」
シルヴィンの事に言及しようと思ったが、そんな些事はアールファレムに報告する必要はない。今はそれより大事な事を確認するのが先だった。
「たいした事ではありません。それよりここは私室です。今は女性という事でよろしいですか?」
アールファレムは寝起きでまだ着替えていない。晒しなしの胸の感触が伝わり、とても気持ちよかったのだ。ともすれば反応しそうになる体だったが、昨日の今日でがっつくわけにもいかなかった。
「うん。でもまだ朝だから……」
その後の言葉は不要だった。アルスラーダはアールファレムを抱き上げると寝台まで運んだ。
「最後までは致しません。お楽しみは夜までとっておきます」
アルスラーダは寝衣を剥ぎ取り、アールファレムの胸をさらけ出させた。
「アルス……。どこまでするつもりだ?」
アールファレムは頬を薔薇色に染め、アルスラーダの方へ手を伸ばした。アルスラーダは手を掴み、手の平に軽く口付けすると、アールファレムの胸に顔を埋めた。
「アルファ様にお許し頂ける範囲の事です」
アルスラーダの熱い吐息がアールファレムの判断を鈍らせる。息を乱し刺激に抗おうとして、右手を口元に持っていこうとするが、アルスラーダは手を押さえ付けた。
「声を我慢なさってはどこまでお許し頂けるか分かりかねます。どうかご指示をお願いします」
アルスラーダは片方の手でアールファレムの胸を揉みながら、口では真面目な事を言ってのけた。
「……もう無理。アルス……。今夜約束するから、もう勘弁してくれ」
胸の頂きを口に含もうとしたところで、アールファレムから制止が入った。
「えっ! ……もう駄目ですか?」
「朝から刺激が強過ぎる……。アルス、頼む……」
アルスラーダは名残を惜しんで、胸の尖りを軽くぺろりと舐めると、きゅっと手で摘まんだ。
「やっ……! 駄目!」
アールファレムはアルスラーダの頭を渾身の力を込めて殴り付けた。痛そうに頭を擦るアルスラーダの頬を軽く撫でてから、アールファレムは寝台から抜け出した。
「もうっ! 今日も訓練に行くんだろう。用意するから待っていてくれ」
アールファレムにはアルスラーダの苦しみは分からない。中途半端な状態でお預けを食らったアルスラーダは、それを訴える訳にもいかず、暫く目を瞑って下半身を落ち着かせた。
「私もお手伝い致します」
アルスラーダは寝台脇に置かれていた晒しを手に取り、ゆっくり丁寧に胸に巻き付けていった。
「また今夜頂きます」
晒しの上から軽く口付けて、アールファレムに再度殴られた。
「狂暴になってませんか?」
「馬鹿な犬は躾が大事だ」
「私はジーク以下ですか!」
「違うのか」
アールファレムは上目使いで睨んだが、アルスラーダはにやけるだけで堪えた様子はない。
「本当に反省しているのか?」
「勿論です。私室以外では手を出しません。ですからなるべく私室で過ごすようにしましょう。なんでしたら仕事もここで致しましょうか?」
「アルス!」
「冗談です。さぁ早く行きましょう。シルヴィンが待っています」
「うん? 随分仲が良くなったな」
「まさか。訓練相手としては奴が最適です。それだけですよ」
シルヴィンを見直す事などあってはならないのだ。狭量ではない筈だ。奴も許される訳にはいかないと言っていたのだからな。アルスラーダは強引に自分に言い聞かせた。
着替えを済ませて部屋を出ると、ルーヴェルがひっくり返ったジークの腹を撫でていた。
「相変わらず節操のない犬だな」
「人の事が言えるか!」
アールファレムが殴ろうとしたが、アルスラーダは簡単に避けた。
「私はアルファ様限定。ジークは誰でもいいんですよ。違いは明らかです」
「お前は犬相手に何を張り合っているんだ?」
ルーヴェルはジークを抱き上げると、アールファレムに渡した。
「アルファ様、あまりアルスを甘やかしたら駄目ですよ。馬鹿な犬はきっちり躾する必要があります」
「私もさっき同じ事を言ったばかりだ。ジーク、お前の事じゃないからな」
笑いながらアールファレムはルーヴェルに擦り寄ろうとしたが、アルスラーダはむっとして体を割り込ませた。
「早く訓練に行きましょう」
「ルーヴェルもどうだ?」
「たまにはいいですね」
アルスラーダは舌打ちしそうになったが、どちらにせよシルヴィンもいるので二人きりになれる訳ではない。昨日の反省もあるので、仕方なしに同行を認めた。
「いや、お前の許可はいらんだろう」
ルーヴェルが聞き分けがないが、まだ立場の違いが分かっていないようだ。仕方無いので現実を教えてやる事にした。
「アルファ様は私の事が好きなんだぞ」
「だからなんだ。私の事も愛しておられる」
「意味が違うわ!」
恥ずかしくなったアールファレムは二人から逃げようとしたが、ルーヴェルは見逃さない。後ろからジークごと抱き締め、耳元で囁いた。
「アルファ様。どちらの方がより大事かお聞かせ下さいませ」
「う〜。ルーヴェルのばか〜!」
アールファレムは今日も元気に部屋を飛び出していった。ルーヴェルはいとおしそうに後ろ姿を見送り、アルスラーダに後ろから蹴飛ばされた。
「少しは控えろ。また逃げてしまったじゃないか」
「反応が可愛らしいなぁ。ついつい苛めたくなる」
「お前も逮捕してやろうか?」
ルーヴェルはアルスラーダの鼻を思いきり摘まんだ。
「私はちゃんと時と場所をわきまえている。昨日注意したよな。周囲にばれないように気をつけろと……」
ルーヴェルは言いかけて途中でやめた。アルスラーダが十分反省しているのが分かったからだ。どうやら本当に懲りたらしい。
「アルファ様にも、それに……シルヴィンにも怒られた。ごめん」
殊勝に謝るアルスラーダの頭をぐりぐりと撫でた。アルスラーダは大人しく項垂れたままだ。
「ちゃんと分かったならよろしい。ほらアルファ様の為に強くなるんだろ」
ルーヴェルに背中を押され、アルスラーダは走ってアールファレムを追い掛けた。
「あのお人好しめ!」
あの口振りではアルスラーダに反省を促したのは、牢屋に入れられた事より、シルヴィンに怒られた事の方が大きかったようである。昨日はどうやら二人揃って、面倒をかけたようだった。
普通の相手なら借りを返す必要があるが、シルヴィン相手では不要だと結論付けた。あの男は見返りを求めていないだろう。彼はアールファレムの為に行動しているつもりなのだろうが、結果的にルーヴェルやアルスラーダの面倒まで見る羽目になっていた。
ルーヴェルとアルスラーダの関係は友人というより、家族に近いだろう。だとすればシルヴィンはルーヴェルにとって唯一の親友ともいえた。今までアールファレムとアルスラーダを守る事のみを考えていたルーヴェルにとって、心配してくれる親友の存在は有り難かった。
借りを返す必要はない、だが受けた恩義は忘れないようにしようと心に誓ったが、本人に直接礼を言うのは照れ臭かった。分かってくれると思うのは甘えなんだろうか? 自分が他人に頼る日がくるとは思ってもみなかった。だが思ったより不快ではない。相手がシルヴィンだからだろうか?
思案しながら歩くルーヴェルの前をシーツを抱えたブルーノが通り掛かった。フィリップと一緒で楽しそうである。ルーヴェルに気付いて、更に嬉しそうに笑う様がジークのようで可愛らしかった。つまりブルーノに対する愛情はその類いなのだが、ルーヴェルはまだ自覚していない。
「おはようブルーノ。早速頑張っているようだな」
「おはよう。陛下のお目覚めに合わせて、気付かれない内にシーツを交換するみたいなんだ」
「そうか、張り切りすぎてばてないようにしろよ」
頭を撫でながら注意したが、ブルーノに鼻で笑われた。
「俺はルーヴェルと違って若いからな。心配ないさ。フィリップ早く行こう」
かけ去る若者を尻目に老体のルーヴェルは、本気で鍛え直そうかと悩みながら、ゆっくりと練兵所に向かった。
18禁にはならぬ様に気をつけました。これぐらいは大丈夫だと思うのですが……。




