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14 大将軍の謝罪

 夕方に目覚めたアールファレムは空腹を覚え、軽めの食事をとった。ルーヴェルが顔を出したのはちょうど食べ始めた頃だった。


「食欲が出てきたのなら一安心です」


 ルーヴェルが視線でフィリップに下がる様に指示し、アールファレムも頷いたので、フィリップはお辞儀をして退室した。アールファレムは食事しながら首尾を尋ねた。


「どうなった?」

「かなり反省しておりした。もう大丈夫かと思います」

「よしよし。その為に寒中水泳までしたんだ」

「意識をなくす一歩手前までいったのですよ。下手すれば死んでいました」

「大丈夫。ぎりぎりまで舟に掴まって湖面に顔を出していたからな。誰かが近付いてきてから、手を離したんだ」

「その様な事をなさっていたんですか?」

「息が続く訳ないだろう。湖の反対側は滅多に人も通らないから、舟に隠れていたんだ。ハリーに助け出されたところまでははっきりと意識があったんだが、昨日から疲労がたまっていたのかもしれない。当分政務は半日ぐらいにして休養をとるべきだと思わないか」

「別に構いませんが、決済もたまりますよ」

「……」


 食事を終えたアールファレムは問題を片付ける事にした。


「さて大将軍閣下を呼ぶとしよう」

「同席しましょうか?」

「当然だ。二人きりは流石に怖い」


 二人は応接室に移動して、フィリップを呼び出した。


「すまないがシルヴィンを呼んできてくれないか」

「はい。陛下」


 フィリップは笑顔で頷くと、弾むような足取りで出ていった。アールファレムが元気になったのが嬉しかったようだ。


「フィリップはいい子だな」

「そうお思いなら泣かせない様にしてあげて下さいね。可哀想で見てられませんでしたよ」

「うっ! ……後で謝っておこう。ルーヴェル、泣いていたのはフィリップだけか? もう一人いたような記憶があるのだが」

「意地が悪くなられましたな」

「育った環境に問題があると思わないか。兄上」

「子育てに失敗したようです。すぐに怠けようとするし、人を騙すのが趣味ですし、危ない事ばかり仕出かすし、私は気の休まる時がありませんよ」


 アールファレムに勝ち目はなかった。言葉につまるアールファレムを救ったのはフィリップだった。


「陛下。シルヴィン閣下がおみえです」


 走ったのではないかと思うほど早く戻ってきた。実際は呼ばれるのが分かっていたシルヴィンが早くから待機していたのだ。

 扉が閉まるなりシルヴィンは土下座した。おでこを床につけ、無言でアールファレムの言葉を待った。暫くシルヴィンを眺めていたアールファレムは、体が震えていない事に安堵し口を開いた。


「顔を上げよ」

「陛下。本当に申し訳ありませんでした。私の仕出かした事は、謝罪したぐらいで許されるべきではありません。ですが……」


 シルヴィンは命令を無視して、頭を下げたまま謝罪を行ったが、アールファレムは言葉を遮った。


「もうよい。私も長い間、お主を欺いていた。こちらこそすまなかった」

「その様な事仰られないで下さい。私が信頼に値する人間ではなかった、ただそれだけの事です。そして私はその通りの人間である事を証明してしまったのです。罪は不忠者の私に全てあります。どうか私ごときに謝罪など為さらないで下さいませ」

「分かった。ではシウ、今回の事で謝罪はこれきりにしろ。命令だ」


 シルヴィンは頭を上げれなかった。アールファレムは再びシウと呼んでくれたのだ。胸に熱いものが込み上げ、涙が頬を伝い落ちた。


「御意に従います」


 昂る感情を抑え、かろうじて一言だけ発するのが精一杯だった。

 シルヴィンが落ち着くのを待ってから、アールファレムはシルヴィンに椅子に座る様、促した。


「さて何から話すか難しいな」

「アルファ様が男として生きる事になった理由から話されては如何ですか。全てはそこから始まったのですから」


 ルーヴェルの提案はもっともだった。


「そうだな。長くなりそうだ。酒とつまみを持ってこさせてくれ」

「こんな時間からですか。まったく今日だけですよ」


 ルーヴェルは立ち上がり、部屋の外で待機していたフィリップに命令した。


「陛下が嫡子だからではないのですか?」

「全く関係ない。そもそも私が叔父の跡を継いだ事は知っているだろう。父も領主だったにもかかわらずだ」


 そう、おかしな話ではあったのだ。普通は断る筈だった。メフェウスの治める領地の方が広く、豊かだったのだから。結果的にアールファレムは皇帝になり、メフェウスは領地を放棄し、放浪の旅に出た。親子が不仲なのは間違いなかった。シルヴィンがアールファレムに仕えてから、一度も会っていない筈だ。メフェウスは戴冠式にすら顔を出さなかった。


「シルヴィン。アルファ様に関する予言を聞いた事がないか?」

「有名な話ですからね。出生前に有名な占い師が母親を占ったところ、産まれてくる子は国を救う英雄になる。そう予言されたと聞いています。私はあまりそういった事は信じないのですが、予言通りになったのですから、占いも馬鹿にできませんな」

「公表された予言は半分だけだ。産まれてくる子が男なら国を救い、女なら国を滅ぼす運命の子。この下らん予言を信じ込んだのが、祖父だ。元々占いなど下らん事を言い出したのも祖父らしい」

「大変迷信深い方でしたからね。あの方が男として育てると決めたそうです」

「五歳の時に亡くなったからな、私はほとんど覚えていない。生きていたら、一発ぐらい殴っていたな。とにかくそんな下らん理由だ。お陰様で非凡な人生を歩んでいるという訳だ」

「まさか占いが理由でしたか。陛下のお母様は反対なさらなかったのですか?」

「母は反対だったが、女の意見など通る訳がないさ。父は私が不幸になるなら、賛成だったろうし、関心がないからどうでも良かったのかも知れん」

「産まれる前から、不仲だったのですか?」


 思わず聞いてしまった事を後悔したが、アールファレムは軽く笑った。


「気にしなくていい。不仲というより憎まれているんだ」

「そんな! 陛下に何の罪があるのですか?」

「産まれてきた事だ」


 アールファレムがさらりと言ったところで、お待ちかねの酒とつまみが到着した。


「フィリップ、今日はもう下がっていい。あと今日は心配かけてすまなかった」

「御無事で何よりでした。お役に立てずに申し訳ありませんでした」

「お前が悲鳴を上げたから、アルファ様は助かったのだ。お手柄だったな」


 ルーヴェルの言葉にフィリップは面映ゆそうに微笑み、深々とお辞儀して退室した。


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