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105 愛しさと寂しさ

「アルファ様は甘過ぎます。ルーヴェルとシルヴィンの我が儘なんぞ無視したらいいんです。そのしわ寄せがイグナーツ様にいくなんて、信じられません」


 アルスラーダはそう言うが、ルーヴェルからすれば安全な場所にいるアルスラーダからは言われたくない。とはいえイグナーツに押し付けているのも事実な訳で、心苦しくもある。

 三人はイグナーツ達が立ち去った後で、雑談していたのだが、雑談というより反省会になっている。シルヴィンはテオを釈放の手配すべく席を外し、この後はシルヴィンが戻り次第、カミーユの身体検査を行う予定である。


「イグナーツ様は真面目な方だからな。あまり思い詰めなければいいんだが」


 二人の会話を聞きながら、アールファレムは先程のイグナーツとの会談を思い出していた。軽い気持ちで頼んだのだが、皇帝からの頼みを断れる訳がなかった。ましてやテオのことと引き換えとなると脅迫したも同然だった。


「性急だったか。もう少し時期を窺うべきだったな。だが今更後悔しても仕方無い。ルーヴェル、もし話がきても相手はよく吟味してくれよ。イグナーツに相応しい相手でなければ断るようにな」

「オリアンヌ様が嫁いで下されれば万々歳なんですがね」


 ガルフォン側からすればそれが一番望ましいが、当人の気持ちを考えれば有り得ない。ジェラルド王がオリアンヌの思いを優先させたのは娘に甘いのもあるが、何よりアールファレムを評価していた為である。

 ジェラルド王亡き後であっても、今のガルフォンが一番仲良くしたいのがシャリウスであることに変わりはない。遠方の国からアールファレムへの縁談は何件かきていたが、国境を接していない分、優先度は低い。

 オリアンヌに対してはアールファレムは多大な負い目がある。オリアンヌの将来を自分が台無しにしているのは重々承知していた。

 そんなオリアンヌとイグナーツの縁談を望むのは二人に対して失礼だろう。形としては自分が振った相手を従兄弟に勧める訳で、無神経にも程がある。

 イグナーツを政略の道具とすることは以前から考えていた。本人の意思は尊重するつもりではあったが、自分の頼みを断らないだろうということも本心では分かっていた。

 アルスラーダの言う通り、ルーヴェルやシルヴィンの意思は尊重して、イグナーツには頼むのはアールファレムの我が儘なのだろう。実のところシルヴィンはともかくルーヴェルが結婚するのを見たくないのだ。

 ブルーノに対してすら秘かに嫉妬しているくらいなのに、他の女との結婚など我慢出来そうにない。だが本人が結婚を望めばアールファレムに止める権利はない。幸いそんな相手はいないみたいだが、そんな未来など想像したくもない。

 アールファレムは急に寂しくなって隣に座っているルーヴェルの袖を引っ張った。ルーヴェルはアールファレムの表情を読み取ると、アールファレムを自分の膝の上に座らせ背後から抱き締めた。


「どうかなさったのですか?」

「何でもない。でも暫くこのままでいて欲しい」

「アルファ様はいつまでたっても甘えん坊ですね。大丈夫ですよ。私は結婚しません。アルファ様が一番です」


 背後から頬擦りせんばかりに顔を寄せて、アールファレムの不安を消しにかかる。アールファレムが何を不安がっているかなどルーヴェルにはお見通しだった。

 アルスラーダは悔しそうに二人を見ているが、邪魔すべきでないのは分かっていた。でも少しでもアールファレムの役に立ちたくて、先程までアールファレムの座っていた椅子に座り、隣からアールファレムの手をぎゅっと握った。アールファレムはルーヴェルの温もりとアルスラーダの愛情に包まれて泣きたくなってしまった。


「ルーヴェルが結婚するのは嫌なんだ。私にそんな権利はないのに……。私はアルスが好きなのに、ルーヴェルが他の女を好きになるのも嫌なんだ。それでイグナーツに押し付けて……」


 ルーヴェルは支離滅裂になるアールファレムの耳たぶをそっと舐めた。


「やぁっ……!」


 アールファレムは刺激に反射的に体をよじり、軽く逃げようとするが、ルーヴェルは背後からがっちり手を回して逃がさない。アールファレムの弱点に目を細めて更に攻めようとしたが、アルスラーダがルーヴェルの首を掴んで後ろに引っ張った。もし相手がルーヴェルでなければ首をへし折るところである。

 ルーヴェルも流石にやり過ぎを自覚したのか、代わりに頭を撫で出した。アールファレムは再び安心してルーヴェルに背中を預け、ルーヴェルを喜ばせた。アールファレムは肩の力を抜いて、身を預けており、ルーヴェルに全幅の信頼を寄せているのが伝わってきた。


「私もアルスもアルファ様のものです。そしてアルファ様は私とアルスのものです。あっ私はアルスはいりませんのでご心配なく」

「私もお前はいらんわ!」


 ルーヴェルのあまりな言い分にアルスラーダは思わず口を出してしまった。そんなアルスラーダだがちゃっかりとアールファレムの手を両手で包み込んで、軽く撫で擦っていた。


「そんな乱れた関係!」

「アルファ様は意外にすけべですね。何も一緒に寝ようというのではないのですよ」


 アールファレムは耳まで赤くして、背後のルーヴェルにまで動揺を伝えてしまう。

 アルスラーダはルーヴェルの足を蹴飛ばして、言い過ぎないように注意を喚起させた。いくらルーヴェルとでも、そういった意味でアールファレムを共有するつもりは毛頭ない。


「ルーヴェルの意地悪……」


 ぽつりと呟いてアールファレムは隣にいるアルスラーダの方を向いた。やっと自分の存在を気にしてくれたことにアルスラーダは嬉しくなって、両手に力を込めた。叶うことなら、ルーヴェルに代わりアールファレムを膝に乗せたいところである。

 一方のアールファレムも密着した背中より、握られた手の方を熱く感じていた。視線が絡み合い互いの気持ちが高ぶるが、今は二人だけではない。

 ルーヴェルはそんな二人の変化に気付いたが、まったく遠慮するつもりはなかった。何せ最後にアールファレムを抱き締めたのがいつか思い出せないほどだ。この後アールファレムはシャリウスに旅立つ。それに弟分のアルスラーダに加え、親友のシルヴィンまでいなくなるのだ。

 ルーヴェルは更に強くアールファレムを掻き抱くと首筋に顔を埋めた。アールファレムはくすぐったくなり首を竦めたが、ルーヴェルは離そうとしない。アールファレムはルーヴェルの様子がおかしいことに気付き、体の前に回された手を右手で軽く握った。左手はアルスラーダに握られたままである。三人は暫く会話もなく、互いの温もりに包まれて穏やかな時を過ごしたのだった。

 シルヴィンが戻っても三人はひとかたまりになったままである。無論シルヴィンは入室前に声を掛けて、アルスラーダから応答があったから入ったのだが、男二人は動く必要を認めなかったらしい。アールファレムは抜け出そうともがいたが、ルーヴェルにがっちり拘束されている。

 なんとも羨ましい、もとい怪しからん構図だったが、アールファレムの右側が空いていることに気付き、シルヴィンは一瞬、目を輝かせたが、アルスラーダにぎろりと睨まれて仄かな期待を霧散させた。


「仲が良いのは結構ですが、もう少し時間と場所を考慮なさいませ。いくら人払いをしているとはいえ、油断なさいますな」


 アルスラーダからすれば負け惜しみにしか聞こえないが正論には違いない。渋々手を離し、ルーヴェルの首根っこを掴んで引っ剥がした。


「いつまで引っ付いているんだ! 忌々しい用件は早く済ませたい。とっととカミーユの件を片付けるぞ」

「じゃあ早く行ってこい。私はアルファ様と二人でゆっくりと休憩しているから。誰かさん達と違ってアルファ様は決勝まで戦ってお疲れだ」


 そんな言い方をされればアルスラーダは反論が出来なくなる。シルヴィンに至っては初戦で敗退したのだ。渋々二人が黙り込むのを内心でほくそ笑みながらルーヴェルは更に手を伸ばしたが、アールファレムはするりと抜け出した。未練がましい視線を送るが、アールファレムに軽くおでこを小突かれ、やれやれとばかりに立ち上がった。


「新年早々安らぐ暇もないとは何とも忙しない一日だ。宮殿の平穏の為にもアルスの言う通りさっさと片付けるとしよう。二人とも分かっているな。くれぐれも油断するなよ」


 先程のふざけた態度とは打って変わり、真剣な眼差しで釘を刺すルーヴェルに釈然としない二人は生返事で応じて部屋を後にした。

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