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101 アールファレムは趣味が悪い?

 室内に取り残された男達は、それぞれ思うところがあるのか口を開く者はいなかった。頭では理解しても心の中の処理が追い付かない者もいた。受け入れるか受け入れないかという問題ではない。今まで気付かなかったことで非礼はなかったか、今後も同じ接し方でよいのだろうかと自らに問い掛けているのだ。未だ未消化の者もいるようだが、ルーヴェルは差し当たり、一番問題になっている課題を持ち出して諸将の注意を喚起することにした。


「さて何が問題か皆、理解したな。あれではもはや隠し通せるものではない。今まで以上に注意して全力で守り抜いてもらいたい」


 ルーヴェルはわざとアールファレムを不安にさせて、あの表情を引き出させたのだ。シルヴィンはルーヴェルのやり口に不快感を抱きながらも、不本意そうに頷いた。気持ちを弄ばれたようなものだが、アールファレムのことを思えば我慢出来た。

 これまで以上の覚悟でアールファレムへの忠義を新たにする一同の前に一人の男が現れた。


「失礼する。無事に説明は終わったとモニカから聞いたのだが、この様子なら大丈夫そうだな」


 今まで除け者にされていたアルスラーダがようやく入室してきたのだ。室内の反応は様々で、生暖かいものから、やっかみめいたものなど無言の視線がアルスラーダに突き刺さる。だがアルスラーダは覚悟済みだったらしく、涼しい表情を崩すことはない。だが不快だったのだろう、取り合えずライナーの頭を一発殴ろうとして逃げられた。

 無事逃げおおせて得意顔のライナーを一睨みで黙らせる様は凶悪過ぎた。左頬の赤く盛り上がった傷口がより悪人面を際立たせていたのだ。


「こらこらアルス。アルファ様の趣味の悪さを皆に知らしめるのはそれぐらいにしろ」

「ふんっ。お前ら手を出すなよ」


 アルスラーダの視線の先には銀髪の色男がいたが、この場でいらぬ発言をするつもりはないらしく、素知らぬ風で聞き流した。他の者はというとそのような大それたことは想像するのも不敬である。それにくわえてアルスラーダのような厄介な相手が恋敵とあっては、勇気いや蛮勇が必要だろう。

 アールファレムの趣味の悪さを諸将は思い知り、それぞれ複雑な心境で何とか受け入れようと努めるのだった。


「目付きが悪い。口も悪い。性格も悪い。剣の腕はたつ。仕事は出来るか。他にあるかな?」


 クルトが小声で隣のライナーに聞かせるようにアルスラーダの特徴を一つずつ列挙していく。巻き込まれたくないライナーは、さりげなく離れようとするが、クルトは何の恨みがあるのか、しっかりとライナーの肩を抱いて逃がさない。


「クルト。補佐官に対して何を言おうが構わないが、まかり間違えば陛下への侮辱ともとれる発言だな。ふざけるのはよいが、もう少し考えて口にしろ」


 先程シルヴィンも同じようにアルスラーダを批評したが、頭の中だけである。他者がアルスラーダを貶すのに不快感を覚えるのを疑問に思いつつも、クルトをたしなめた。アールファレムが侮辱されたように感じたのだろうか、釈然としないまま厳しい視線を部下に浴びせると、クルトは口をつぐんでしまった。クルトがばつの悪そうな顔で軽く頭を下げると、アルスラーダもクルトには何も言わなかった。シルヴィンに対しては何か言いたげではあったが、人目を気にしてこの場での追及は断念した。


「つまりアルスがアルファ様に相応しい男であれば問題ないな。精進するんだな」


 少し重たくなった部屋の空気を吹き飛ばそうと、ルーヴェルがアルスラーダの背中をばしばしと叩く。


「その通りだな。それとあまり見せ付けてくれるな。皆の前で傷の手当てを受けるのはやり過ぎだ」


 やはり気にしていたらしく、シルヴィンが先程の件を持ち出すと、マルクスやクルトは頷いて賛同した。だがあれはアルスラーダが頼んだ訳ではない。だが反論出来る雰囲気ではないので、素直に首肯し、この話題を終わらせた。


「取り合えずシャリウスに行くにあたり、シルヴィンとビクトールは細心の注意を払うようにしてくれ。身の回りはモニカに頼むが、他者には絶対にばれないようにしろ。それと他の者も人前では絶対にこの話題はしないようにな。特にじぃは声がでかいんだ。ライナー、注意してくれ」


 ルーヴェルは再び真面目な口調に戻り、くどくどと注意しだした。名前を呼ばれていない者はシャリウス組ではアルスラーダで、既に距離を置くよう注意されているので、改めていう必要がないからだ。一方で残留組で名前の上がらないのは、エクムントとクルトの二人で、こちらに関しては信用の問題である。エクムントはいうに及ばず、クルトは今まで黙っていた実績がある。


「例のカミーユの扱いはどうするおつもりですか?」


 穏和なビクトールだが、カミーユがアールファレムにとって好ましくないのであれば排除することにためらいはない。声音にもそれが現れていた。普段温厚な人間の方がこのような場合、往々にして恐ろしくなる。


「この後アルファ様を交えて、三人で会う予定だ。その時に処遇は決めると思う」

「三人で? 勝手に決めるな! 私も同席する」

「最初は二人きりのところ無理やり私の同席を認めて頂いたのだ。大人しくシルヴィンと一緒に待機してくれ」


 ルーヴェルの同席は交渉であれば心強いが護衛となれば心許ない。ルーヴェルはそこそこ腕はたつが、将軍達とは比較するまでもない。相手がカミーユであればアルスラーダでさえ歯が立たないのだ。シルヴィンも納得していないらしく思案顔で懸念を示した。


「宮殿内で滅多な真似はすまいが、奴が自分の身を省みなければ分からんな。身体検査は私も同席するとしよう」


 いずれにしろアールファレムが決めたのなら、従うしかない。だが逆に言えば命令されていない範囲でなら自由に動けるのだ。無警戒のアールファレムを守る為には、強引な手段に頼らざるを得ない。


「そうしてくれると助かる。シルヴィンとアルスはイグナーツ様との会談にも同席してくれ。他の者は解散だ」


 ルーヴェルが手を叩いて退出を促したが、ライナーは残留を希望した。だがシルヴィンが許さず、ライナーは後ろ髪をひかれながら部屋を後にした。シルヴィンは扉が閉まるのを確認すると、アルスラーダに向き合った。先程まで仲間外れにされていたので、情報が不足していたのだ。早く説明しろと顎をしゃくって無言で要求してきた。


「詳しいことは分からんが、どうやら密書を預かっているらしい」

「誰から?」

「普通に考えればオリアンヌ様だろうが、それならいつもの恋文に紛れ込ませればいい。となるとサミュエル王子からかもしれん」


 ルーヴェルは自分で言いながらも、可能性の低さに首を捻った。サミュエルがアールファレムに手紙を送るのは考えにくい。だがオリアンヌとサミュエル以外となると、残るはクリストフ将軍だが、直接アールファレムに手紙を寄越すほどの親交はない。


「どうせすぐに分かることを考えても時間の無駄だ。まずはイグナーツ様との会談を済ませよう。どうせアルスがこっぴどく痛め付けたテオの処罰に関してだろう」


 シルヴィンの言うのはもっともだったが、ルーヴェルとしては、内容はさておき差出人ぐらいは見当をつけておきたいところである。それと誰からか不明だが密書を預けるほどにカミーユが信用されているのも腑に落ちない。およそ信頼からは程遠い男なだけに、普通であればギースに託してもよさそうなものだ。見るからに頼り無い男ではあるがカミーユよりはましであろう。

 ただ考えても仕方無いのは事実である。頭を切り替えてイグナーツ達との対談に向かう三人だった。

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