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怪 談   作者: 冬月 真人
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【幸せの遺書・1】


何から話せば良いのか……


英美が亡くなった。

資産家の息子と結婚をして愛娘を授かった英美は、高層階の窓から飛び降りて亡くなった。

英美は英雄の兄の娘。

透の従姉妹だ。

【幸せです】

遺された手紙はそう締めくくられていた。



【私は本当に幸せです。ありがとう、ありがとう。】

こう記した手紙を残して家を出た泰子は川下で翌朝発見された。

英雄の兄嫁で透の伯母だ。

英美の死からおよそ10年後のことだった。


芳樹は透の母方の従兄弟だ。

和恵の兄の次男坊。

ある朝、透の通勤路に救急車とパトカーが停まっていた。

(こんな朝早くから…)

午前5時。

ふと見ると踏切脇の歩道に停められた車から人が運び出されていた。

その1時間後、妹の涼子からの訃報でそれが芳樹だと透は知った。


郵便受けに入っていたのは従姉妹の雪絵からの手紙だった。

透は意外な差出人の名前を不思議に思いながら封を開けた。

雪絵からの手紙は年賀状も含めて初だ。

【私は沢木の家の人達に何度も救われました。透兄ちゃんにも沢山沢山助けてもらいました。私は幸せだなってそう思います】

こう記された手紙を読んだ透は悪寒を覚えた。

過去の不幸を連想してしまった。

雪絵は和恵の姉の娘。

英雄の方とは無関係だが、透にはどうしても無関係には思えなかった。


悪い予感は的中するもの。

その翌週、雪絵は天国へ旅立った。

オーバードーズ。

2歳の娘を寝かしつけた後、自らも眠るように……

透はまだ手紙の返事すら書いていなかった。



雪絵以外は自死として扱われた。

理由は遺書の存在だった。

幸せと記された遺書。

遺書の無かった雪絵だけは事故か自死かは不明とされた。


(まさか…)

透は雪絵の葬儀の後、貰った手紙を何度も何度も読み返した。

(そうだよな)

透は確信した。

雪絵は間違い無く事故死だ。

この手紙は読みようによっては別れの手紙にも取れるが、幸せと言いながらその真逆と思われることはしないだろう。

いや、それ以前に愛する娘を残して逝くようなことをする訳が無い。

そう強く確信した透に、ふと疑念が湧き上がった。

(英美姉さんと泰子おばさんは?)

芳樹が遺した手紙には自分の死後の処理についてのみが記されていた。

理由や別れの言葉も無く、ただただ後の事だけが記されていた。

他に言葉が無いのは極端だが、死後の処理について書かれていない遺書は遺書なのだろうか?

透は芳樹が何かを教えてくれたような気がしていた。






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