【幸せの遺書・2】
疑問を持つと調べずにいられないのは透の悪い癖。
透は英美と泰子の家を訪ねた。
仏壇に線香をあげて手を合わせる。
故人の思い出を話しながら件の遺書について尋ねた。
残念ながら英美の遺書は残されていなかったが泰子の遺書は読ませてもらう事が出来た。
そこには感謝と幸せについて記されていた。
死を予感させる言葉は何も無い。
ただ、これを書いた結末を知っているだけにひたすらに前向きな手紙に怖さを覚えた。
そして改めてこれは遺書では無いと確信した。
英美の家では話しだけを聞くにとどまったが、旦那さんもあれが遺書には到底思えなかったと話してくれた。
その足で帰宅する途中、母親の和恵から携帯に着信が入った。
『あんた今どこにいるの?』
「今、泰子おばさんのトコを出たから4時間位掛かるかな」
『あっそう。なら晩御飯は何処かで食べてくるんでしょ。母さん達、今から出るからさ』
「どっか行くの?」
『芹山の叔父さん、覚えてる?』
「旅館の叔父さん?」
『そう、旅館の叔父さん。先月から行方不明だったでしょ』
「いや、知らんけど」
『行方不明だったのさ。なんか書き置きを残して居なくなってね、昨日遺体が見つかったんだって』
「ふ〜ん」
『もう火葬は済ましてあるそうだから、明日の葬儀に出て帰るわ』
まあ、確かに遺体の状況からすれば身元と事件性の有無さえ分かればすぐに荼毘に付すのだろう。
それにしても妙に死が充満しているような気がしてならない。
電話を切った後、得体の知れない何かに足を糸で絡めとられるような薄気味悪さを感じずにはいられなかった。
それからしばらく車を走らせて、透は再び携帯を手にした。
そして和恵に電話をした。
『はいはい』
「ああ、母さん。まだ着いてないよね」
『お父さんが道を間違えたからね』
意地の悪そうな声を出す。
きっと英雄は仏頂面をしているだろう。
「あのさ、旅館の叔父さんの書き置き!なんて書いてあったか一字一句漏らさず覚えてきて」
『見せてもらえたらね。聞けるような状況じゃないかもしれないし』
「そこは上手く空気をかいくぐって宜しく」
そう言って電話を切った透は遺書が共通したと仮定して、英美と泰子と雪絵と旅館の叔父さんの共通項が無いかを考え始めた。




