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怪 談   作者: 冬月 真人
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【ドライブレコーダー・後編】


「おっ、鹿だ!焦ったぁ」

峠の2合目辺りだっただろうか。

路肩の脇の法面のりめんで子鹿が草を食べていた。

秋から冬の夕刻から翌朝にかけては鹿の出没が運転手の脅威だ。

相手が子鹿でもぶつかれば被害は甚大だ。

運送会社によっては修理代を給料から引かれる一大事。

もう22時を回っている。

睡魔と鹿との戦いの幕が明けた。


鹿ストレスに睡魔の限界。

朝も早くから走っていると日が沈んだだけでも眠たくなる。

そうなればついつい例の罵詈雑言も飛び出す始末。

トンネルの中に入れば鹿の危険は少ない。

悪態に集中して暴言に磨きがかかる。

実はこれ、声を張り上げるので眠気覚ましも兼ねてるストレス解消。

眠気もストレスもスッキリしたところでトンネルの出口に差し掛かった。


「うわぁ!」

トンネルを出た瞬間、透は叫ぶと同時に右へハンドルを切った。

少し先に対向のトラックが居たが構わず反対車線へ逃げた。

トンネルの出口の路肩に自転車を停めた男が立っていた。

シルバーっぽい色のウインドブレーカーを着た帽子の男。

常識外だ。

この時間、自転車で走って山頂に着くのは日付が変わる頃だろうか。

零時頃、千メートル超の頂上の気温は5度も無いだろう。

街灯も歩道も満足な路側帯も無い峠道。

昼間でも危険だというのにあり得ないバカだ。

驚きが治まった透に次に訪れた感情は怒りだった。

「ふざけんな、あのボンクラ!崖から滑落して熊にでも喰われろ!」

喉が切れんばかりにシャウトした。


おかげかどうか、すっかり眠気も飛んだ透は会社に着くなりイカレタ自転車の話をした。

「なんだそれ、アタマおかしい奴だな」

その場に居合わせた連中は口々にそう言った。

そしてそのイカレ野郎を見てみようとドライブレコーダーの再生をすることになった。


『……熊にでも喰われろ!』

「ああ、この前だね」

透は自分のシャウトを聞いてそう言った。

映像を巻き戻すとトンネル出口の直前。

「あ、ここから」

再生が始まった。

トラックがトンネルを出る。

『うわぁ!』

透の叫び声とセンターラインを越えるトラック。

……だが自転車野郎の姿は無い。

ドライブレコーダーはかなりの広角で撮影されている。

トンネル出口脇の路肩もしっかりと撮影されていた。

が、何も映されてはいなかった。


「いやいや、居たんだって確かに。シルバーっぽいウインドブレーカーを着た男が自転車の隣に立っていたんだよ」

透がそう訴えると「じゃぁ」と言って配車係が更に巻き戻した。

もしかすると記憶違いかもしれない。

2個手前のトンネルから再生が始まった。


「あ………」

透が何かに気付いた。

が、時すでに遅し。

『っつーか眠たいってよ。馬鹿みたいに仕事入れてんじゃねーよ馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!(以下略)』

寒い空気が流れた。

聞かせる為に吹き込んだ言葉だが、これは気まずい。

苦笑いするしか無い2人の視線の先、人も自転車も存在しない映像が流れていた。


毎年死亡事故が起こるこの峠道。

何が居ても不思議ではないが、このタイミングはやめて欲しいと思う透だった。




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