【地震雲・前編】
2003年9月21日。
日曜日だというのに透は深夜から仕事をしていた。
十勝支庁管内の浦幌を抜けて直別に差し掛かる頃には夜が明けていた。
トラックのバックミラーに映る空。
透は思わず窓を明けて後ろを見た。
真っ青な秋晴れの空に、まるで白線を引いたように幅の広い真っ直ぐな雲が東西に伸びていた。
人生で初めて見る雲だった。
納品先の釧路に到着したのは午前7時前。
荷物を降ろすとトンボ帰りで釧路を後にした。
国道38号線。
海岸沿いを走りながら海側に目を向けるとあの雲があった。
(本当に雲なのか?)
今朝見た時から4時間以上経過しているのに場所も形も変わらない雲。
そんな雲を今まで見たことが無い。
そして空にはこれ以外の雲がひとつも無かった。
更に海岸線を進むと北海道、太平洋側の沿岸の形を一望出来る場所に出た。
雲は襟裳岬の向こうから釧路市の沖の辺りを結ぶラインで伸びている事が分かった。
「なんだろ?でも美しいな」
思わず独り言。
そんな言葉が口をつくほどに秋空の透明な碧に美しく映えるコントラストだった。
そしてその日の夕方。
美しかったその雲も次第に形を崩していった。
最後はトグロを巻いた無数の蛇のような雲が天に鎌首をもたげるように列を成していた。
夕陽に真っ赤に染まる西側と、灰から黒へグラデーションする東側。
背筋が寒くなるなんてものでは無く、本能が恐怖するような異様を透は感じた。




