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怪 談   作者: 冬月 真人
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【運命・後編】


最初の店に戻った。

「ごめんなさぁい!」

大きな声で謝ると伝票を1枚差し出した。

こういう時は勢いが大切だ。

真摯に謝るとミスの割合以上にお互いに深刻な気持ちになる。

透は明るく威勢良く謝ると駆け足でトラックに戻った。

もう30分近く時間をロスしている。

透はチェーンを外すのを諦めた。

外すのは10分も掛からないが、これ以上の時間の浪費は勿体無い。


西廻り。

急がなくては最終店着時間がとんでもない事になる。

もちろん悪天候で延着する旨は会社から連絡してあるが限度がある。

透は一路西の峠を目指した。

さすが唯一通行止めになっていない峠。

圧雪路面で走りやすかった。

それだけにチェーンが悔やまれる。

峠を難なく抜けると湖の近くの温泉街を走る。

そしてその先は緩やかな下りの大きな右カーブ。

先の見えないカーブを曲がった先、乗用車が停車していた。

慌ててブレーキを踏むがトラックはそのまま真っ直ぐ進む。

アイスバーンでタイヤがロックしていた。

乗用車の前にはタンクローリー。

このまま透が突っ込めば大惨事は免れない局面だった。

透は瞬時に判断を切り替えて対向車線に逃げようとブレーキから足を離す。

そうして視線を向けた対向車線には先客が居た。

透と同様に止まれなかったトレーラーがジャックを起こして停車していた。

『くの字』に曲がった車体は奇跡的にどの車にも接触しないで止まっていた。

そんなミラクルに感動する余裕も無く、透は更なる判断の変更を迫られていた。

そうして出した結論は『再びロックさせて乗用車に向かう』だった。

そしてもうひとつ。

『追突が必至の時にはハンドルを切ってトラックを路外に転落させる』

この二本立てだ。

幸いにして降り積もった雪が壁となり、路外に転落させても助手席のミラーとボディーの傷程度で済むと判断した。

一気にブレーキを踏む。

トラックがフルロックで乗用車に迫る。

真っ赤なブレーキランプが視界から消えた。

もう3mも無い距離。

だがスピードは落ちている。

透は止まると判断した。

ハンドルはそのまま真っ直ぐ。

2m………1m……

止まった!

見ると50cmも無い距離。

1mmでも手前なら事故にはならない。

透は胸を撫で下ろした。

そして今自分が止まれたのは、偶然にもはずせなかったチェーンのおかげだった。

トラックを降りて先を見たが先頭が見えないほど長い渋滞の車列。

とりあえずアマチュア無線のアンテナの上がっているトラックを探すと運転手に声を掛けた。

「何があったんですか?」

透が尋ねると案の定、その運転手は情報を持っていた。

「雪崩だよ。3、40分前に乗用車が飲まれたらしいぞ。ここいらは圏外だからな、警察も消防もまだ来てないわ」

背筋が寒くなった。

伝票を渡し忘れていなければ透が直撃を受けていたかもしれない。

透は運転手に礼を言うとトラックに戻ってこの半日を反芻した。


あの時、伝票を渡していたら…

忘れたことに気付かなかったら…

チェーンをはずしていたら…


運命の女神の微笑みがシニカルなものだったなら無事ではいられなかったのだろう。




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