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怪 談   作者: 冬月 真人
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【能力・後編】


「母さんね、変な夢を見たのよ」

(見ないで下さい)

朝食の席、透は正直そう思った。

いや、夢を見るのはいい。

だがそれを話すと現実に起きるのだ、彼女の場合。

和恵はそんな透をよそに話し続ける。

「山道で運転していると、前をバスが走っているの。もちろん母さんは免許を持っていないから『これは夢だ』って分かったから運転を続けたのよ。そしてしばらく走っていると、目の前を走っていたバスが消えたの。……もしかするとね、近々バスの事故。それも転落事故とかが起きるかもしれないね」


その数日後、岡山県で55m下の谷底にマイクロバスが転落する痛ましい死傷事故が発生した。

たまたまワイドショーを見ていた透は『事故』と言わず『転落事故』と言った和恵に恐怖すら感じた。


そんな和恵はその年に起きた旅客機撃墜の予知夢(第16話)以降、予言めいたことは言わなくなった。

もう視なくなったのだろう。

透は残念な気持ちと安堵した気持ちの両方を抱いていた。


それから数年。

透は怖い夢を見て深夜に目を覚ました。

全身が汗で酷く濡れていた。


夜の海をボートで漂っていた。

初めは楽しく漕いだり漂ったりしていた透は突然不安になりはじめた。

するとその不安を具現化するように黒い巨大な塊が波の向こうから現れてボートを呑み込むと、透は暗い海に投げ出されてしまった。

と、そこで目が覚めた。


翌朝、起きて居間に降りるとテレビのニュースは明け方に起きた潜水艦と漁船の衝突事故を伝えていた。

(これ……)

続けて事故を起こした同型の潜水艦の資料映像が流れる。

(黒い塊)

(ああ、俺はこれを視たのか)

透は和恵にこの事を話そうかと思ったが、後出しジャンケンと思われるのが嫌で話すのをやめた。

そしてふと思った。

(母さんは、視なくなったんじゃなくて言わなくなっただけなのかもしれない)


失われたと思っていた和恵の能力。

透は自らの転落事故の時に確信した。

救急車で運び込まれた地方の病院。

会社から連絡を受けた実家から英雄と涼子が搬送先に駆け付けて来た。

「母さんは『兄ちゃんのケガは大したこと無いよ』って留守番してるわ」

涼子はそう言って全く身動きの取れない透に言った。

4mの高さから後ろ向きでコンクリートの上に落下。

搬送当日は痛みで動けなかった透だったが、検査の結果は骨にも神経にも脳にも異常は無く、かすり傷すら無かった。

本人ですら落下直後は半身不随も覚悟していたというのに……


きっと和恵には視えているのだろう。

透はそう確信した。







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