【足止め・後編】
だが現状は鍵が無い。
前日の記憶を手繰るが、記憶ではやはり玄関に置いた筈だった。
携帯のように鳴らす訳にもいない。
仕方が無い。
とりあえず車内にあるスペアを使う事にした。
透のミニは特注のオープンカー。
これは実は外から幌を開ける事が出来るタイプだった。
だから大胆にもスペアが車内にある。
ここなら絶対に紛失しないだろうという大雑把な発想だ。
透は幌を外すと内側から鍵を開けた。
乗り込んでチョークを引く。
SUのキャブは季節を問わずチョークスタートが原則だ。
そして数分の暖気。
アイドリングのバラつきが安定するのを待ってミニを出した。
車道を走り出したのと同時、和恵が玄関から飛び出して何かを叫んでいる。
透はミニをUターンさせると玄関に横付けした。
「どうした?」
そう言うが早いか和恵が取り乱しながら喚くように話した。
「ばあちゃんが危篤だって!」
祖母が入院していた病院は家から15分程度離れた場所にあった。
が、入院とは言っても検査入院の筈だった。
(そんなバカな)
透は一瞬そう思ったが、すぐに和恵を乗せると携帯を渡してミニを走らせた。
助手席の和恵は病院までの道中、透の携帯であちこちの親戚に連絡を回していた。
透達が駆け付けた時には医師が心臓マッサージからカウンターに切り替えていた。
ベッドの傍らで見守るじいちゃんの前でばあちゃんの身体が電気ショックに跳ねる。
透はその様子に声を出すことすら出来ずに立ち尽くしていた。
結局、ばあちゃんの臨終はその後確認された。
じいちゃんと初孫の透と次女の和恵だけがばあちゃんを看取る事になった。
「母さん、携帯と鍵……ばあちゃんが隠したのかなぁ」
「そうかもしれないね」
「残念だったけど、見送る事が出来て良かったよ」
そう言った透に和恵は無言で頷いた。




