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怪 談   作者: 冬月 真人
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【切れる】



すれ違いざま、対向のトラックの箱の上から氷の塊がこちらへ飛んできた。

右カーブの橋の上。

かわすことも叶わずに直撃した氷塊は、透の運転するトラックのフロントを大破させた。

眠気覚ましに開けていた運転席の窓。

コンマ数秒違えば透を直撃していたかもしれない。

そうなれば多分死んでいただろう。

直撃で死ぬか、橋から落ちて死ぬかの違いはあるだろうが。


この稼業をしていれば人の生き死にには多少なりとも関わってしまう。

それも悲惨な死に方の……


ある日、透は念珠を渡された。

最近、やたらと危険に見舞われる透を案じた家族からの贈り物だ。

「なんかジジ臭い」

腕につけた透の感想は家族にも神仏にも無礼千万だった。


偶然なのかそれとも不運のラッシュを抜けたのか、以来平穏無事な生活となった。

ニアミスすら無い。

「やっぱりコイツのお陰なのだろうか」

そう思い始めて暫く後、事件は起きた。


いつものようにトラックを走らせていると腕で念珠がはじけた。

バラバラと翡翠のビーズがフロアマットに落ちる。

今はどうしようもない。

透は少し先の道の駅に入ると散らばった翡翠を拾い集めた。

そして切れたゴムに再び通すとゴムを結わえて腕を通した。

少しキツくなったが仕方ない。

こんなものがイキナリ切れるなんて気持ちが悪い話。

元に戻して腕にあれば贅沢は言わない。

透はトラックを出すと会社に向けて走らせた。


その日から最初に迎えた休み。

透は人を迎えに行くために自家用車に向かった。

車に乗り込もうとドアに手を伸ばした瞬間、足元に翡翠が散らばった。

「あっ」

前回と違い今度は屋外。

小石やら何やらと混ざり合い、もう探せない。

時間を掛ければ回収出来るかもしれないが、人を迎えに行かなくてはならない。

透は念珠を諦めることにした。


気持ちが悪いので運転は慎重だった。

一時停止や交差点の安全確認は教習車並に丁寧だった。

そんな甲斐あって目的地には無事に着いた。

あとは駐車スペースに停めるだけ。

丁度良い場所を見つけた透はバック駐車する為に車を一時停車させた。

ギアをRレンジに入れる。

ブレーキから足を離そうとした刹那、もの凄い衝撃音と同時に車体が左右に大きく揺れた。

驚いてキョロキョロすると、右側の視界が消えていた。

いや、正確に言えばふさがれていた。

運転席側の窓の半分をRV車の背面タイヤが塞いでいる。

慌てて離れたRV車から人が飛び降りて来た。

透もカチコミの勢いで飛び出すつもりだったが、ドアが開かずにそのまま肩を窓にぶつけた。

助手席からモサモサと降りる。

もう勢いも迫力も無い。

外から運転席を見ると前も後ろもドアが完璧に潰れていた。

背面タイヤのリムに書かれたメーカーの刻印が、透の車にも刻まれていた。

そうとうな鬼バックでの激突。

特攻なら大戦果だろう。

とんでも無い勢いだったことを想像するのは容易だ。

背面タイヤの無いRV車だったら大怪我の可能性もあった。


透は事故処理の後、タクシーを呼んだ。

そして念珠を貰いに寺へ向かった。

切れたことと事故が無関係だとは思えない透だった。






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