【こわい話】
涼子は連行する観光バスの2号車に乗務していた。
その日は夜間回送で、翌朝に観光客を乗せる予定でT市へと向かっていた。
涼子は早々に座席で眠っている。
今はどうなのかは知らないが、当時は運転手とガイドの力関係は年齢に関係無くガイドの方が圧倒的に上だったらしい。
回送や空車ならば運転手が運転していてもガイドは眠ることを許されていた。
そんな安眠を運転手の大きな声が妨げた。
叫ぶと言うより驚いた声。
それに驚いて起きた涼子が前を見ると1号車が激しく蛇行していた。
「えっ!?何、何?」
涼子も状況が把握出来ない。
起き抜けだから当然だろう。
今、何処を走っているのかもまだ理解していない。
「1号車どうぞ!」
運転手は業務無線のキャリアを握って呼び掛けた。
「どうした1号車!1号車どうぞ!」
運転手が必死で呼び掛けている。
1号車はまだ蛇行運転を続けていた。
居眠りとは明らかに違う蛇行。
何が起きているのかさっぱり分からなかった。
前を注視していた涼子の目に見知った建物が見えてきた。
開発局の建物だ。
(N峠)
涼子はようやく自分が何処に居るのかを把握した。
その時だった。
1号車の運転手から応答が帰ってきた。
『ババァがフロントガラスにへばりついているんだ!こいつ振り落とさねぇと!』
「はぁ!?」
涼子と運転手は同時に声をあげた。
さすが運転手は慣れたもの。
そんな返事でもしっかりキャリアを握って送信していた。
が、それ以上の返信は無く1号車は相変わらず蛇行している。
蛇行を始めた1号車の後ろを付かず離れずに追走していた2号車は、速度を緩めると車間距離を取り始めた。
「なんか、わけ分からんから離れますね」
運転手は涼子にそう言ってキャリアを置いた。
ババァの正体が幽霊だったのか、過労から幻覚でも見たのか、危ないクスリでも使っていたのか……
まあ、本物の人ではないことは確かだろう。
1号車は現地でガイドを乗せる予定だったので第三者による証言が無い。
真相は藪の中。
いずれにせよ、こわい話だ。




