【黒い人】
透はよく見間違いをする。
その多くは影だ。
視界の端に映る影。
人間は視野角の限界付近の映像は黒っぽい影になるそうだ。
何故か透の場合、視界の端で映像を捉える事が多い。
別段目と目が離れている訳でも、人より視野角が優れている訳でも劣っている訳でもない。
至って標準のはずだ。
運転中は確かめる術も無いが、歩いている時や静止している時には二度見の類いで確認する。
大抵が高確率で何も無い。
要はただの見間違いだ。
リアルな何かでも幽霊でもない。
まったくもってドキッとするでもない退屈な日常だ。
そんな退屈な日常に刺激を求めて稀にパチンコ屋に行く。
もう既に以前に打った機種は影も形も無い。
それどころか右に打ったり戻したり、激アツが熱くなかったり、強スイカがスルーされたりBIGが全然BIGじゃなかったり……
浦島太郎はこんな気持ちだったのだろうかと、思わず亀図柄に話し掛けそうになる透だが唯一変わらない海は嫌いだった。
退屈をしのぎに来ているのだから知らない台を打つのがポリシー。
食指が動く台を求めてホールを歩く。
最近はシマひとつが同じ台で統一されていないことにもやや驚く。
全ての通路を歩かなくてはならない。
もしかすると良い運動に……なるわけ無いかと自嘲する透だった。
そして見つけた面白そうな台は大抵が満席だ。
(ああ、此処もダメか)
そう思って通過しようとする足が止まる。
(アレ?確かに誰か座っていたはずなのに……)
よく見るとその台はひしめき合う人達の中、まるでエアポケットのように空き台になっていた。
確かに黒っぽい人が……
(ああ、アレか)
たまにホールで見かける影を見たようだ。
透はそれを『黒い人』と命名している。
(それじゃぁ、いただきます!)
心の中で元気にお礼を言って座る。
貸玉500円。
黒い人の居た台の125発の銀玉はレールガン並みの破壊力を持っている。
そしてゴルゴや次元、冴羽獠の放つ弾丸のように大当たりを射抜く。
黒い人が座っていた台を打った日の透は負けたことが無い。
その日どんなにハマってドロ沼に居ても、黒い人が座っていた台に座れば起死回生。
絶対に負けない。
ただ、ふと考えて怖くなる。
(黒い人が座っている時に座ったらどうなるのだろう)と。
(それは絶対にしてはいけないのだろうな)と思う透だった。
18歳以上の人なら見掛けた事があるかもしれない。
黒い人ではなくて不思議な台。
(どうして誰も座らないの?)
そう思ったことは無いだろうか。
それはもしかすると黒い人が座っているのかもしれない。
くれぐれも打つのは黒い人が席を開けた後に……




