【お札・後編】
(金縛り?)
動かない身体とは裏腹に意識は明瞭だった。
指先すらピクリとも動かせない。
(まずいなぁ)
そう思っているところに呻き声が聞こえてきた。
(出た)
一瞬覚悟をした。
が、その呻き声が美香のものだと気付いていく分、気が楽になった。
それが功を奏したのか身体が一気に軽くなる。
沙月は飛び起きると隣で苦しげに喘ぐ美香を見た。
脂汗だろうか。
流れるでもなく小さな水泡のような汗が結露のように浮き出ていた。
「美香!美香!」
沙月は美香の身体を激しく揺さぶった。
美香は閉じていた目を見開くと、まるで水面に上がったかのように口を開けて大きく息を吸った。
美香の胸がゆっくりと大きく上下する。
沙月の顔を見上げて何か言いたげだが、まだ声が出せない様子だった。
少ししてようやく「金縛り」と小さく言った。
「私も金縛りだった」
沙月もそう言ってその場にへたり込むように座った。
美香はようやく起き上がると電気とテレビを点ける。
明るくないと不安だった。
「あとはもう、眠ることすら出来ずに2人で徹夜よ」
「恋バナ、恋バナ」
沙月に続けて美香が言うが、『恋バナ』と言う言葉に反してテンションが低かった。
「行かなくて良かったぁ」
由佳は安堵の声を上げた。
「っつーか、普通はお札の貼ってある部屋で何かあるものじゃないの?」
沙月は由佳を責めるように言う。
顔は笑っているが半分は本気で責めている。
「お札はね、進入禁止の標識なのよ」
涼子はそんな2人に笑いかけて話を続ける。
「霊道……霊の通る道ってのがこの宿の部屋に重なっているのかしらね。そして理由は分からないけど、私達の部屋で道が途切れてしまっていた。だからそこに溜まって行き場を無くした霊達が心霊現象を起こしてしまった」
「それでお札!」
由佳がポンと手を叩いた。
「貼った人は除霊のつもりだったと思うの。お札は霊を除くんじゃなて寄らなくする為のもの」
「じゃぁ、私が見た夢は……」
「夢じゃなかったのかもしれないわね」
青ざめる沙月に涼子はイタズラをする少年の表情でそう言った。




