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怪 談   作者: 冬月 真人
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【速度】



「こんにちは」

「こんにちは」

娘の涼子と買い物に出掛けようと和恵が外に出ると散歩中の女性に挨拶をされた。

「知ってる人?」

すぐ後に出た涼子は女性の背中を見送りながら和恵に尋ねた。

「知らない人でも挨拶をしたら気持ち良いでしょう」

本当はされたのだが、まあ正論だ。

「さ、早く行かないとタイムサービスが終わっちゃう」

2人は車に乗り込むとスーパーに向かった。


家を出て50m。

最初の角を左に曲がった。

そして30m走った先の角を右に。


「あら、随分速いのね」

先ほど挨拶をした女性が前を歩いている。

「母さん変だよ。あの人、速すぎる」

涼子は声をひそめるように言った。

「そう?」

「今、家を出て何分経った?分どころか30秒だって経ってないよ」

「・・・あの黒人の人で100m何秒?」

「ボルト?8秒台とかじゃないの?ってゆーか母さん。ボルトは走ってるし、私達の3倍は速いよ」

「じゃぁ普通は歩いて何秒なの」

「知らない」


普通は100mを歩くと1分40秒程度。

簡単な算数だが、人間の歩行速度4km/hを秒速に直すと1.1m/s。

とっさに出て来る人はまずいない。


「でもやっぱり速いかぁ」

和恵もなんとなく納得したようだ。

「速いよ」

「でもそれよりも分からないのはあの人は誰なのかしら?」

このあたりは築40年からなる地区でも古い住宅街。

基本的に全く知らない人なんてのは居ないはずなのに和恵はあの女性を見たことが無い。


追い抜きざまにもう一度顔を見ようと思った和恵だったが、意に反して涼子はその手前を左に曲がってしまった。

女性はそのまま直進して歩いている。

このまま30mも歩けばメインの道へ出るだろう。

涼子の運転する車は次の交差点を右折。

広い空き地を挟んで女性と平行する道路を走る。

このまま走ると女性の一丁西側からメインの道路に出る。

和恵はやはり女性が気になってしまって振り向くと、何故か女性は先ほどの場所からほとんど動いていなかった。

今も歩いている様子なのにほとんど進んでいない。

「涼子、やっぱりあの人なんか変ね」

そう言ってもう見るのをやめた。


あれからまだあの女性とは再会していない。






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