【お札・前編】
「涼子先輩、同室よろしくお願いします!」
後輩の由佳は仕事を終えた後だというのに元気がいい。
北海道のバスガイドは乗務員専用の宿泊施設に泊まるのが一般的だ。
例に漏れず今夜も専用の宿。
涼子は荷物を置くと先ずは一服。
22歳を過ぎても中学生に間違えられる涼子は筋金入りの愛煙家。
スッピンの時には小学生と間違えられたこともある強者だ。
24歳でパチンコ屋で補導された時には家族中で大爆笑した。
肺胞の隅々に煙が行き渡り、ヘモグロビンに結びついたニコチンが脳に染み渡るころ、由佳の奇妙な行動が目に入った。
額縁の裏を見たり花瓶をずらしてみたり…
「何をしてるの?」
「へへへ」
涼子の問い掛けに由佳は下手くそなごまかし笑いで答えた。
しょうがないな。
涼子はそんな表情を見せてから「額縁の裏板を外しなさい」と言った。
言われた通りに裏板を外した由佳は「ひゃぁぁぁ」と独特な悲鳴を上げて額縁に手を合わせて「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返した。
(南無阿弥陀仏じゃないの?)
涼子はそう思ったがあえて触れなかった。
「涼子先輩、私、美香達の部屋で寝ようかと思います」
「あら、どうして?」
「だって、絶対ヤバイじゃないですか。涼子先輩も隣の美香達の部屋に行きましょうよ!」
「私はこっちの部屋でいいわよ」
「先輩ぃ」
由佳はもう泣きそうだ。
「強制はしないわよ。この部屋で良いと思うけど、修学旅行じゃないからね。明日の仕事に差し支えないなら部屋は自由よ」
「分かりました。涼子先輩が行かないなら私もこの部屋に残ります」
由佳は覚悟を決めた表情に変わった。
その後、夕食を済ませお風呂にも入ったふたり。
就寝しようと布団に入った涼子の隣で炭酸の抜ける勢いの良い音がした。
見ると缶ビールを開ける由佳の姿。
売店で何かを買っていたようだったが、レジ袋の中身は全て酒とつまみ。
「それ、ひとりで飲むの?」
涼子は恐る恐る聞いた。
「朝までグッスリ作戦です。涼子先輩も飲みます?」
「私は飲まないからいいわ」
涼子はニコチンはウエルカムだがアルコールは受け付けない身体だった。
「気持ちは察するけど、ほどほどで寝なさいよ」
涼子はそう言って最後に「おやすみ」と付け加えると眠りに落ちた。




