学校デビュー
「そういやイヴはなんだってこっちに来たんだ?」
登校中、ふとそんなことを疑問に思い、聞いてみる。
思えば昨日は俺のことばかりはなした気がする。
「家出。」
「は?」
「だから家出だって。これまでも何回かしてきたんだけど、近場だといっつも
見つかって連れ戻されちゃうからさ。今度は簡単には追いかけてこれない人間
界に来たってわけ。」
「反抗期ってやつだな。親御さんも大変だろうに。」
事情が分からないから、これ以上言うことはないが。
悪魔の世界にも色々あるんだろう。
「ところでお前、その背中の羽……」
「どう?可愛いでしょ。悪魔といったらこれだよね。」
背中から生えていて、ぴょこぴょこと動いてる悪魔の羽。
アニメとかでもよく見そうないかにも悪魔の定番だ。
こういうのを見てると、こいつは人間じゃないんだなということを改めて思う。
見た目はただの幼女だからな…………ではなく、
「可愛くねぇよ!いいから人に見られる前にさっさとしま……」
「……あっそう。」
冷たく返ってきた言葉。
まずい、機嫌を損ねたか?
そう思った瞬間、音を立てて黒くでかいものが眼前に広がった。
先ほどまでとは打って変わって、どす黒く巨大なエネルギーの塊のような翼が
背中から展開されていた。
「待った、可愛かったから!そりゃもう見惚れるくらいに!だから戻そうか!」
「うんうん、でしょ。機能性的にはあの大きい翼のほうが戦闘力も高いんだけ
どね、やっぱこっちのほうが可愛いでしょ。」
「マジであれ見られてたら、本当にまずかったぞ……」
見た目も邪悪なものだったのだが、あの翼からは超濃密度の殺気の塊のような
ものが漏れ出ていた。
一般人がいたら気絶するレベルだろう。
「まぁ、でもご主人様が困るだろうから、今は我慢してあげる。」
「しまえるのかよ……」
今までのやり取りはなんだったんだ。
どっと疲れたぞ。
「頼むから学校では大人しくしといてくれよ。ただでさえ俺には風当たりが強
いんだからさ。」
「大丈夫大丈夫、とっておきの手を用意してるから。」
「とっておき……?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「どうも、皆さん妹のイヴです!(ニコッ」
「……………………」
どんな奥の手かと思えば、これかよ……。
アッシュブロンドに深紅の瞳のお前とどう血がつながってるんだ。
教室に入ってきてからいつも以上にざわついていたのに、今の一言で揃ってぽ
かーんとなってしまった。
余計なことは言わなくてもいいものを。
俺の近くにいるだけで誰も話しかけてくるわけないんだから。
「うぉぉぉぉ、何この子めちゃくちゃ可愛い!」
「へぇ、イヴちゃんっていうんだ、お人形さんみたいだ。」
…………なんなんだ、こいつら。
可愛けりゃ見境ないってか。
確かにイヴは幼すぎるという点を除けば、髪も肌もとても綺麗にされているし
小さな体躯も可愛らしさを醸し出している。
そうか、第一印象があんな血まみれのナイフを持っている感じだから気づかな
かったが、一般男子にはかなり愛らしく見えるらしい。
「うわー、マジで可愛いなぁ。」
「イヴちゃん、俺の妹になってくれよー。」
「ごめんね、あたしのご主人様は一人だけだから。」
そう言ってぎゅっと俺の腕をとってくる。
いや待て、なんか今とんでもないNGワードを口走らなかったか?
「ご主人様!?」
「あんな小さい子にそんな呼び方させてんのかよ!羨ましい!」
……最悪だ。
元から落ちるとこまで落ちてた評判ではあるが、できれば犯罪者まがいのレッ
テルは避けたかった。
しかし、羨ましがるってどうなんだ。
一瞬でこれだけの人気を獲得してしまうんだ。
カリスマ性みたいなものを秘めているのだろうか。
どちらにせよ、イヴの人気が上がるにつれて俺の評判が落ちていくという反比
例の法則が出来上がってるような気がしてならない。
「おいイヴ、その辺にしといてくれ。これ以上ぼろを出すな……。」
「あたしは普通にしてるだけなのにー。」
どの口が言うか。
イヴの猫かぶりは明らかなのだが、本性を知らないと絶対見抜けないと言い切
れるほど完璧な演技ではあった。
ろくな大人にならんな。
「イヴちゃんの手柔らかそーう、ちょっと握手しようよ。」
調子に乗った男が近づいてきたときだった。
「……触るな、人間の分際で。」
ひどく冷えきった声で。
可愛くて控えめな女の子はどこへやら。
今のイヴは殺気立った悪魔の顔をしていた。
その呟きは小さく、俺とその近づいてきた男くらいにしか聞こえなかったらし
いが、こいつは一生のトラウマだろうな。
「ほら、もうすぐ授業始まるから。」
「はーい、ご主人様。」
お気の毒に。
泣いてたのは見なかったことにしてやろう。
これ以上の犠牲を出さないよう俺はイヴを連れて、自分の席で授業が始まるの
を待つことにした。
一躍アイドル。




