部下が百人に
――その翌日。
雪華は宮城前に呼び出され、慶昭帝の前で礼をとることになった。
何やら状況がよく分からぬのだが、朱翠影がここまで付いて来てくれただけでなく、以前一度だけ合った部下九名のほかに、ぞろぞろぞろぞろ、たくさんの官吏がなだれ込んで来た。彼らは雪華を頂点として整然と並び、慶昭帝に対して頭を垂れている。
玉座に着く慶昭帝が、雪華に告げた。
「救国の巫女よ――期待した以上の働きである」
「ありがとう存じます」
「褒美に部下を増やしてやろう――追加で九十、どうだ少ないか」
……ん? 今なんておっしゃいました?
「今日からお前の部下は百名に増えたぞ」
ええぇ……俯いていた雪華はそのまま固まり、顔色を失う。
……百名? あの、何度も言いますけれど、私は団子屋の娘なのですが……。
しかし逆らうことはできない。
慶昭帝の言葉は神の言葉である。
* * *
帰路につきながら、朱翠影が慰めてくれた。
「今日は出世祝いに、ごちそうを作りますね」
慰め……いや、なぜか朱翠影は喜んでいるぞ。
雪華が出世すると、彼は嬉しいのだろうか?
「どうしてお祝いなのですか」
拗ねて尋ねれば、彼の口角が悪戯に上がる。
雪華は思わずそれに見惚れた。
朱翠影が、笑った……。
「天上天下唯我独尊――それはあなたのための言葉です」
「朱殿?」
何を言っているの?
「あなたは地に伏せていた龍で、起きたばかり、まだまだ天高く昇れますよ。慶昭帝とは違う形で、人々を導ける。ふたりは共存できるし、互いに補い合うことで、世に安寧をもたらすことができるはずです。行けるところまで行きましょう――私はずっとおそばでお守りいたしますので」
百名でも持て余しているのに、もっと部下が増えると、そうおっしゃる? ありがたくない言葉……。
雪華は子供のようにむくれ、
「朱殿、私は今、我儘な気分です。点心は薄紅と、橙と、緑の色をつけて華やかにしてください。それで私は今日、果物しか切らないと決めましたから」
八つ当たり気味に可愛げのないことを言ってみた。
「おおせのままに」
ところが朱翠影はなんだか満足そう。
「……私が我儘を言った時は、たまには怒ったらどうですかね? 朱殿」
「あなたが我儘だったことなんて、過去にありましたか?」
爽やかな風が吹き抜ける中、ふたりは仲良く並び、自邸に戻る。
故郷の豆妹に、今夜手紙を書こう。船乗りになりたい豆妹が喜びそうな、面白いものが西市で買えたから、それも一緒に送るつもりだ。
雪華はふと瞳を細め、ほっと息を吐く。
ああ――今ではここが、安息の地。
隣を見れば、朱翠影、あなたがいる……なぜか心が弾み、口元に自然と笑みが浮かんだ。
【後書き】
中華後宮ものを初めて書きました。
歴史・文化を勉強してみると奥が深く、『超難しい、覚える量が多い、しんどい』と何度も遠い目になりました。
とはいえ難しいぶん学びが多く楽しかったですし、中華後宮×恋愛×サスペンスミステリーのジャンルは、書いてみたら自分に合っているのかもしれないと思いました。現時点でプロットがいくつかできていることもあり、本作の続編含め、中華後宮ものはまた挑戦してみたいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
飛頭蛮退治も完了し、キリが良いので一旦完結とします。
嘘から出たまことで雪華は『救国の巫女』として認められ、朱翠影はなんだかんだ幸せそうですね。
☆☆☆☆☆を押して、評価ポイントを入れていただけると嬉しいです。
それではごきげんよう。




