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【書籍化決定】後宮の縁切り女官  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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姜道士の失態

 

 戦の時は、衝撃的な光景が繰り広げられたことだろう。生き残った人が目撃した内容をおそろしげに語り、「戦場ではいくつも首が飛んだ」という共通認識が、地域にしっかり定着していく。

 そして「無念のまま亡くなった者たちは、首だけの状態になっても、この世を恨んでいる。仲間を増やそうとするかも」――そうした物語性が加わり、闇夜で見た鳥の影におびえる人が出てくる――結果「飛頭蛮《ひとうばん》が出たぞ、俺は確かに見た!」となるわけだ。

 こうしたことはほかの戦場でも同じことが起こりえる。

 だから飛頭蛮《ひとうばん》は全国各地で有名なあやかしとなったのかもしれない。


 あるいは――「飛頭蛮《ひとうばん》は実在するからこそ、大勢が見ているし、大勢が知っている」という可能性もあるのだが……。


 ここで雪華はあることに気づいた。


「姜《キョウ》道士が三人女官に数珠をあげた際、『飛頭蛮《ひとうばん》除《よ》け』だと説明したそうです。黄《おう》賢妃《けんぴ》が飛頭蛮《ひとうばん》を目撃する『前』に、数珠のやり取りがあったらしいので、どういうことなのか疑問に思っていました。しかし姜《キョウ》道士からすると、『あなたたち、飛頭蛮《ひとうばん》が出ることで有名な沶竟《いけい》に行くのなら、お守りをあげますよ』というわけで、筋は通っていますね」


「矛盾はなさそうです。姜《キョウ》道士が飛頭蛮《ひとうばん》騒動を計画したなら、女官に数珠は渡さない気がします」


 そうね……確かにそう。

 寺院で人首に似たものを飛ばして、黄《おう》賢妃《けんぴ》をおどかす作戦を立てたなら、一緒にいる女官も本気で怯えたほうが、姜《キョウ》道士にとっては都合が良い。

 彼女が黒幕ならば、三人女官に魔除けの数珠を渡すはずがない――……。


 色々考えていくと、『飛頭蛮《ひとうばん》は実在するし、これまでに何人も若い娘を食っている』という説が、一番しっくりくる気がする。

 後宮に……すでに入り込んでいるのか? 獰猛な飛頭蛮《ひとうばん》が。


 朱翠影が静かな呟きを漏らした。


「しかし……姜《キョウ》道士も残酷なことをしますね。魔除けの数珠があるのなら、こっそり黄《おう》賢妃《けんぴ》に渡しても良かっただろうに。皇后に気づかれないよう、そのくらいのことは自分の裁量でできたはず。数珠に効力があるかは知らないが、少なくとも沶竟《いけい》にいた時、黄《おう》賢妃《けんぴ》がそれを着けていれば、飛頭蛮《ひとうばん》を目撃しても、気を強く保てたでしょう。今こうして、病んで寝込むこともなかった」


 それを聞き、雪華は胸を痛めた。

 黄《おう》賢妃《けんぴ》が実際にはどんな人なのか、それは知らない。

 雪華が知っているのは、頬がこけ目が落ち窪み、怯え切っていた可哀想な女性だ。


 ――桃義《とうぎ》から聞いたのだが、姜《キョウ》道士は三人女官それぞれと直接会い、手渡しで数珠を贈ったそうだ。

 もしも桃義《とうぎ》にまとめて三つ渡していたなら、彼女は憎んでいる同僚の魏祥《ぎしょう》にはあげなかっただろう。

 姜《キョウ》道士は桃義《とうぎ》から興味深い話を色々聞けたので、味をしめて、ほかの女官にも恩を売っておこうと考えたのかしら?

 黄《おう》賢妃《けんぴ》が後宮を出るまでは、この三人が役に立ちそう……そう思ったのかもしれない。


 けれど魏祥《ぎしょう》は姿を消した。

 彼女が飛頭蛮《ひとうばん》に襲われたのだとしたら、これは完全に姜《キョウ》道士の失態である。

 魔除けの数珠には効果がなかったことになり、姜《キョウ》道士には神通力がないという結論になる。そうなるとこの先、飛頭蛮《ひとうばん》退治で彼女に期待できることは、何ひとつない。


 つまり雪華が成功させるしかない。

 たとえ自分が失敗しても、姜《キョウ》道士がいる――この考えは捨てよう。


 * * *



「それで――黄《おう》賢妃《けんぴ》はあの晩、具体的に何を目撃したのですか?」


 朱翠影が尋ねた。

 リリ……と軽やかに鳴いていた庭園の蟋蟀《こおろぎ》が、いつの間にか沈黙している。

 闇深く、湿った風が吹き抜けていく。

 雪華は表情を失い――……ひとつ息を吸い、静かに語り始めた。



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