これまでに三人の女性が消えている
「姜道士が三人女官に数珠を与えた真の目的は、なんだったのでしょう?」
朱翠影が疑問を呈した。
飛頭蛮除けのお守りと言って渡したらしいが、気難しい姜道士が三人女官を守ろうとしたのは、確かに不思議だ。
その点について、桃義から聞いた話で、興味深い事実が分かっている。
「桃義は自分の手柄だと主張していました」
「手柄?」
「彼女は姜道士を尊敬しているようです。今仕えている黄賢妃の悪口を言ったら、姜道士に気に入られたらしく、色々と面倒を見てくれるようになったのだとか……。黄賢妃の出家先を見学するため、東北部の沶竟に旅立つことも事前に報告していたみたいです。それで旅のお守りとして、姜道士から数珠をもらったそうで」
「なるほど」朱翠影の視線が鋭くなる。「桃義が話したことで、姜道士は、黄賢妃の旅の目的地が沶竟であることを知っていたわけか……」
「それが何か?」
雪華の問いに、朱翠影が答えてくれた。
「高位妃の旅程は、周囲に詳細が漏れぬよう、機密扱いになっていたはずです。黄賢妃が出家するということは誰もが知っているけれど、実際にどこへ行くのか、いつ旅立つのか――そういった詳しい内容は、公開されていません」
「なるほど……皆に具体的な行き先まで知らせる必要はないですものね……安全上、問題も出そうですし」
「そのとおりです。もしかすると姜道士は、皇后に頼まれたのかもしれませんね――『黄賢妃がどこへ出家するのか、調べておいてよ』と。そこで姜道士は、女官の桃義を手なずけて、色々聞き出すことにした」
「皇后お気に入りの道士からお守りの数珠をもらったら、桃義は有頂天だったでしょうね。旅程以外にも、色々話していそうだわ」
「姜道士は強情な人ですが、必要とあらば、そういう親切な演技もできるので、余計に厄介なのです。桃義のように自分が賢いと思い込んでいる人間は、意外と簡単に騙される――姜道士にとってはよい鴨だったでしょう」
朱翠影の話は考えさせられた。
確かに桃義はよい鴨だ――雪華が姜道士の立場でも、秘密を聞き出したいなら、桃義を狙っただろう。
大柄で物柔らかな豊紈は、一見押しに弱そうだが、実は芯が強くて本心を簡単に出さない気がする。
ところで……皇后が黄賢妃の行く先を知りたがったのは、どうしてだろう?
もうすでに皇后の勝ちは確定しているのに……まだ負かし足りないということ?
それとも単に、皇后は用心深い性格で、黄賢妃が後宮から完全に去るまでは気を抜かないつもりなのかしら?
だとすると行先などを探ったのも、『念のために』そうしただけあり、今回の飛頭蛮騒動とは無関係の可能性もある。
考えを巡らせていると、朱翠影から驚きの新事実を知らされた。
「寺院がある沶竟地方は、ここ最近、いくつか重大な問題が起きていました」
重大な問題……?
「それは黄賢妃が飛頭蛮を目撃する前ですか? あとですか?」
「前です」
朱翠影が小さく息を吐く。
「沶竟では過去半年、若い女性が行方不明になる事件が続いていました。いずれも家柄の良い娘ばかりです。これまでに三人の女性が消えています」
「いなくなった女性たちは、後宮と関係がありますか?」
「いいえ、地元で暮らしていた女性が行方不明になったので、後宮とは無関係です」
「飛頭蛮が食べたのでしょうか?」
「さあ……どうかな。沶竟という場所はもともと、飛頭蛮の目撃談が多い地域でした。昔、戦でたくさんの首が刎ねられたという歴史があり、そこから派生した怪談なのかもしれません」
そういうことか……。




