表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/83

朱翠影が笑った?

 

 ――雪華の話に耳を傾けていた朱翠影が、何か物言いたげにこちらを見てくる。

 苦言を呈したいわけではなさそうで、むしろ面白がっているような顔つきだ。

 雪華は卓上の果物に手を伸ばしながら、横目で朱翠影を眺めた。


「なんですか、その顔」


「いえ――雪華殿らしいな、と思いまして」


 ……雪華殿らしい? 何が?

 彼が続ける。


おう賢妃けんぴから『私は取り憑かれているか?』と尋ねられた時、答えは『はい』か『いいえ』の二択になるが、『はい』という答えはえきがないので却下――そんなふうに理路整然と消去法で決めるところが、面白いと思いました」


「あのですね、朱殿」


 雪華は少しむくれた。


「私、普段は嘘が嫌いなんですよ」


「ええ分かっています」


 本当に?


「嘘が癖になると、親しい人が離れて行きます。ただ――正しい目的がある時は、清濁併せ吞む必要がある――その場合、私は正直さを封印します。人をおとしめない限りは、『嘘も方便ほうべん』と言いますしね」


「そういう考え方、私は好きですよ」


 ……ねえ本当に?

 雪華は半目で朱翠影を流し見る。


「朱殿……また私を無理に甘やかそうとしていませんか」


「いいえ、無理にではなく、率先して甘やかそうとしています」


「私をだめ人間にするつもりですね?」


「そんなつもりはないですが、だめ人間になった雪華殿を見てみたい気もします」


 とうとう認めた……! やはり朱翠影は私をだめ人間にしようとしている!

 雪華は俯き、むくれながら果物を口に運んだ。耳……赤くなっているかも……朱翠影が変なことを言うからだ。


「雪華殿、話の続きは?」


「今、果物を食べているのです」


「すみません、では待ちます」


「………………」


 ちょっともう、絶対怒らないな、朱翠影!

 この事態に雪華は内心震え上がり、やがて情けない顔で彼に謝った。


「こちらこそすみません……話を続けますね」


 よいの空は段々と闇に覆われていき、互いの輪郭が段々とぼやけてくる。

 灯籠のあかりはおぼろだ。

 はっきりと目視できない中で、隣にいる朱翠影が、口角を上げてくすりと楽しげな笑みを零した気がした。

 今……笑った?

 彼は笑わない人だと思っていた。出会ったその日から、こちらを見る瞳はいつも優しかったけれど、こんなふうに悪戯な感じは見たことがない。

 でも……笑ったと思ったのは、気のせいかしら。「かれは」……の薄暗さの中に、ふたりはいるのだから。

 雪華は瞬きをひとつして、ほう……と息を吐いた。


 そう――話の続きをしなくては。

 昼間後宮で、ふたりの女官から聞いたことを、彼に伝える必要がある。


 ――大柄な女官、豊紈ほうかん

 ――小柄な女官、桃義とうぎ


 豊紈ほうかんおう賢妃けんぴと共に、飛頭蛮ひとうばんを目撃した。

 そして桃義とうぎは当日、寺院に同行していたものの、現場には居合わせなかった。こちらが求めていないのに、豊紈ほうかんとの話し合いに同席したいと、自分から申し出た。


 雪華は金銀器に注がれたなつめ水で唇を潤し、三者面談がどんなものだったかを説明し始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ