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イシュト大陸物語 ~終着の地~  作者: 明星
聖王都への旅路
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二つ名の段

「大したもんだ」

やってくるなり拳王は驚いたような、呆れたような、そんな表情でギルとロザーナを見た。

「だがまぁお嬢ちゃんなら、それもおかしな話じゃあねぇか」

ギルとロザーナがそれぞれ特異個体と思われる魔物を倒した話を聞き、拳王は始めこそ驚いていたものの、思いの外すんなりと受け入れていた。

「それじゃあまぁ、話を続けてくれや」

わりぃな、と言いながら拳王が椅子に座る。

拳王が話の途中で部屋に入って来たため、ラドリアスの話が中断されてしまっていたのだ。

だがその事を露ほどにも気にする様子はなく、ラドリアスはギルとロザーナに向き直り話をし始めるのであった。


ここは討伐隊にある一室。

拳闘場からの魔物の逃走という事件から一夜明け、ギルとロザーナはラドリアスに呼ばれて討伐隊へと赴いた。

昨夜ラドリアスが2人のもとに戻ってきたのは、それぞれの戦いが終わってしばらく経ってからであった。

その為、その頃には2人共これ以上起きていられないほど疲れ果てていた。

「話は明日にして欲しい」とギルはラドリアスに伝え、その日は皆無言のまま宿へと帰っていったのだ。

一夜明け、容赦のない早朝からの呼び出しで2人が討伐隊へ向かうと、そこにはいつもの様子で既にラドリアスが待っていた。

「では、昨夜何があったのかを教えてくれ」

部屋に案内され、椅子に座るなり顎を撫でながらラドリアスが聞いてきた。

ギルとロザーナは交代で昨夜の戦いの話をし、逆に拳闘場で何が起きたのかを問うた。

「魔物の脱走だ」

と短く答えた後、ラドリアスは「自分が拳闘場に着いた時にはもう終わっていたのだが」と前置きした上で何が起きたのかを話してくれた。

「ゴブリンにやられた拳王を討伐隊に任せ、君達のところへ戻ろうかとも思ったのだが」

消えた魔物2匹がどこへ行ったのか分からない。

再び襲撃され、万が一にも街の英雄とも言える拳王を殺させるわけにはいかない。

そう判断したラドリアスは他の討伐隊員と共に医者の下へ拳王を送り届けていたのだと言う。

「ラドリアスさんが無事で良かったです」

とギルは安堵の気持ちを伝えた。

ラドリアスが向かった方向から魔物2匹がやってきた時、もしかしたらという悪い想像をしてしまっていた。

あのリザードマンの持っていた剣がラドリアスのものではなかった事で、一応の安心はできていたのだが、こうして無事な姿を見て、何があったのかを知ることができて、ギルは心から安心することができたのだった。

「それを言うのなら、僕は君達2人がこうして無事でいてくれたことがとても、喜ばしいよ」

それもほぼ無傷で、とラドリアスは口元だけで笑いながら両の手を打った。

ほぼ、というのは念の為ロザーナの腕に包帯を巻き、首から三角巾で吊り下げていたからだ。

実際のところ、ロザーナの腕に異常はない。

しかし大きくへこんだ手甲があるにも拘わらず腕が無傷では、それを怪しむ者が出てくるかもしれない。

その為格好だけでも、とギルの提案でロザーナには一芝居打ってもらうことにしたのだった。

直後、部屋の扉が開き拳王が現れた。

既に大まかな話は聞いているようで、部屋に入ってくるなり拳王は「大したもんだ」となんとも言えない表情をしたのだった。


「魔物を連れてきた商人、か」

一通り昨夜の説明を受けた後、ラドリアスからの問いに拳王は「なんでそんなこと」をと思っていそうな顔で、それでも必死に思い出そうとしているように天井を睨みながら唸っている。

「女、だったのは間違いねぇな」

だがなぁ、と拳王は眉間に皺を寄せながら続ける。

「何せ外套と頭巾で全身隠れてたからなぁ。顔も体つきも、よく分からねぇんだよな」

どうしてそんな質問を、と思うと同時にギルは(どうしてそんな得体の知れない相手から危険な魔物を仕入れるようなことをしたのか)と不思議に思った。

「いや、お前達の言いたいことはよく分かる」

拳王は1人、何を納得しているのかうんうんと頷きながら続ける。

「でもよ?この街をもう一回盛り上げるには、今までのやり方と同じじゃあ駄目だと思ったんだよ」

拳王は剃り上げた頭をぴしゃりと叩く。

肋を痛めているのだろう。

包帯が巻かれた上半身を動かすたびに、拳王は僅かに顔を歪める。

「その時はな、それが一番いい考えだと思ったんだ。お前達だって、そういう時くらいあるだろ?」

確かに、とギルは思う。

いつだって、その時の選択が合っていたのか合っていなかったのか、それが分かるのはいつも後になってからだ。

その時その時では、いつも最善の手を選んでいるつもりでいる。

あの夜だって、とヴェラと戦ったあの夜のことを思い出しても、ギルにとってあの時の選択はあの場では最善のものだった。

「それ自体を、悪いことだと言いたいわけではない」

勘違いしないでくれ、とラドリアスは落ち着いた口調で続ける。

「僕の考えだが、その商人、ヴェラ君だったということはないだろうか」

ラドリアスの言葉に、ギルは一気に自分の状況を思い出したのだった。


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