第8話
「人を探してるんだがね」
逞しい体つきの男はそう言って微笑む。
それは悪意のない笑顔に見えた。ここがもしも街の酒場であれば、何の警戒をすることもなく酒を酌み交わすことができそうな、そんな笑顔だった。
「俺の仲間が、あんたの連れがそうなんじゃないかって言うもんだから」
確かめさせてもらえないか、と男は目を細めてギルの後ろに立つ女性を見た。
ギルは灰色の外套の下で斧槍を握りしめている。
もしも男がおかしな動きをすればすぐにでも斬りかかるつもりでいた。
だが、「おいおいおいおい」と男はうなじに手を当ててうんざりしたような声を出した。
「全然違うじゃねぇか」
何を見てるんだあいつは、とここにはいない誰かの悪態をついている。
そういえば、とギルは自分たちの後ろにいた者たちが3人だったことを思い出した。
だが今、この場には2人しかいない。
であればその「あいつ」というのがまだどこかにいるはずだ。
呆れたように「あいつ」について話す2人の男を横目に、ギルは周辺に意識を走らせる。
だが聞こえてくるのは木の弾ける焚き火の音ばかりだった。
「いや、すまねぇ。邪魔をしたな」
ひとしきり「あいつ」について愚痴り合ったあと、意外にも男はすんなりと身を引いてくれるようだった。
ギルとしてもできれば人間は殺したくはない。
魔物と違って死体が残るし、何よりもどんな人間にも家族や友達がいる。
そう思うと野盗や悪党の類でもやはり殺すことは躊躇われた。
ほら行くぞ、ともう一人の男に声を掛け、その場を立ち去ろうとしたが、今度はそのもう一人の男が口を開いた。
「なぁバリー、いっそこいつでいいんじゃねぇか?」
どこに逃げたのかも分からない、と男は言う。
これだけ探しても見つからないのであればもう死んでいるのかもしれない、とも。
不吉な話だ、とギルはわずかに安堵していた気持ちを引き締め直した。
「だがよ、俺だって相手は選んでるつもりだぜ?」
バリーと呼ばれた男は気乗りのしない様子で再度女性を見た。
しかしもうひとりの男は引かない。
「あんたの気持ちは分かるけどよ、時間もねぇだろ?」
そう言って男は夜空を見上げた。
バリーも少し遅れて空を見上げたため、それにつられてギルも見た。
そこには半月が輝いていた。
バリーは唸りながら下を向き、頭を掻きながら考えを巡らせているようだったが、ふと顔をあげてギルを見た。
「なぁ、あんたとその娘は家族か何かかい?」
しかしギルは答えない。答えることによってどのような情報も与えたくないからだ。
「随分と無口な兄ちゃんだなぁ」
バリーは苦笑しながら、しかし不自然に会話は続いていく。
「じゃあ全くの、赤の他人ってことかい?」
その違和感にギルはもしやと後ろを振り返る。
すると女性がバリーの質問に対して頷いているところだった。
前もって話を合わせておけばよかった、と思ったがもう手遅れだった。
「俺はこの女性を街まで送り届けなくてはいけないんだ」
女性が答えてしまったのであれば、とギルはとうとう口を開いた。
「なるほどなぁ」
バリーは独りごちる。そして何かが腑に落ちたようだった。
「普通はよ、自分の娘を旅に出す時に、その護衛を同じような歳の男一人に任せるってことはしねぇよな?」
な?と隣の男に話し掛け、俺ならそんなことはしねぇ、とバリーは笑う。
「つまりだ、あんたらは所謂あれかい?」
訳有りってやつだ、と笑うバリーの笑顔は一見すると先程までの笑顔と何ら変わりなかった。
だが雰囲気が違う。
バリーはすでにこちらに何かをするつもりでいる、そんな気配を感じた。
「俺はすでに武器を抜いている」
身の危険を感じたギルは警告する。
「お前達が何かするつもりなら全員殺す」
殺されたくなければここから立ち去れ、と。
しかしバリーと隣の男はギルの警告に従うつもりはないようだった。
「すまねぇな。俺たちにも事情ってもんがあるんだよ」
そう言ってバリーと男は腰からぶら下げていた片手剣に手を伸ばした。




