第7話
日が傾き始めた頃、いつの間にか遠く後方に馬に乗った人影が現れていた。
それはギル達からかなり距離をとり、つかず離れずの速さでずっとついてきている。
荷台に座る女性にさり気なく確認してもらったところ、どうやら3人からなる集団のようだった。
ギルは試しに荷馬車の速度を少し落としてみた。
そうすると相手も速度を落とし、追いついては来ない。
明らかに俺たちを狙っている、とギルは周りを警戒したが、今のところ辺りは開けており奇襲される心配はない。
こういう手合が目当てとするのは欲を満たすものか金になるものの場合がほとんどだ。
しかし食料や貴金属を狙うのであれば商人の荷馬車を襲うだろう。
ということは、とギルは自分のうかつさに嫌気が差した。
狙いが荷台の女性であることに気づいたからだ。
虫唾が走る話だが、獲物が女であれば欲も金も両方を満たすことができる。
もっと慎重になるべきだった、と安全な道だと疑わず、油断していたことを後悔した。
「あの人達は、悪い人なの?」
ギルの顔が険しくなったことに気づいた女性が心配そうに話しかけてきた。
しかし、狙いは君だと伝えることは憚られ、ギルは悪い人達である可能性が高いとだけ伝えた。
狙いが物ではなく人なのであれば明るいうちは手を出してこないはずだ。それはあまりにも目立ちすぎる。
とはいえこの荷馬車では馬に乗った者達を引き離すことはできず、下手に脇道に入ろうものなら尚更逃げ場所を失うことになるだろう。
だから、今は警戒していることを悟られないようにしながら進み続けるしかなかった。
今後一番危険なのは野宿をしているときである。
唯一の希望はその際に他の旅の者たちと場所を共にできることだったのだが、残念ながらギルのその願いが叶うことはなかった。
すっかり日は落ち、これ以上の移動が危険なほど辺りは暗くなってしまった。
そうなるともう街道沿いで野宿をするしかなくギルは敢えて周りを木に囲まれている場所を選んだ。
ここならば暗闇に紛れ後ろから近づこうにも落ち葉で足音を消すことはできず、また木々が邪魔をして馬に乗ったまま襲ってくることへの心配もないと踏んだからだ。
焚き火を設置し、警戒している素振りを見せず、いつもどおりに振る舞った。
「もしも戦いになって、俺が飛び出したら、君は全力で逃げてくれ」
夕食の準備をしながらギルは小声で女性へと話しかける。
戦いに巻きこめば誤って傷つけてしまう場合がある。
そうならないためにも、その場から全力で逃げてもらいたいとギルは思ったのだ。
「私も、戦いましょうか?」
しかし女性からは思い掛けない言葉が返ってきた。
「戦えるのか?」
ギルの質問に女性は分からないと言う。ただそう思ったから言葉にしたのだと。
なくしてしまった記憶の中には、もしかしたら戦いの知識や経験があったのかもしれない。
ギルは半信半疑で荷台においてあった短剣を女性に渡し、試しに振ってみてもらった。
しかし、その動作はあまりにも覚束ない。それどころか危うくさえあった。
扱えない刃物を持たせることは、身を守るどころか逆に自分の命を脅かす道具になってしまう。
ギルは短剣を受け取ると「やっぱり君は逃げてくれ」と苦笑した。
直後、ガサガサと足音が聞こえ、焚き火の向こうから2人の男が現れた
「こんばんは」
そう言う男の声は低く、中年よりももう少し歳を取っているように見えた。着ているものは普通の服なのだが、その服越しに見て取れるほど男の体は逞しく引き締まっていた。




