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案内グダグダリオン

慣れないベッドにも関わらずあっさりと眠りに落ちた俺は、夢の無い微睡みの中を一晩中渡り歩いていた。

基本的に、俺は深い眠りというものに就かない。理由は特に無い。何せ意図的にやっていることではないからだ。

逆に、泉火は深く深く眠りに就く。

それこそ死んでるんじゃないかと疑いたくなる程深く、深く眠る。

それは泉火が常に想像と創造を繰り返しているからであり、常人の数倍の疲労度を脳にもたらすからである。大学病院の研究に協力した際のデータからも、それは明らかであった。

ふと、思う。

気付けばまた、泉火のことを考えている。やはりこんな俺でも、実の姉には愛情のようなものを感じていたのだろうか?

………………。


沈殿していた空気の僅かな流れが、寝巻きの襦袢から出た手足を撫でる。

俺はその感触を擽ったく感じながらも、未だ休眠を求める身体は静かに惰眠を貪り続けた。

そんな怠け者を宥めるように、そっと肩に温かいものが触れる。

「先生、起きてください。終酔先生」

耳に心地良い、涼やかな声。

「ん、ぅ…………」

惰眠を邪魔されて、無意識に不満気な声が漏れる。

「あら。寝起きは良い方だと聞いていたのですが……」

困ったような声が頭上から落ちてくる。鼓膜が音を捉え、ガラクタのような脳で理解する。聞き覚えの無い、女声。

「ーーーっ!」

途端、警戒心が爆発的に引き上げられ、寝転がっていた脳を叩き起こした。

「ひゃわっ!」

カッと目を見開き、侵入者を睨みつける。そのまま瞬発力だけでベッドの端まで下がり、咄嗟に掛け布団を引き上げ、身体を隠した。

「しゅ、終酔先生っ?」

困惑したような声が届く。その声の主は、思った通り女性だった。俺の反応に驚いた様子で、両手を所在無さ気に彷徨わせている。

「あっ……」

そして、そんな彼女の服装を見て、俺は自分が醜態を晒していることに気付いた。

彼女の服装は、昨夜も見かけたこの聖堂に勤める侍女のもの。顔立ちから十代後半ぐらいか。昨夜言っていた、俺を起こしに来た人間だろう。

俺はそこまで覚醒した頭で理解したところで、浮かべていた警戒の表情を消し、ベッドから降りた。

「起こしに来たのか」

「へ?あ、えぇ」

侍女にしては間の抜けた声が返ってくる。俺は襦袢は替えずそのままに、クローゼットから綺麗に畳まれた振袖を取り出した。昨夜着ていたものとは違い、白を基調とした明るい印象の代物だ。柄は椿の花。鮮明な紅が白地に映える。

それを羽織りながら、俺は後ろで所在無さげに立ち尽くす侍女に背を向けたまま言った。

「朝は一人が好きなんだ。これから起こしに来るときは、ノックまでにしてくれ」

「は……はいっ」

袂を揃えながら、帯を当てる。一応王族との謁見だ。手を抜くにはリスクがある。プライベートなら伊達締めだけして上着で誤魔化すのだが……。飾り帯を結ぶ、面倒なのだがねぇ。誰かにやって欲しいなぁなんて思うが、和服の着付けなどこの国の人間には出来よう筈もない。

帯の位置に狙いを定めると、腰紐を締めて伊達締めを巻く。

「ふおぇ〜……。一見シンプルなのに、着るのって大変なんですねぇ」

ふと、帯の力加減に悪戦苦闘していると、後ろからそんな声が聞こえた。

「まだいたのか。君は侍女のくせに暇なんてあるようだが、生憎と俺は君の暇潰しには興味が無い」

「うぇっ……すいません」

謝る彼女だが、つくづくその様子は不自然だ。客分に対する態度としては、彼女の立場は無礼に当たる。

まぁ、私は迷惑さえ無ければ、どんな態度だろうと気にしないが。

伊達締めの上からどうにか飾り帯を巻こうと奮闘していると、なんだか段々とイライラしてきた。

「あぁ、もう面倒だな。お前ちょっと手伝え」

「ははい!」

帯を押さえながら振り返り、後ろに突っ立つ侍女に命じる。

「ここ押さえろ。違うここだ」

「すいませんっ。はいっ」

彼女に帯を落ちないよう押さえさせ、丁寧に巻いていく。途中何度かやり直しながらも、なんとか着付けは完了した。

時計を見る。時刻は八時前。起こされてから一時間が経過したことになる。

「対面式は何時からだ?」

「八時半からです。食堂で朝食を兼ねて行われるみたいなので、まだ急ぐ必要は無いでしょう」

急ぐ必要は無いと言われても、もう準備は終わったのだ。このまま待ってろというのかこの女は。

「いい。ここにいても仕方無い。食堂に案内しろ」

「えっ、ですがまだ配膳も終わってませんよ?」

「構わん」

元々朝食には興味が無い。どれだけ豪華だろうと、食う気が無ければ家畜の餌と変わらない。今日は特に食欲が湧かない。

「…………解りました。聖堂内の案内も兼ねて、遠回りしながら行きましょう」

「任せる」

俺は白い足袋に下駄をつっかけ、スカートを揺らす侍女の後ろをカタコトとついていった。


彼女の案内は可は無く不可はある、およそ侍女とは思えぬ気の利かなさで展開されるものだった。

まず案内されたのが侍女長の部屋。ノックをしても返事が無い。

「…………仕事中のようです」

「当たり前だろうが」

「イタッ」

ツッコミ兼お仕置きの蹴りを入れる。ふくらはぎを蹴られ、地味に痛がっていた。客人を迎える朝に部屋で寛いでる侍女長がどこの世界にいるってんだ。

次こそはと案内されたのは、ボイラー室。

「ボイラー室です」

「………………」

「………………」

「………………で?」

「次行きましょう!」

三度目の正直だと意気込む彼女に連れられ、またも移動。セヴェガ記号で男と女が描かれた、二つの扉を指して立ち止まった。

「お風呂です!」

「そうだな」

「しかも温泉なんです!肌ツルツルになります!」

「ふーん」

「露天風呂は混浴になってます!」

「へぇー」

「………………」

「………………」

「………………頑張りました」

「知るか」

俺は踵を返して歩き出した。食堂はさっき目の前を通ったなぁとか考えながら、後ろの侍女を放置したまま向かう。

「あちょっ、待ってくださいぃ!」

慌てて追いかけてきたポンコツ侍女は、辛うじて先導する気が残っているのか、俺の前にトテトテと駆け出した。

「しょ、食堂に向かいましょう!」

「………………」

俺は返事をする気が起きず、益体も無く素数を2から足していった。

ちまちまこうs。感想ください

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