21ワン
決着へ!
「今だ! 一気にたたみかけるぞ!」
アルティの声が響いた。
ミノタウルスの右手のアックスが振り下ろされる。
その軌道はさっきまでより明らかに遅かった。
「もらった!」
アルティが二本の棍棒を両手で構えて、真正面から振り抜いた。
「オーガ棍棒術奥義、満留威報武乱っ!」
ごぉん、という重い衝撃音にミノタウルスがのけ反った。
アルティの渾身の一撃がミノタウルスのアックスを見事粉砕してみせたのだ。
「オラァ! アタイの方が強えぞ、牛野郎!」
アルティが歯を剥き出して笑った。
*
「わたしも!」
ルーナが地を蹴った。
それに反応して振り下ろされたアックスを華麗にかわす。空を切ったアックスが勢いそのままに地面に食い込んだ。
ルーナは大きく息を吸い込むと上半身を大きくふりかぶった。
「女神様に代わってあなたにゲンコツします!」
その言葉とほぼ同時に振り抜かれる右の拳がアックスに当たり、鈍い音を響かせた。
衝撃に耐えられず、アックスは砕け散った。
二本のアックスが同時に無力化された。
ミノタウルスの巨体が大きくバランスを崩した。
「防御壁を無効化します!」
エウロパの鋭い声が響く。
その杖から光の矢が放たれた。
狙いはミノタウルスの胸元。
そこに薄く見えない膜のようなものが張られていた。
……あれが全身を覆う防御壁か。
俺はその様子をじっと見つめていた。
「弾けなさい」
エウロパの光の矢が防御壁に突き刺さった。
薄い光の膜がぱりんと、音を立てて砕け散った。
「坊主、トドメは任せるぜ!」
アルティが叫んだ。
ソラはすでに勇者の剣を両手で構えて駆け出していた。
防御壁を失ったミノタウルスの首元、そこに狙いを定めて。
「はあああああっ!」
白銀の刃が一閃した。
*
ミノタウルスの巨体が一瞬、静止した。
それから、ゆっくりと崩れ落ちていった。
どすん、という重い音が地面を揺らした。
しばらく誰も動かなかった。
やがてミノタウルスの体は光の粒子となって静かに、消えていった。
あとには何も残らなかった。
「……勝った、のか」
ソラが剣を握ったまま呆然と呟いた。
「勝ったぞ、坊主!」
アルティが豪快にソラの背中を叩いた。
「うおっ……!」
ソラが前によろめいた。
「あははっ、悪い悪い」
アルティは快活に笑った。
その笑顔には、これまでの死闘の疲労を感じさせない明るさがあった。
*
「みなさん、お疲れ様でした」
エウロパが静かに言った。
「怪我はありませんか」
「わたしは大丈夫」
ルーナが拳を開いたり閉じたりしながら答えた。
「おれも平気です」
ソラが頷いた。
それからアルティのほうを振り返った。
「あの大丈夫ですか。半日以上、戦ってたんですよね」
「ん? ああ平気だ」
アルティは傷だらけの腕を軽く振ってみせた。
「オーガは頑丈にできてるんでな。これくらいすぐ治るさ」
ソラは少し驚いた顔で、アルティを見つめた。
「すごいです。あんなに長い間一人で戦い続けてたなんて」
「初めは仲間を逃がすためだったんだけどよ、途中から力比べみたいになってさ、楽しかったぜ」
アルティはあっさりと答えた。
その目にふと優しさが滲んだ。
「あんたたちこそ助かったぜ。この礼は必ずさせてくれ」
*
三人の先行パーティーとは遺跡の入り口で無事に合流できた。
「アルティ!」
槍を持った男が涙ながらに飛びついた。
「よかった……本当に、よかった……」
「馬鹿野郎。泣くなよ、みっともない」
アルティは照れくさそうに、男の頭をわしゃわしゃと撫でた。
でも、その目にもうっすらと涙が浮かんでいた。
ソラたちはその光景を少し離れた場所から見守っていた。
「よかったね」
ルーナがしみじみと呟いた。
その隣でソラも深く頷いていた。
俺はソラの足元でその様子をじっと見つめていた。
……アルティ、いい人だ。
あの鍛え上げられたグラマスな身体。是非とも抱っこしてもらいたいです。
ソラが不思議そうに俺を見下ろした。
「ところで、可愛いなぁこの犬」
アルティがこちらに気づいてしゃがみ込んだ。
「ほら、来いよ」
その太い腕に抱き上げられた。
力強いけれど、優しい抱き方だった。
柔らかい何かが俺の顔を包む。
……これは、いい。
これは非常に、いい。
俺は思いっきり尻尾を振ってアルティの胸に顔を擦り付けた。
「おお、人懐っこいな!」
アルティが豪快に笑って、俺の頭をわしわしと撫でた。
「こら、コッペ!」
ソラの叱る声も今は耳に入らなかった。
*
街への帰り道。
アルティの仲間の一人がぽつりと言った。
「なあ、アルティ。あのパーティーどう思う」
「ん?」
アルティは少し考えてから答えた。
「面白い奴らだったよ。剣士は非力だけど必要なところに必要な斬撃を正確に入れてくる。魔法使い、あいつは多分1級だろ、火力が半端なかった。僧侶なのか武闘家なのかわからない姉ちゃんのパンチも凄かった。ミノタウルスのアックスを素手で粉砕しやがった」
「そうか」
「一番興味を持ったのはあの剣士かな。あの化け物の首をキレイにはねた」
アルティの目に興味の色が浮かんだ。
「弱いくせに折れないあの目、悪くない」
彼女はちらりと前を歩くソラの背中を見つめた。
「……ちょっと興味湧いたな」
その呟きは、誰にも聞こえないほど小さかった。




