22ワン
勇者パーティの旅が始まります
街に戻るとギルドの受付はちょっとした騒ぎになった。
「えっ! ミノタウルスが最深部にいて、しかもそれを討伐したんですか!?」
受付の職員が目を丸くした。
「さ、流石、勇者様のパーティーですね」
アルティのパーティーのリーダー、槍を持った男が、疲れた顔で頷いた。
「まさか、最近噂になってた勇者の一行だったのか。通りで」
職員は興奮した様子で書類をめくった。
「それで報酬の分配は、どうされますか」
「俺たちは、いい」
槍の男が静かに首を振った。
「アルティが命がけで時間を稼いでくれた。でも勇者殿がいなけりゃ、俺たちは全員死んでた」
男はソラたちに深々と頭を下げた。
「報酬は全部、あんたらに受け取ってほしい。アルティは代わりに腹一杯飯を食わせりゃ文句を言わないだろうし」
「そんな、悪いです」
ソラが慌てて手を振った。
「いや、受け取ってくれ。じゃなきゃ俺たちの気が済まない」
押し問答の末、報酬は山分けということで落ち着いた。
*
その日の夜、宿の食堂でアルティが改まった様子で、ソラの前に立った。
「お、やっと見つけたぜ、勇者様」
「アルティさん、どうしたんですか?」
「わたしをパーティーに加えてくれないか」
ソラが目を丸くした。
「え……」
「あの戦いぶりを見て決めた。あんたたちと一緒に旅がしたい」
エウロパとルーナは食事の手を止めて、二人の様子を静かに見守っている。
アルティは腕を組んでソラをまっすぐ見つめた。
「好き勝手に戦うのも悪くない。でも仲間と連携して戦う戦い方もあるんだと、久しぶりに思い出させてもらった。あんたたちと旅に出たらアタイはもっと強くなれるんじゃねぇかと思ったんだ」
ソラはエウロパとルーナを見た。
二人とも静かに頷いた。
「はい! よろしくお願いします!」
ソラが深く頭を下げた。
「ありがとうよ。ソラっつたか? これからよろしく頼む。エルフの魔法使いと武闘家の姉ちゃんもよろしくな」
「武闘家じゃなくて、僧侶のルーナだからっ!」
「エウロパです、よろしくお願いいたします」
「ルーナにエウロパだな。あらためてよろしく。それと、犬っころ」
「コッペです。僕の相棒」
「よろしくな、コッペ」
そういうとアルティは俺をかかえあげた。
再び柔らかい何かが俺の上にどっさりとのしかかってきた。
*
次の日の朝、アルティの元パーティーの三人が、別れの挨拶に来てくれた。
「なあ、ソラ君」
槍の男が少し神妙な顔で言った。
「アルティを迎え入れてくれるのは嬉しいんだが。一つ、忠告しておく」
「はい」
「食費と酒代には気をつけろ」
男の顔がふっと遠い目になった。
「あいつ飯を食い出すと止まらない。酒も底なしだ」
「え……」
「俺たちのパーティー、報酬の半分近くがあいつの飲み食いに消えてたからな」
もう一人の仲間も深く頷いた。
「本当に覚悟しといたほうがいい」
ソラは少し青ざめた顔で頷いた。
「わ、わかりました……」
*
その警告が正しかったことは、その後の昼食ですぐに証明された。
街の食堂に四人と一匹で入った。
「よーし、ミノタウルス討伐の報酬も入ったし、前のパーティーから餞別も貰ったことだし、今日はぱーっと行くぞ!」
アルティが上機嫌にメニューを開いた。
「まずはこれと、これと、これと」
注文が次々に飛んでいく。
テーブルの上があっという間に、料理で埋め尽くされていった。
串焼き肉の山。骨付き肉。丸焼きの鶏。山盛りのパン。何種類ものスープ。
「おっと、酒も必要だよな。みんなは何にする?」
「おれは飲めないからいいよ」
「わ、私も今日は大丈夫です」
「うーん、まだお昼だから良いかなぁ」
若干、いや俺を含めて全員が引いている。が、そんなことはお構いなしにエールの大きなジョッキが次々に運ばれてくる。
「あ、あの、そんなに……」
ソラがおろおろと言った。
「なんだ、ソラ。食わないのか」
「い、いえ、そうじゃなくて」
ソラは震える手で注文票を確認していた。
「これ、報酬の半分近くなくなります……」
「気にするな、気にするな! 今日は特別なんだから」
アルティは豪快に笑って骨付き肉にかぶりついた。
「食わなきゃ力が出ないだろう!」
「それは、そうですけど……」
「でもアルティの食べっぷりは見てて気持ちが良いね。わたしもお腹空いてきたよ」
なぜか感化されて骨付き肉にかぶりつくルーナ。
俺はそういうところが好きだぞ。
エウロパも静かに注文票を覗き込んだ。
「……計算上、毎食このペースだと二週間ほどで路銀が尽きます」
「げっ」
ソラの顔から血の気が引いた。
「ちょっと、アルティさん。少し抑えて……」
「細かいこと、気にするなよ。アタイが貰った餞別全部使って構わねえからさ」
アルティはジョッキを一気に煽った。
「かーっ、うまい!」
*
結局、その日の食費だけで報酬のかなりの割合が消えた。
夜、宿の一室でソラが帳簿を前に頭を抱えていた。
「どうしよう……このままじゃ、王都に着く前に破産する……」
「大丈夫だよ、ソラ」
ルーナが能天気に笑った。
「わたしたち、稼ぐ力はあるんだから。行った先々で、また依頼をこなせばいいよ」
「そうなんだけどさ」
ソラはため息をついた。
宿の食堂からはアルティの豪快な笑い声と宿の女将との会話が聞こえてきた。
「女将さん、もう一杯!」
「あらあら、よく飲むお嬢さんだねえ」
ソラはさらに深く頭を抱えた。
「これからやっていけるのかな、おれたち」
俺はソラの膝にそっと顎を乗せた。
大丈夫だ。
なんとかなる。
いや、なんとかするしかない。
それに、この賑やかなパーティーはきっと悪くない。
俺はソラの心配そうな顔を見上げながら、静かに尻尾を振った。
*
翌朝、四人と一匹はまた街道を歩き出した。
次の宿場町まではあと二日ほど。
「よーし、次の街でも美味いもん、食うぞー!」
アルティの明るい声が朝の街道に響いた。
「アルティさん、お手柔らかにお願いします……」
ソラが疲れた声で答えた。
エウロパが静かに微笑んで、その様子を見つめていた。
ルーナが楽しそうに、歌を口ずさんでいた。
俺はその真ん中をとことこと歩いていた。
賑やかなパーティーになったものだ。
こころ優しい勇者。
優秀な魔法使い。
天真爛漫な僧侶。
豪快な戦士。
そして、世界最強の犬。
これからの旅路、この四人と一匹を何が待っているのか。
わからない。わからないけれど。悪くない旅になりそうな気がした。
俺は朝日に向かって大きく伸びをした。




