表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/118

――第88章・港区包囲戦――

 ――カイタンシャ本部。


 ハヤテはシンカイダン屋敷での戦闘映像を見つめ、額に汗をにじませていた。


「マリン! 他のカイダンチョウはどうなってる? もう着くのか!?」


「スナハラさんとツキシマさんが向かっています」

 マリンは落ち着いた声で答える。

「ご安心ください、局長。相手はオマリロです。あの人なら持ちこたえます」


「だが、お前たちは持ちこたえられない」


 ハヤテとマリンが振り返る。

 そこには、背後に群衆を引き連れたザンとゼクが立っていた。ザンは銃口を二人へ向けている。


「カイタンシャに死を!」


「てめえら、自分たちが何したか分かってんのか!」


「オマリロをドッコウ団に入れろ! 本物の英雄はあいつらだろ!」


「何の真似だ」

 ハヤテが険しい顔で言う。

「誰が入れた。ここは不法侵入だぞ!」


「いや?」

 ゼクが肩をすくめる。

「俺たちはこの建物をもらいに来ただけだ」


「そうだ!」

 群衆が怒号を上げる。


「やれるものなら」

 マリンが前へ出る。


 その時、群衆の中から一人の女が進み出た。

 灰色の髪。見覚えのある顔。


「……ミレイ?」


 ハヤテが目を見開く。

 マリンが小声で尋ねた。


「局長、あの方は?」


 ミレイはマリンを一瞥する。


「これが新しい副局長? ずいぶんと趣味が悪いですね、局長」


「何しに来た。今までどこにいた? それに、その目は何だ」


 ミレイはハヤテを睨みつけた。


「あの人の寵児に、とてもとても酷い場所へ送られたんですよ。長いあいだ、そこで閉じ込められていました」

 その声には憎悪が滲んでいる。

「私だけじゃない。イチカ、ダイゴ、リン、シオン、ナオヤ、カイト、レンカ……それにもちろん、イツキも」


「やっぱりそうか」

 ハヤテは苦々しく吐き捨てた。

「お前たちは昔から不安定で、執着が強くて、扱いづらかった。今じゃそのまま反乱か。受け入れてくれた組織と人間に牙を剥いて、満足か? 混乱が欲しかったんだろう、ミレイ。望み通りだ」


 ミレイは壁を叩いた。


「違う!」

 彼女は叫ぶ。

「私は、絶対に満たされない! あなたたちは私を捨てた、使い潰した、騙した! でももういい。建物を明け渡してください、局長。二度は言いません」


 ハヤテは彼女を真っ直ぐ見返した。


「悪いが、お前はここに歓迎されていない」


 ミレイは指を差す。


「やって」


 ザンとゼクが脇へ退くと、群衆がハヤテとマリンへ雪崩れ込んだ。

 殴る、蹴る、引っ掻く、武器を投げる。だがハヤテはマリンを庇うように引き寄せる。


「局長! 応戦を!」


「駄目だ!」

 ハヤテは叫ぶ。

「こんなのが報道されたら、信用は完全に終わる! 無関係の一般人を傷つけるのは、俺たちのやり方じゃない!」


 ザンはその様子を見ながら、立ち去ろうとするミレイに声をかけた。


「どちらへ、我がヘラルド?」


「もっと大事な仕事をしに行きます」

 ミレイは答える。

「ここは私が戻るまでに整えておいて」


 門が開き、彼女はその中へ消えた。


 地下では、コハクが独房の中で静かに座り、上階から聞こえてくる騒ぎに耳を傾けていた。


「……無事でいてね、あなた」


 その頃――


 オマリロは屋敷の上に立ち、第七のヘラルドと対峙していた。

 第七は空を舞いながら猛攻を浴びせ、爪を擦り合わせて放った斬撃で屋敷を真っ二つに裂く。


「……懐かしいな」

 第七は言う。

「昔、ここで訓練してた頃を思い出す。楽しかったよな?」


「家を壊した。弁償しろ」


「代金ならここにある!」

 第七は嗤う。

「ジュゲン堕落――深淵の刃!」


 白いエネルギーが空中で踊り、歪んだ刃となってオマリロへと殺到する。

 オマリロは両手を合わせた。


「ジュゲン闘士――呪禍六装」


 黒と金の鎧が彼を覆い、同時に刃も形成される。

 一閃。飛来する刃をすべて叩き落とし、そのうちの一本を逆にシオンへ返す。


 第七は身を沈めてかわし、掌を掲げた。

 瞬間、オマリロの頭上にちらつく槍の群れが現れ、彼は後方へ跳ぶ。槍はさっきまで彼が立っていた地面を串刺しにした。


 第七は一気に間合いを詰める。

 爪とオマリロの刃が激しくぶつかり合い、金属音が夜気を裂く。

 オマリロがその突進をかわし、刃の形状を変えた。


「ジュゲン闘士――」


 円環状へ変化した刃を見て、第七は笑った。


「来たな――無限環の黄金刃!」


 オマリロが投げ放った円刃を、第七は爪で受け止める。


「マスターの技は全部知ってる! 俺は止まらない!」


「少年は浅い」


 第七が三本の腕で斬りかかる。

 オマリロは片手をかざした。


「ジュゲン操運者――全能反転」


 斬撃はそのまま反転し、ヘラルド自身の鎧を切り裂いた。

 三本の背腕が地面へ落ちる。


 さらに飛来した刃も、オマリロは続けざまに返す。


 第七は懐へ飛び込み、右の拳、左のジャブ、顔面への蹴りと繋げた。

 オマリロは最初の二撃を受け止め、最後の脚を掴んでそのまま木へ叩きつける。木は根元から吹き飛んだ。


「もういい!」


 失った腕を再生させながら、第七は屋敷そのものをひっくり返し、オマリロへ投げつけた。

 オマリロはそれを片手で受け止める。


「家を壊した。贖罪は重い」


 家の中からエメルが這い出てきた。


「オマリロさん! 何が起きてるの!?」


「下がれ、スライム。少年は狂っている」


 エメルが避けたその横を、第七の攻撃がかすめる。

 そこへソウシンが駆け込み、彼女を抱き上げた。


「ペット・エメル!」


「やめて! それで今どうなってるの!?」


「悪い人たちが友達オマリロを連れていこうとしてる! みんなで止めるんだ!」


「あっ、危ない!」


 氷の鷲がソウシンの頭上をかすめる。

 ガクトがヘルメットでそれを粉砕した。


「いい反応だ、坊主!」


 ソウシンは戦場の中央へ飛び込んでいく。エメルは腕を伸ばして彼の肩にしがみついた。


「ちょ、何してるの!?」


「友達の援護!」


 ソウシンは次々とバイクを蹴散らす。

 一方、ミズキ、ユカ、コウイチの三人はガクトを一斉に襲う。

 ガクトは木をへし折って倒し、それを利用して間合いを乱した。


 コウイチが門で木を止めた隙に、ミズキが高速連撃をガクトの胸へ叩き込む。だがガクトは耐える。


「いい蹴りだ、ミズキ!」


 次の瞬間、ミズキは顎へ蹴りを叩き込んだ。

 さらにユカの氷蜘蛛の脚が顔面を打ち据え、ガクトは地面へ沈む。

 コウイチが拘束しようとしたその時、ソウシンが突進して彼を弾き飛ばした。


「今だ、ペット・エメル!」


 エメルの腕が伸び、三人のカイダンチョウを絡め取って放り投げる。


「私の家から出てけ! 今寝てたんだから!」


 ガクトが立ち上がり、顔をさすった。


「最高じゃねえか! 俺もそんなペット欲しいぜ!」


 彼がつつこうとすると、エメルはその手を叩いた。


「無理! 私はもう飼い主がいるの!」


 上空では、ユカの氷鷲が再び舞っている。

 ガクトは舌打ちした。


「ほんとしつこいな、ユカは!」


「ほんとそれ……」

 エメルはげんなりした。


 その時、さらにバイクとバンが次々と到着し、ドッコウ団の連中が大量に降りてくる。

 三人は戦況を見渡した。

 上空には、氷の鷲に乗ったユカたちがいる。


「どうする、友達?」

 ソウシンが聞く。


「圧をかけ続けるしかねえ!」

 ガクトは答える。

「オマリロは大将を抑えてる! 俺たちは雑魚どもを押さえる!」


 コウイチがガクトへワイヤーを撃つが、ソウシンが素早く引っ張って回避させる。

 ガクトは即座にヘルメットを投げた。

 しかしミズキの身体がエネルギーを帯び、ヘルメットは空中で失速する。


「送り返す」


 ミズキの後ろ蹴りでヘルメットは三人の方へ逆戻りし、彼らは慌てて飛び退く。


 轟音とともに爆ぜる。


 そのすぐ近くでは、オマリロとシオンが高速戦を繰り広げていた。

 速すぎる動きが風を生み、瓦礫を巻き上げる。

 シオンは巨大な大剣を作り出して投げつけるが、オマリロはそれを両手で挟み、何事もなくへし折った。


「くっ!」


 シオンはオマリロと同時に拳を打ち込む。

 その衝撃で、自身の爪と右腕の鎧が砕け散った。

 彼は自らの腕を見下ろし、すぐに鎧を再生させる。


 跳び上がった第七は地面へ一撃を叩き込み、白い衝撃波を放つ。

 さらに無数の刃がオマリロを襲うが、彼は剣で全てを弾く。


 再び激突。

 その衝撃だけで戦場全体が揺れた。


 別の場所では、ソウシンがエメルを独楽のように回し、彼女が伸ばした腕でドッコウ団を叩きのめしている。

 ガクトは地面へ頭突きを叩き込み、その反動で跳躍。

 氷の鷲に頭突きを食らわせて砕き、ユカたちを地上へ落とした。


 ユカは優雅に着地し、ガクトへ踏みつけを放つ。

 しかしガクトはその脚を掴み、背負うようにして放り投げた。


「ふう、悪いなユカ!」


 三人は再び体勢を立て直す。

 だがドッコウ団の軍勢はますます増えていく。


「まだ来るの!?」

 エメルが目を剥く。


「みてえだな!」

 ガクトは歯を見せる。

「相手はオマリロだ。向こうも本気なんだよ!」


 その時、ソウシンの耳がぴくりと動いた。

 次の瞬間、ザリア、リカ、レイ、ノノカ、シノが茂みを突き破って飛び出してくる。全員、カイタンシャの戦闘服だ。


「みんな!」


 ソウシンは彼女たちへ飛びついた。

 ザリアは、崩壊した屋敷と荒れ果てた戦場を見て息を呑む。


「ソウシン……これ、何が起きてるの?」


「ドッコウ団が友達オマリロを取りに来た! ぼくたちが止めてる!」


「ハン……」

 ザリアは低く呟く。

「全部あいつのせいだ」


 リカは涙を拭った。


「今はそれどころじゃない。家も、みんなも守らなきゃ! ソウシン、マスターはどこ!?」


 ソウシンが指差す。

 屋敷の向こうでは、オマリロとシオンが建物を巻き込みながら激突していた。


 ザリアは槍を構える。


「みんなはこっちを援護して。私は行く」


「私も!」

 シノが即座に名乗りを上げる。


 二人はオマリロの方へ駆け出した。

 それを見たユカが冷たい視線を向ける。


「哀れね。数時間じっとしていることすらできないなんて。まあいいわ。来たところで死ぬだけ」


 ノノカは指を鳴らす。


「残念。そうはならない。ジュゲン操運者――呪いのスキル強化!」


〈現在のパーティメンバー全員に二〇〇%強化付与〉


 ガクトは拳を握る。


「お前の能力、ほんとイカしてるな、チビ・スナハラ! 助かる!」


 押し寄せたドッコウ団員たちが彼の背へ飛びかかる。

 だがガクトは強烈な頭突きでまとめて吹き飛ばした。


「どういたしまして」

 ノノカは鼻を鳴らす。


 エメルは頬を膨らませた。


「今さら来るとか遅いんだけど! 私の家めちゃくちゃじゃん!」


「ここ、私たちの家でもあるし……」

 レイが涙を拭う。


 その瞳が、ふっと強く燃え上がった。


「壊した人たちは、ちゃんと償ってもらうから!」


 リカ、ソウシン、ノノカは目を見張る。

 レイの月光弾はこれまでより明らかに大きく、鋭くなっていた。

 その一撃が数十人のドッコウ団員をまとめて吹き飛ばす。


「お前ら、レイがこんな火力持ってるって知ってたか?」

 ガクトが驚く。


 全員が首を横に振った。


 そこへミズキが一瞬でレイの懐へ入り、その腕を掴む。


「かわいそうなレイ。もう終わり。抵抗しないで」


 しかしソウシンが体当たりでミズキを弾き飛ばした。


「レイ、大丈夫?」


「うん……平気……」


 コウイチが足元に菱形の門を開く。

 だがレイは月の紋章を振るい、その展開を中断させた。


「あの子は厄介だな」

 コウイチが呟く。


「なら、私が処理する」

 ミズキが言う。

「ジュゲン操運者――逆転移動」


 ミズキの身体が明滅し、次の瞬間には再びレイの背後にいた。

 強烈な蹴りがレイの脇腹へ突き刺さる。


「レイ!」

 リカが悲鳴を上げた。


 街路の方では、オマリロが円形に刃を回し、第七の刃をことごとく弾いていた。

 シオンの攻撃はさらに狂暴さを増し、近くの建物の土台を蹴り砕いて倒壊させる。


「ふん」


 オマリロは片手でそれを支え、中にいた一般人を逃がした。

 第七はその隙を狙って飛びかかるが、オマリロは前腕で受け止める。


「俺を捨てた」

 第七が言う。

「お前の呪いを、俺が代わりに背負ってやったのに。俺たち全員が、あの重さを引き受けたのに!」


「お前に背負えるものではない」

 オマリロは答えた。

「ただの狂気だ」


「だとしても、逃げ場なんてない!」

 第七は吠える。

「俺たちを捨てた同じジュカイダンに、お前は戻る! そして、生まれ変わったジュカイダンのマスターになるんだ!」


「ジュカイダンは死んだ。弟子たちが焼き払った」


 シオンは腕を振り、衝撃でオマリロを押し返す。

「まだだ」


 さらに攻め込もうとしたその瞬間、彼は飛来した槍を片手で掴んだ。

 振り向くと、そこには怒りに燃えるザリアが立っている。


「マスターから離れろ、ヘラルド」


——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ