――第88章・港区包囲戦――
――カイタンシャ本部。
ハヤテはシンカイダン屋敷での戦闘映像を見つめ、額に汗をにじませていた。
「マリン! 他のカイダンチョウはどうなってる? もう着くのか!?」
「スナハラさんとツキシマさんが向かっています」
マリンは落ち着いた声で答える。
「ご安心ください、局長。相手はオマリロです。あの人なら持ちこたえます」
「だが、お前たちは持ちこたえられない」
ハヤテとマリンが振り返る。
そこには、背後に群衆を引き連れたザンとゼクが立っていた。ザンは銃口を二人へ向けている。
「カイタンシャに死を!」
「てめえら、自分たちが何したか分かってんのか!」
「オマリロをドッコウ団に入れろ! 本物の英雄はあいつらだろ!」
「何の真似だ」
ハヤテが険しい顔で言う。
「誰が入れた。ここは不法侵入だぞ!」
「いや?」
ゼクが肩をすくめる。
「俺たちはこの建物をもらいに来ただけだ」
「そうだ!」
群衆が怒号を上げる。
「やれるものなら」
マリンが前へ出る。
その時、群衆の中から一人の女が進み出た。
灰色の髪。見覚えのある顔。
「……ミレイ?」
ハヤテが目を見開く。
マリンが小声で尋ねた。
「局長、あの方は?」
ミレイはマリンを一瞥する。
「これが新しい副局長? ずいぶんと趣味が悪いですね、局長」
「何しに来た。今までどこにいた? それに、その目は何だ」
ミレイはハヤテを睨みつけた。
「あの人の寵児に、とてもとても酷い場所へ送られたんですよ。長いあいだ、そこで閉じ込められていました」
その声には憎悪が滲んでいる。
「私だけじゃない。イチカ、ダイゴ、リン、シオン、ナオヤ、カイト、レンカ……それにもちろん、イツキも」
「やっぱりそうか」
ハヤテは苦々しく吐き捨てた。
「お前たちは昔から不安定で、執着が強くて、扱いづらかった。今じゃそのまま反乱か。受け入れてくれた組織と人間に牙を剥いて、満足か? 混乱が欲しかったんだろう、ミレイ。望み通りだ」
ミレイは壁を叩いた。
「違う!」
彼女は叫ぶ。
「私は、絶対に満たされない! あなたたちは私を捨てた、使い潰した、騙した! でももういい。建物を明け渡してください、局長。二度は言いません」
ハヤテは彼女を真っ直ぐ見返した。
「悪いが、お前はここに歓迎されていない」
ミレイは指を差す。
「やって」
ザンとゼクが脇へ退くと、群衆がハヤテとマリンへ雪崩れ込んだ。
殴る、蹴る、引っ掻く、武器を投げる。だがハヤテはマリンを庇うように引き寄せる。
「局長! 応戦を!」
「駄目だ!」
ハヤテは叫ぶ。
「こんなのが報道されたら、信用は完全に終わる! 無関係の一般人を傷つけるのは、俺たちのやり方じゃない!」
ザンはその様子を見ながら、立ち去ろうとするミレイに声をかけた。
「どちらへ、我がヘラルド?」
「もっと大事な仕事をしに行きます」
ミレイは答える。
「ここは私が戻るまでに整えておいて」
門が開き、彼女はその中へ消えた。
地下では、コハクが独房の中で静かに座り、上階から聞こえてくる騒ぎに耳を傾けていた。
「……無事でいてね、あなた」
その頃――
オマリロは屋敷の上に立ち、第七のヘラルドと対峙していた。
第七は空を舞いながら猛攻を浴びせ、爪を擦り合わせて放った斬撃で屋敷を真っ二つに裂く。
「……懐かしいな」
第七は言う。
「昔、ここで訓練してた頃を思い出す。楽しかったよな?」
「家を壊した。弁償しろ」
「代金ならここにある!」
第七は嗤う。
「ジュゲン堕落――深淵の刃!」
白いエネルギーが空中で踊り、歪んだ刃となってオマリロへと殺到する。
オマリロは両手を合わせた。
「ジュゲン闘士――呪禍六装」
黒と金の鎧が彼を覆い、同時に刃も形成される。
一閃。飛来する刃をすべて叩き落とし、そのうちの一本を逆にシオンへ返す。
第七は身を沈めてかわし、掌を掲げた。
瞬間、オマリロの頭上にちらつく槍の群れが現れ、彼は後方へ跳ぶ。槍はさっきまで彼が立っていた地面を串刺しにした。
第七は一気に間合いを詰める。
爪とオマリロの刃が激しくぶつかり合い、金属音が夜気を裂く。
オマリロがその突進をかわし、刃の形状を変えた。
「ジュゲン闘士――」
円環状へ変化した刃を見て、第七は笑った。
「来たな――無限環の黄金刃!」
オマリロが投げ放った円刃を、第七は爪で受け止める。
「マスターの技は全部知ってる! 俺は止まらない!」
「少年は浅い」
第七が三本の腕で斬りかかる。
オマリロは片手をかざした。
「ジュゲン操運者――全能反転」
斬撃はそのまま反転し、ヘラルド自身の鎧を切り裂いた。
三本の背腕が地面へ落ちる。
さらに飛来した刃も、オマリロは続けざまに返す。
第七は懐へ飛び込み、右の拳、左のジャブ、顔面への蹴りと繋げた。
オマリロは最初の二撃を受け止め、最後の脚を掴んでそのまま木へ叩きつける。木は根元から吹き飛んだ。
「もういい!」
失った腕を再生させながら、第七は屋敷そのものをひっくり返し、オマリロへ投げつけた。
オマリロはそれを片手で受け止める。
「家を壊した。贖罪は重い」
家の中からエメルが這い出てきた。
「オマリロさん! 何が起きてるの!?」
「下がれ、スライム。少年は狂っている」
エメルが避けたその横を、第七の攻撃がかすめる。
そこへソウシンが駆け込み、彼女を抱き上げた。
「ペット・エメル!」
「やめて! それで今どうなってるの!?」
「悪い人たちが友達オマリロを連れていこうとしてる! みんなで止めるんだ!」
「あっ、危ない!」
氷の鷲がソウシンの頭上をかすめる。
ガクトがヘルメットでそれを粉砕した。
「いい反応だ、坊主!」
ソウシンは戦場の中央へ飛び込んでいく。エメルは腕を伸ばして彼の肩にしがみついた。
「ちょ、何してるの!?」
「友達の援護!」
ソウシンは次々とバイクを蹴散らす。
一方、ミズキ、ユカ、コウイチの三人はガクトを一斉に襲う。
ガクトは木をへし折って倒し、それを利用して間合いを乱した。
コウイチが門で木を止めた隙に、ミズキが高速連撃をガクトの胸へ叩き込む。だがガクトは耐える。
「いい蹴りだ、ミズキ!」
次の瞬間、ミズキは顎へ蹴りを叩き込んだ。
さらにユカの氷蜘蛛の脚が顔面を打ち据え、ガクトは地面へ沈む。
コウイチが拘束しようとしたその時、ソウシンが突進して彼を弾き飛ばした。
「今だ、ペット・エメル!」
エメルの腕が伸び、三人のカイダンチョウを絡め取って放り投げる。
「私の家から出てけ! 今寝てたんだから!」
ガクトが立ち上がり、顔をさすった。
「最高じゃねえか! 俺もそんなペット欲しいぜ!」
彼がつつこうとすると、エメルはその手を叩いた。
「無理! 私はもう飼い主がいるの!」
上空では、ユカの氷鷲が再び舞っている。
ガクトは舌打ちした。
「ほんとしつこいな、ユカは!」
「ほんとそれ……」
エメルはげんなりした。
その時、さらにバイクとバンが次々と到着し、ドッコウ団の連中が大量に降りてくる。
三人は戦況を見渡した。
上空には、氷の鷲に乗ったユカたちがいる。
「どうする、友達?」
ソウシンが聞く。
「圧をかけ続けるしかねえ!」
ガクトは答える。
「オマリロは大将を抑えてる! 俺たちは雑魚どもを押さえる!」
コウイチがガクトへワイヤーを撃つが、ソウシンが素早く引っ張って回避させる。
ガクトは即座にヘルメットを投げた。
しかしミズキの身体がエネルギーを帯び、ヘルメットは空中で失速する。
「送り返す」
ミズキの後ろ蹴りでヘルメットは三人の方へ逆戻りし、彼らは慌てて飛び退く。
轟音とともに爆ぜる。
そのすぐ近くでは、オマリロとシオンが高速戦を繰り広げていた。
速すぎる動きが風を生み、瓦礫を巻き上げる。
シオンは巨大な大剣を作り出して投げつけるが、オマリロはそれを両手で挟み、何事もなくへし折った。
「くっ!」
シオンはオマリロと同時に拳を打ち込む。
その衝撃で、自身の爪と右腕の鎧が砕け散った。
彼は自らの腕を見下ろし、すぐに鎧を再生させる。
跳び上がった第七は地面へ一撃を叩き込み、白い衝撃波を放つ。
さらに無数の刃がオマリロを襲うが、彼は剣で全てを弾く。
再び激突。
その衝撃だけで戦場全体が揺れた。
別の場所では、ソウシンがエメルを独楽のように回し、彼女が伸ばした腕でドッコウ団を叩きのめしている。
ガクトは地面へ頭突きを叩き込み、その反動で跳躍。
氷の鷲に頭突きを食らわせて砕き、ユカたちを地上へ落とした。
ユカは優雅に着地し、ガクトへ踏みつけを放つ。
しかしガクトはその脚を掴み、背負うようにして放り投げた。
「ふう、悪いなユカ!」
三人は再び体勢を立て直す。
だがドッコウ団の軍勢はますます増えていく。
「まだ来るの!?」
エメルが目を剥く。
「みてえだな!」
ガクトは歯を見せる。
「相手はオマリロだ。向こうも本気なんだよ!」
その時、ソウシンの耳がぴくりと動いた。
次の瞬間、ザリア、リカ、レイ、ノノカ、シノが茂みを突き破って飛び出してくる。全員、カイタンシャの戦闘服だ。
「みんな!」
ソウシンは彼女たちへ飛びついた。
ザリアは、崩壊した屋敷と荒れ果てた戦場を見て息を呑む。
「ソウシン……これ、何が起きてるの?」
「ドッコウ団が友達オマリロを取りに来た! ぼくたちが止めてる!」
「ハン……」
ザリアは低く呟く。
「全部あいつのせいだ」
リカは涙を拭った。
「今はそれどころじゃない。家も、みんなも守らなきゃ! ソウシン、マスターはどこ!?」
ソウシンが指差す。
屋敷の向こうでは、オマリロとシオンが建物を巻き込みながら激突していた。
ザリアは槍を構える。
「みんなはこっちを援護して。私は行く」
「私も!」
シノが即座に名乗りを上げる。
二人はオマリロの方へ駆け出した。
それを見たユカが冷たい視線を向ける。
「哀れね。数時間じっとしていることすらできないなんて。まあいいわ。来たところで死ぬだけ」
ノノカは指を鳴らす。
「残念。そうはならない。ジュゲン操運者――呪いのスキル強化!」
〈現在のパーティメンバー全員に二〇〇%強化付与〉
ガクトは拳を握る。
「お前の能力、ほんとイカしてるな、チビ・スナハラ! 助かる!」
押し寄せたドッコウ団員たちが彼の背へ飛びかかる。
だがガクトは強烈な頭突きでまとめて吹き飛ばした。
「どういたしまして」
ノノカは鼻を鳴らす。
エメルは頬を膨らませた。
「今さら来るとか遅いんだけど! 私の家めちゃくちゃじゃん!」
「ここ、私たちの家でもあるし……」
レイが涙を拭う。
その瞳が、ふっと強く燃え上がった。
「壊した人たちは、ちゃんと償ってもらうから!」
リカ、ソウシン、ノノカは目を見張る。
レイの月光弾はこれまでより明らかに大きく、鋭くなっていた。
その一撃が数十人のドッコウ団員をまとめて吹き飛ばす。
「お前ら、レイがこんな火力持ってるって知ってたか?」
ガクトが驚く。
全員が首を横に振った。
そこへミズキが一瞬でレイの懐へ入り、その腕を掴む。
「かわいそうなレイ。もう終わり。抵抗しないで」
しかしソウシンが体当たりでミズキを弾き飛ばした。
「レイ、大丈夫?」
「うん……平気……」
コウイチが足元に菱形の門を開く。
だがレイは月の紋章を振るい、その展開を中断させた。
「あの子は厄介だな」
コウイチが呟く。
「なら、私が処理する」
ミズキが言う。
「ジュゲン操運者――逆転移動」
ミズキの身体が明滅し、次の瞬間には再びレイの背後にいた。
強烈な蹴りがレイの脇腹へ突き刺さる。
「レイ!」
リカが悲鳴を上げた。
街路の方では、オマリロが円形に刃を回し、第七の刃をことごとく弾いていた。
シオンの攻撃はさらに狂暴さを増し、近くの建物の土台を蹴り砕いて倒壊させる。
「ふん」
オマリロは片手でそれを支え、中にいた一般人を逃がした。
第七はその隙を狙って飛びかかるが、オマリロは前腕で受け止める。
「俺を捨てた」
第七が言う。
「お前の呪いを、俺が代わりに背負ってやったのに。俺たち全員が、あの重さを引き受けたのに!」
「お前に背負えるものではない」
オマリロは答えた。
「ただの狂気だ」
「だとしても、逃げ場なんてない!」
第七は吠える。
「俺たちを捨てた同じジュカイダンに、お前は戻る! そして、生まれ変わったジュカイダンのマスターになるんだ!」
「ジュカイダンは死んだ。弟子たちが焼き払った」
シオンは腕を振り、衝撃でオマリロを押し返す。
「まだだ」
さらに攻め込もうとしたその瞬間、彼は飛来した槍を片手で掴んだ。
振り向くと、そこには怒りに燃えるザリアが立っている。
「マスターから離れろ、ヘラルド」
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