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――第84章・決起集会――

カイタンシャ本部――


 レイとシノは廊下を連行された末、カズキとコハクが入れられているのと同じ房へと放り込まれた。

 カズキは気絶したまま、コハクの足元に転がっている。


「ああ、これはまた面白い組み合わせね」

 コハクが口元を緩めた。

「可愛いレイに、気弱なシノ。どうしてここに来たのかしら? 私に会いに来たの?」


 二人は答えなかった。


「あら? 大好きなハントレスとはお喋りしたくないってわけ?」


「ねえ」

 シノがぶっきらぼうに言った。

「こっちはあんたと話す気ないんだって。特に今はね」


「そう」

 コハクはそう言って寝台にもたれ、気楽そうに足を組んだ。


 やがてハヤテが監房区画へ入ってきた。

 レイとシノを見る目には、はっきりとした失望が浮かんでいる。


「レイ。シノ。まさか君たちがドッコウ団のために機密ファイルを盗むとは思わなかったよ。何を考えていたんだ?」


 シノはすぐに立ち上がった。


「お願いします、局長! 出してください! 本当に盗むつもりだったわけじゃないんです! 任務だっただけなんです、ほんとに!」


「残念だが、ファイルは失われた」

 ハヤテは首を振る。

「だから今の言葉は信じられない。共犯者はどこだ? ファイルを持って逃げたあの少年は」


「ハンです……」

 レイが俯いたまま答えた。


「ハン?」

 コハクが割って入る。

「私の可愛い子は、最近どうしているのかしら?」


「私たち、任務をやるって話で動いてたんです」

 シノが説明する。

「でも、ハンがファイルを奪ってそのまま逃げたんです。どこにいるのかは分かりません」


 ハヤテは深くため息をついた。


「なら、彼も追うしかないな。……すまない、二人とも」


 そう言い残して、彼は去っていった。


「どうして……」

 レイの目から涙がこぼれる。

「友達だと思ってたのに……!」


「私だって……そう思ってた……」

 シノも悔しそうに呟く。


 コハクは二人の顔を見つめながら、何かを考え込んだ。


「さて。今度はどういうつもりなのかしらね」

 彼女はくすりと笑う。

「仲間への忠誠心は本物だった。私があの子を従わせるのにも、相当骨が折れたもの。でも……」


 目を細める。


「自分の仲間にまで刃を向けるなんて。ああいう鋭さ、私は嫌いじゃないわ。だからこそ、私の夫もあの子を側に置いているのね」


 その頃――


 ガラ会場――


 ミズキは演説の途中で言葉を切った。

 オマリロの姿を認めたからだ。


「ニュガワ様――いえ、失礼」

 彼女は咳払いをした。

「皆さん、本日は特別な客人がお見えです。オマリロ・ニュガワ!」


 会場中の視線が一斉にオマリロへ向けられる。

 驚きと熱狂の入り混じった顔々が、写真を撮ろうと近寄ってきた。


 しかしオマリロは一瞬で舞台へ移動し、ミズキの腕を掴んだ。


「時間だ。女、来る」


「どこへ?」


「カイタンシャへ戻る」


 ミズキは一度深呼吸した。


「直接は言っていませんでしたけど、私は誰よりもあなたを敬っています、先生」


 彼女は腕を振り払う。


「だからこそ戻れません。私は、あなたにはなれない。あなたと並べないんです。……ごめんなさい。でも、あなたがいる限り、カイタンシャは必要ありません」


「偽りだ」


「彼女の言う通りだよ」


 背後から現れたのは、スーツ姿のコウイチだった。


「あなたは伝説だ。俺たちはもう、終わった側の人間なんだよ」


「男」


 コウイチはマイクを取る。


「賛成のやつはいるか? カイタンシャの時代は終わりだ!」


「おおおおっ!」

 群衆が歓声を上げた。


 オマリロは無言で二人を見つめる。

 ミズキは彼に向き直った。


「何かお出ししましょうか? ワイン? 水? お寿司でも――」


 オマリロは二人の頭を杖で叩いた。


「痛っ!」

「いったぁ!」


「愚かな子供」


 ミズキは頭を押さえながら言う。


「先生にも、いずれ分かります。これが最善なんです。私たちはもうカイタンシャには戻りません。あの一件があった以上、なおさら」


 警備員たちが二人を舞台袖へ誘導していく。

 オマリロはそれをただ見送った。


 コウイチが振り返る。


「次は集会だ。三時間後。ナトリも来る」


 二人は扉の向こうへ消えていった。


 ザリアがオマリロのもとへ寄る。


「先生。カオルより頑固そうだな、あいつら」


「子供は始末する。時が近い」


 オマリロはそう言って姿を消した。


 ザリアはその場に取り残される。


「……消えた」


「で、どうだったの?」

 ノノカが聞く。


「頑固」

 ザリアは肩をすくめた。

「ほんとにそれだけ」


「じゃあ、あんたみたいなもんね」


「うるせえ」


 リカがダンスフロアを指差す。


「ねえ、あっちで踊ってるよ。待ってる間、少し楽しんでもよくない?」


 ノノカとザリアは顔を見合わせ、それから肩をすくめた。

 リカに引っ張られ、三人はダンスフロアへ出る。


 ソウシンは椅子に座ってそれを見ていた。

 女の子たちは笑い合いながら、楽しそうに踊っている。


「みんな楽しそうだねぇ」

 不意に、すぐそばで声がした。

「リンとイチカを思い出すわ」


「おお、誰それ?」


 ソウシンが振り向くと、そこにはガラドレス姿のミレイが座っていた。


「わっ。ナース!」


「その呼び方はやめて」

 彼女は微笑む。

「ミレイでいいわ。今日は戦いに来たわけじゃないの。ハンの近くにいられる間しか、私はここにいられないから」


 ソウシンはハンの言葉を思い出し、内心で考える。


「ふむ。じゃあ、ミレイ姉ちゃんは何しに来たの?」


「見たいのよ。私が失ったものを」

 ミレイは静かに言った。

「たまに、幸せな女の子でいられた頃を思い出したくなるの。マスターを追いかけて、みんなで丘を駆け回っていた頃を」


「だったら、オマリロ友達のところに戻ればいいじゃん」

 ソウシンは無邪気に言う。

「きっと戻してくれるよ!」


 ミレイは背後からワイングラスを取り、ひと口飲んだ。


「戻してくれないわ。彼は私たちを失敗作だと思っているもの。だから、考えを変えさせるには、今の時代を見せるしかない」

 彼女はダンスフロアの子供たちを見た。

「そのためにも――あの子たちは消えてもらわないと」


 ミレイは立ち上がり、慣れないヒールで歩こうとして少しよろめいた。


「……ほんと、履くのは何十年ぶりかしら」


 そしてソウシンへ手を差し出す。


「踊ってくれる? ソウシンくん」


「いいよ!」


 ミレイはソウシンを連れてダンスフロアへ出た。

 くるくる回されながらも、彼女はすぐにリズムを掴んでいく。

 子供たちはまったく気づいていない。


「うちの子たち、あなたのこと気に入ると思うわ」

 ミレイが言う。

「来ない? 私たちのところへ」


 ソウシンは考えるふりをする。


「ハン兄が合わせろって言ってたし……ここは演技だな」


 そして笑顔で尋ねた。


「楽しい?」


「もちろん」

 ミレイは答えた。

「マスターもそのまま。しかも、もうルーキーじゃない人たちから学べる。悪くないでしょう?」


「どんなことできるの?」


「見せてあげる」


 ミレイは指を弾き、灰色の球体を生み出す。

 それを近くのワインボトルへ放つと、ボトルは一瞬で老化して粉々に崩れた。


「おおー! すごい、ミレイ姉ちゃん!」


「まだあるわ」

 彼女は微笑む。

「あなた、ジュゲン操運者よね?」


 ソウシンは頷く。


「だったら、第四がすごく役に立つはず。若いのに、ほんとうに才能がある子」


 彼女は身を屈め、ソウシンの耳元で囁く。


「だから、私はあなたを殺したくないの」


 頭を優しく撫でてから言う。


「さあ、晩ご飯を食べましょうか」


 二人はバーの近くのテーブルへ座った。

 ミレイはウェイターを呼ぶ。


「すみません。注文をお願い」


 ウェイターが近づいた瞬間、その目が見開かれる。


「ま、待て……お前は……もういないはずだ! ミレイ・カンザキ、カイタンシャの裏切り者――!」


 ミレイは片手を上げた。

 灰色の球体が男の首元に浮かぶ。


「もう一言でも続けたら、その場で塵にしてあげる」


 ウェイターはすぐに顔を引きつらせて黙り込んだ。


「よろしい」

 ミレイはソウシンを示す。

「この子に怖いものを見せたくないでしょう?」


「は、はい……」


「じゃあ、ソウシンくん。何が食べたい?」


 一方その頃。

 ザリアはダンスフロアを離れ、水飲み場で飲み物を口にしていた。

 その近くで、パンクっぽい服装の男が音楽を聴いている。


「ねえ、ちょっと。音でかいんだけど」


 男が顔を向ける。

 その瞬間、ザリアは目を見開いた。


「……ハン?」


「よ、ザリア」


 ザリアは彼を上から下まで見た。


「ハン、なんでそんな格好してんの? レイとシノは? あんたら任務中じゃなかったのか?」


「まあな」

 ハンは肩をすくめる。

「あいつらなら少し休んでる。火力不足でな」


 彼はザリアへ指を向けた。


「それより、今夜のお前、なかなかいい感じじゃん。そのドレス」


 ザリアは戸惑いと照れが混ざった顔になる。


「ハン……大丈夫か? なんか変だぞ」


「ザリア」

 ハンは真顔になる。

「俺のこと、信じてるか?」


「当たり前だろ。でも、ほんと変だって!」


「ちょっとだけついて来てくれ」


 ハンは奥の部屋へ入っていく。

 ザリアは水をひと口飲んでから、そのあとを追った。


 扉が閉まる直前、ハンはミレイと目を合わせる。

 ミレイは小さく親指を立てた。


「騙されるなよ、ソウシン」

 ハンは内心で思う。

「お前が必要なんだ」


 ザリアが追いつくと、そこはガラ会場のバルコニーだった。

 彼女はハンへ向き直る。


「ここで何すんだ?」


「星でも見ようと思って」

 ハンは空を見上げた。

「嫌か?」


「嫌とかじゃなくて……なんで急に連れ出したんだよ」


 ハンはザリアのほうへ向く。


「俺のこと、どう見てる?」


「親友の一人」

 ザリアは即答する。

「欲しかった兄貴って感じ」


「もし俺が、お前を守るためなら何でもするって言ったら?」


「そりゃ信じるだろ」


「そうか……それでいい」


 ハンは空を見上げたまま、頭を抱えそうになるのを必死に堪える。


「やれ、ハン。これであいつを守れる。ドッコウ団から遠ざけられる。今だ。妹としてじゃなく見ろ。壁を壊せ。壁を」


「ハン?」


 次の瞬間。

 ハンはザリアに身を寄せ、そのまま唇を重ねた。


「――っ!?」


 ザリアは真っ赤になってよろめく。


「ハン!?」


 彼女は反射的にハンの腕を殴った。


「何すんだよ!」


「何って、嫌だったか?」


「い、嫌とかじゃなくて、おま、え、なに、急に……!」


「顔真っ赤だぞ、ザリア」

 ハンは静かに言う。

「今は、俺をどう見る?」


「バカ! すごいバカ! しかも、ちょっと顔がいいのが余計ムカつくバカ!」


「それでいい」


「は?」


 ハンは後退する。

 ザリアは困惑したまま見つめた。


「ハン? どこ行くんだよ」


「計画がある」

 ハンは言う。

「迷ったら思い出せ。これはお前のためだ」


 背後にポータルが開く。

 ハンはそのままそこへ落ちた。


 代わりに現れたのは、完全武装した《第七のヘラルド》だった。


「……は?」


 ザリアが声を出すより早く、ヘラルドは彼女を掴み、そのままポータルの中へ引きずり込む。

 扉はすぐに閉じた。


 会場内。

 ミレイはソウシンと一緒に魚とご飯を食べていた。

 ソウシンはもりもり口へ運んでいる。

 ミレイは思わず柔らかな笑みを浮かべ、すぐにそれを消した。


「この子……本当に昔の私みたい」

 彼女は心の中で呟く。

「マスター。あなたって人は。本当にずるい。まだ愛してる自分が嫌になる」


 やがてハンが戻ってくる。

 彼は無表情のまま、ソウシンの隣に座った。


 ミレイは食事を続けながら尋ねる。


「おかえり、ハン。ザリアは処理したの?」


 ハンは頷いた。


「第七が連れて行った」


「よくやったわ」

 ミレイは自分の皿を彼の前に滑らせた。

「魚を食べなさい。あなたにはその価値がある」


 彼女は続ける。


「次はリカをお願い。あの子も、あなたへの情はかなり深い。あれで半分は片付くわ」


「できます」


「ありがとう」


 その後――


 ミズキとコウイチは福岡の街を見下ろす屋上に座っていた。

 下では人々が行き交い、ざわめきが絶えない。


「そのうち福岡にもモンスター来るんだろうな」

 コウイチがぼやく。


「遅すぎるくらいよ」

 ミズキは答える。

「人々には抗う力が必要。そのためには、ニュガワ様に象徴になってもらわないと」


「ああ」

 コウイチは頷いた。

「やっぱすごいよな、ニュガワって」


 ミズキは腕時計を見た。


「そろそろ集会の時間。行きましょう」


 二人が通りへ降りると、ガラの参加者たちがすでに集まり始めていた。

 手にはプラカードが掲げられている。


「カイタンシャはもういらない!」

「カイタンシャはもういらない!」


 やがて二人は壇上へ上がった。

 ミズキがマイクを取る。


「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。では、副代表をご紹介します――名取ユカです」


 氷の鷲が上空を旋回し、そのままユカが舞い降りる。

 彼女はミズキとコウイチの間に着地し、マイクを握った。


「本日はこの集会に参加できて光栄です」

 ユカははっきりと告げる。

「日本の皆さん。カゴシマで起きた悲劇は、必ず私たちの手で正してみせます。そして人々のための、新しい対等な時代を――」


 その時。

 群衆の中から鋭い声が響いた。


「女の戯言だ」


 人の波が左右へ分かれる。

 そこに立っていたのはオマリロだった。

 その周囲にはカオル、ガクト、アツシの姿もある。


「オマリロ……?」

 ユカが息を呑む。


「日本は危機だ」

 オマリロが言う。

「カイダンチョウ、遊んでいる場合ではない」


「その通りだ」

 アツシが続く。

「お前たちの反乱ごっこはここで終わりだ」


「俺もそう思う!」

 ガクトが声を張る。


「わ、私に言う資格あんまりないかもしれないけど!」

 カオルも前へ出る。

「でも、みんな正しいです! 人々にはニュガワ様が必要。でも、私たちだって必要なんです!」


 オマリロは杖を鳴らした。


「カイダンチョウ。今すぐ終わらせろ」


 ユカはマイクを落とした。

 その目はまっすぐオマリロを見ている。


「……ごめんなさい、オマリロ」

 彼女は言った。

「でも、私たちはあなたにはなれない。支えることはできる。でも、あなたの下へ戻ることはできない」


 ユカの周囲に氷の鷲が現れ、ミズキとコウイチも戦闘態勢を取る。

 アツシたちもそれに応じた。


「たとえ力ずくでも、私たちの考えを証明する」


 オマリロは目を細めた。


「……ふむ」


——

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