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――第82章・加入試験――

 福岡――


 オマリロとソウシンはショッピングモール内を歩いていた。

 周囲では買い物客たちが次々とオマリロの写真を撮っている。

 ソウシンは嬉しそうに彼の腕にしがみついた。


「すごいよ、先生! 有名人だ!」


「名声は無関係だ」


 オマリロはサインを求める子供や、群がってくる客たちを素早くかわしながら進んでいく。

 やがて一行は広場へと辿り着いた。


 その後ろから、ノノカ、ザリア、リカが現れる。

 三人ともワンピースにサンダル姿だった。


「おおっ!」

 ソウシンが目を丸くする。

「みんな、おしゃれしてる!」


 リカは少し照れたように頷いた。


「局長に『目立たないようにしろ』って言われたから、ちゃんと従ったの。どうかな、先生?」


 オマリロは一瞬だけ三人を見た。


「子供は子供のままだ」


 三人はそろってしょんぼりした。

 オマリロはそのまま周囲を見回す。


「目を使え。カイダンチョウは近い」


 そう言って歩き出すと、ノノカが腰に手を当てた。


「だから言ったじゃない。もっと派手にした方がよかったのよ」


 ザリアは額を押さえた。


「今それ言っても仕方ないだろ。とにかく行くぞ」


 三人はオマリロの後を追った。

 人混みを押しのけるように進んでいくと、やがて少し静かなラウンジに出る。

 そこではモールの店員が掃除をしていた。


 オマリロがその男を杖で示す。


「店員。聞け」


「任せて、先生!」

 ザリアが即座に名乗りを上げた。


 彼女は店員のもとへ歩み寄る。


「ねえ、カイダンチョウ二人見なかった? 紫髪のチビと、黒髪のいかにも陰キャって感じのやつ」


「ああ、カミシロ・コウイチさんとサイオンジ・ミズキさんのことですね」

 店員は頷く。

「はい、少し前にいらっしゃってました。今夜のガラパーティーに出席される予定だと思います」


 ザリアは目をぱちぱちさせた。


「ガラ?」


「ええ。ちょっとした政治的な催しなんです」

 店員は得意げに言う。

「僕たちは新時代へ移行したいんですよ。カイダンチョウなんかに頼るんじゃなくて、一人ひとりの力で生きる時代へ」


「つまり民主化、みたいな?」

 ザリアが首をかしげる。


「そんなところです」

 店員は答えた。

「これを機に政府を動かして、カイタンシャそのものを解体したいんです。組織なんていりません。昔みたいに、伝説が一人いて、あとは民衆が自分たちで何とかする。それでいいんです」


 そこで彼はオマリロに気づいた。


「うわっ、マジで!? 本当に来てたんだ!」


 慌てて駆け寄る。


「ニユガワさん! 本物ですよね!?」


「……」


「ぜひ今夜のガラにも来てくださいよ!」

 店員は興奮気味に言う。

「すごい宣伝になります! あなたが一言くれれば、カイタンシャ解体なんて一発ですよ!」


「行かん」

 オマリロは一蹴した。


「えっ!? で、でも――」


「カイダンチョウに用がある」

 オマリロは淡々と言う。

「ガラにカイダンチョウがいるなら、私は行く」


「カイダンチョウ……?」

 店員は怪訝な顔になる。

「他にも来てるってことですか?」


 オマリロは目を閉じた。


「……」


 次の瞬間、その場から消えた。


「えっ!? ちょっと、どこ行った!?」


「いつものことです」

 リカが苦笑する。


「でも毎回すごいよね!」

 ザリアが感心したように言う。

「ところで、そのガラに入るのっていくら?」


「ニユガワさんが一緒なら、みなさん無料で通しますよ」


「ほんと?」

 リカの目が輝いた。

「ダンスとかある?」


「ほんと、そういうの好きよね」

 ノノカが呆れた顔をする。


「もちろんありますよ!」

 店員は頷く。

「大物が集まるパーティーに必要なものは全部揃ってます! 開場は八時です!」


「まあ、あの二人の性格を考えると来ても不思議じゃないわね」

 ノノカが腕を組む。

「表向きはあんな感じでも」


「でもさ、あの二人ってどっちも陰寄りじゃん」

 リカが言う。

「そんな大きい場に、本当に来るかな?」


「人は本当の自分を隠せるんだよ!」

 ソウシンが元気よく言う。

「ほら、カオルみたいに!」


「……たしかに」

 リカは少し考えてから頷いた。

「よし。私は行きたい。先生に聞いてみよう!」


「で、その先生はどこにいるのよ」

 ノノカがため息をつく。


「探すしかないね!」


 その頃――


 ハン、レイ、シノの三人は目隠しをされたまま、階段を下ろされていた。

 シノが無理やり布を外そうとするが、周囲の手がそれを押さえつける。


「ちょっと、離しなさいよ! クソ犬ども!」


「黙れ」

 誰かが低い声で言った。

「アンダーグラウンドは見せられねえ」


 さらに何段も降ろされる。

 やがて扉の開く音がし、三人はそのまま床へ突き飛ばされた。

 直後に扉が閉まり、鍵がかかる。


「最悪だな」

 ハンが呟く。

「罠に放り込まれたってわけか」


 手が自由になったことで、三人はすぐ目隠しを外した。

 周囲を見回すと、古びた整備用トンネルのような空間で、その先は駐車場につながっている。

 そこには大型バイクが二台置かれていた。


「あのさー!」

 シノが叫ぶ。

「これどういうつもり?」


 近くのスピーカーからゼクの声が響く。


「加入したきゃ、波に乗れ。バイクでこのトンネルを抜けろ。向こう側まで辿り着けば合格だ」


 シャッターが上がり、長く荒れたトンネルが姿を現す。

 レイがバイクを見て首を傾げた。


「あれ? 二台しかないよ?」


「三人来るとは思ってなかったんでな」

 ゼクが笑う。

「そこはうまくやれ」


 シノは一台にまたがり、レイももう一台へ。

 ハンは二人を見比べる。


 シノが顎をしゃくった。


「乗らないの?」


「お前の運転は絶対危ない」

 ハンは即答した。

「レイの方がマシだ」


「ふん。好きにしな」


 再びスピーカーから声が流れる。


「制限時間は十五分。さっさと行け。時間スタート――今だ」


 ベルが鳴り、レイとシノは同時にアクセルを吹かした。

 バイクは勢いよくトンネルへ飛び出す。


「これ、めっちゃパワーある!」

 シノが目を輝かせる。

「いくらしたんだろ!」


「罠を探せ!」

 ハンが後ろから叫ぶ。

「わざわざここに落としたんだ、何もないわけない!」


「えっ?」


 直後、シノのバイクがトリップワイヤーを引っかけた。

 壁の砲口から炎が噴き出し、三人を焼こうとする。


「やっぱりか……!」


 レイはすぐにスピードを上げ、炎が噴き出す前にその区画を抜ける。

 シノもすぐ後ろにつけた。

 火が収まると、ハンはキューブを取り出し、バイクの後部座席の上に立つ。


「速すぎるなよ! スキャンする! キューブ、解析!」


[解析中……]


 天井の一点が青く光った。

 ハンはすぐに察する。


「レーザー砲だ! 今だ、飛ばせ!」


 二人はさらに加速した。

 天井からレーザー砲がせり出し、白い光線を撃ち出してくる。

 レイは蛇行しながら避け、シノは片手をハンドルから離して指を構えた。


「ジュゲン滅者・指先滅鍵!」


 レーザー砲が丸ごと消し飛ぶ。

 ハンは後ろに座り直し、息をついた。


「こんなレーザー砲まで、どこから調達したんだよ……」


 ふと、ミレイの不気味な声が脳裏をよぎる。


「……まさか、あいつただのナースじゃないのか?」


「ハン! 前!」


 シノの声で我に返る。

 壁から振り子刃が次々に飛び出し、三人は慌てて身を伏せた。


 やがて中継ポイントの旗を通過する。

 スピーカーが鳴った。


「いい感じだ。中間地点まではな。だがドッコウ団にとって半端は価値がない。ここから加速してもらう。健闘を祈る」


 床が突然動き出し、エスカレーターのようにバイクごと前方へ引っ張られていく。

 レイもシノもハンドルを取られた。


 シノはバイクから投げ出されたが、ハンが腕を掴んでレイの後ろへ引き上げた。


「大丈夫か?」


「平気! ありがと!」


 シノはハンの後ろへしがみつく。

 レイは必死にバイクを立て直す。

 その時、天井から巨大なスパイクが迫ってきた。


「レイ! 考えるより先に動いて!」


 シノが叫ぶ。


 スパイクが降り注ぐ。

 レイは月光の盾を展開し、それを防ぎ切った。

 片手で盾を維持し、もう片手でハンドルを握る。


「走り続けるよ! 私が守るから!」


 盾を解除した直後、今度は有刺鉄線が道を塞ぐ。

 シノが身を乗り出した。


「二人とも頭下げて!」


 三人は身を伏せ、シノが指先で有刺鉄線の大半を消し飛ばす。

 それでも数本は残り、腕やバイクの外装を切り裂いた。


「ごめん! まだ精度が甘い!」


「問題ない!」

 ハンが答える。

「もうすぐ出口だ!」


 次は地面から地雷がせり上がる。


「地雷!? どうする!」


 ハンは両手首の装置を展開し、壁へワイヤーを撃ち込んだ。

 その反動を利用し、レイのバイクは壁面を走り始める。

 地面にはオイルが撒かれ、さらに火炎放射器がそれに火をつける。


「残り四分!」

 ゼクの声が響く。


 レイは壁を走り続ける。

 ハンはさらにワイヤーを撃ち出し、バイクを加速させた。


「さっき運転荒いって言ったの誰よ!?」

 シノが叫び、必死でしがみつく。


 前方では、出口のスパイクゲートが閉まり始めていた。

 レイがそれに気づく。


「えっ、閉じる!」


「閉じさせるか!」

 ハンが叫ぶ。

「ここでオーバードライブだ!」


「待って、それ何――」


「ジュゲン後備者・手首装着キューブ――電撃門!」


 バイクの横に電撃門が発生し、電流が車体へ流れ込む。

 次の瞬間、バイクは制御不能なほどの速度で突き進んだ。


「きゃああああっ!」


 火炎放射器もスパイクも置き去りにし、バイクは閉じかけたスパイクゲートの下を滑り抜ける。


 旗を越えた直後、三人は壁へ激突した。


 しばらくして目を覚ますと、ザンとゼクが三人を見下ろしていた。

 どちらも満足げに頷いている。


「見事だ」

 ザンが言う。

「参加者の七四パーセントが死ぬコースを生き延びた」


 ハンは腕を鳴らした。


「それを子供相手に平気でやってるのか?」


「子供もいつかは男になる」

 ザンは肩をすくめる。

「昔の知り合いがそんなこと言ってたもんでな」


 彼は三人を立たせた。


「来い。仲間のところへ案内する。表じゃない、本当の仲間のところへ」


 三人は歩かされるまま、近くの通路を進んでいく。

 十分ほど歩いた先で、大きなホテルへ入った。

 中では多くのドッコウ団員たちが思い思いにくつろいでいる。


「ずっとここが拠点だったのか?」

 ハンが呆れたように言う。

「廃ホテルそのまんまじゃん」


「何が悪い?」

 ザンは笑う。

「快適さと実用性。地下組織にはうってつけだろ」


 ザンはレイの肩を抱いた。


「案内しようか?」


「え、うん……」


 そのままザンはレイとシノを連れて上階へ向かう。

 ハンは少しだけ歩みを遅らせ、ゼクへ声を潜める。


「なんでそんなにレイに執着してる?」


「逆に聞くが、理由がいるか?」

 ゼクは笑った。

「度胸があって、強くて、しかも可愛い。最高だろ」


「……」


 ゼクはハンを脇へ引き寄せる。

 シノたちが上へ行ったのを確認してから、低い声で囁いた。


「お前の仲間、いい女ばっかじゃねえか。手ぇ出そうと思ったことないのか?」


「ない」

 ハンは即答する。

「あいつらはオマリロ先生が好きだし、俺のことはせいぜいうるさい兄貴分扱いだ」


「でも、お前が“男”になれたら?」

 ゼクの声が甘くなる。

「お前自身が伝説になれたらどうだ? アビスがお前を選んだのには理由がある。今より上に行きたくないのか?」


 ハンは一歩下がる。

 だが思考は揺れた。


「……もう二度と先生を裏切る気はない。でも……もしこれが計画の助けになるなら……」


 ゼクはハンの肩に腕を回した。


「なら答えは決まってるだろ」


 一方その頃。

 ザンはシノとレイを上の作戦室へ連れて行っていた。

 部屋では団員たちが何かの見取り図を囲んでいる。


 シノは一目でそれが何かを見抜いた。


「……これ、カイタンシャ本部?」


 ザンは頷く。


「やつらの持つ資源が必要なんだ。お前らは試験を突破した。だから今回の任務を任せる」


「何をしろって?」


「本部へ侵入しろ」

 ザンは言う。

「狙うのは『Dungeon』とラベルの貼られたファイルだ。構造図と機密情報さえ手に入れば、俺たちは止められなくなる」


 レイが辺りを見回した。


「ねえ、ハンは?」


 ザンは不敵に笑う。


「心配するな。ハンもすぐこっちへ来る」


 彼は作戦図へ向き直る。


「すぐにな」


 その頃、近くの武器庫ではゼクがハンへ革の衣装や武器を見せていた。


「さて」

 ゼクは笑う。

「軟弱な陰キャ坊やを、イカした支配者系オスに変える時間だ」


「どうやって?」

 ハンが問う。


 ゼクは武器庫の奥にある隠し部屋へハンを案内した。

 そこには、紫色に発光する液体が入ったカプセルが並んでいる。


「何だよ、これ」


「ジュゲン堕落だ」

 ゼクは言う。

「俺たちの改造された力の源。根源から採取したものだ」


 彼は一本のカプセルを持ち上げ、ハンの目の前に掲げる。


「その根源の名は――追放王」


 ハンの目が揺れる。


「アビス・ロード……」


「そうだ」

 ゼクはにやりと笑う。

「さあ、ハン」


 カプセルをさらに近づけた。


「お前はどうする?」


 ―――

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