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――第81章・潜入――

 カイタンシャ本部――


 ハヤテが振り向くと、オマリロがカオルを連れて本部の廊下を歩いていた。


「おお!」

 ハヤテが声を上げる。

「やってくれたんだな、オマリロ! カイダンチョウを一人、連れ戻したのか!」


 カオルはぺこりと頭を下げた。


「こんにちは、局長! 勝手にいなくなってしまって、本当にすみませんでした。許してもらえますか?」


「もちろんだとも。だが、どうして戻る気になったんだ?」


 カオルは頬を赤くしながら、オマリロの方を見る。


「オマリロ先生です。先生が私の暗い過去に向き合わせてくれて……それに、お姉ちゃんまで受け入れてくれたんです!」


「……待て、何だって?」


 オマリロはそのまま歩き去ろうとしたが、カオルが慌てて呼び止めた。


「せ、先生! えっと……他のみんなはどうしたんですか? もう連れ戻したんですか?」


「他は問題だ」

 オマリロは短く答える。

「カイタンシャの問題だ」


 ハヤテは額に手を当てた。


「肝心なところで去るのか、お前は……」


 だがカオルは胸の前で手を組み、目を輝かせる。


「先生が私のために来てくれたんだ……! やっぱりヒーローです! 私のヒーロー!」


「カオル」

 ハヤテが咳払いする。

「戻ってきた以上、他のカイダンチョウの奪還にも協力してもらう。危険だし、連中が素直に戻るとも限らない」


「分かりました、局長!」


 その頃――


 ザリア、リカ、レイ、ノノカの四人は瓦礫の中から這い出てきた。

 そこへハンとソウシンが駆け寄り、二人で彼女たちを掘り起こしていく。


「みんな!」

 ハンが呼びかける。


「ハン?」

 ザリアが頭を押さえながら顔を上げる。

「戻ってきてたのか!」


 四人は思わず彼に抱きついた。

 ハンは一人ひとりを見回す。


「何があったんだ?」


 ソウシンはリカの肩についた土を払いながら首をかしげる。


「うん? なんでビッグシス・リカ、こんなにほこりまみれなの?」


 リカははっとしてハンを見た。


「ハン、先生は? でっかいスライムがいたの! 先生を探してた! 妹を取り返すとか何とか言ってて……!」


「でも、なんでミスター・オマリロがそいつの妹を持ってることになるの?」

 ノノカが眉をひそめる。

「まさか……」


 ソウシンがこくこくと頷く。


「新しいペット、お兄ちゃんがいるんだって! すっごく強いって言ってた!」


「ムジンシャ級で強い?」

 ノノカの顔色が変わる。

「ダメだわ。あのスライムは誰かに預けるべきよ。先生が危なくなる!」


 ザリアは頭を押さえながら唸る。


「でも、先生はあいつを手放す気なかったしな。それに、うざいけど使えるのは事実だ。兄貴と話つけられるかもしれないし」


「先生からは屋敷で合流しろって言われてる」

 ハンが言った。

「急ごう」


 ソウシンは近くの車両に触れ、動かした。

 一行はそれに乗り込み、その場を離れていく。


 その様子を、離れた高所からザンとゼクが見下ろしていた。


「てっきりあのスライムが片づけてくれると思ったんだがな」

 ザンが肩をすくめる。

「お前の計画は、相変わらず甘い」


「いや」

 ゼクは首を振った。

「むしろ逆だ。これで連中は確実に標的になった。日本はもうすぐ俺たちのものになる」


 そこへドッコウ団のバンが横付けされる。

 二人はそのまま飛び乗った。


 車が市街地を走り抜ける中、彼らはモンスターに追われる市民たちの姿を見下ろす。


「弱いな」

 ゼクが吐き捨てる。

「英雄がいなきゃ立ってもいられねえのか」


「なら、その隙を突いて俺たちが信頼を奪えばいい」

 ザンが言う。

「行くぞ、兄弟」


 二人はバンを降りた。

 するとすぐ近くで、シノとその兄弟たちがモンスター相手に戦っているのが見えた。

 ゼクも外へ出ようとしたが、ザンが手で制した。


「待て。これは面白そうだ」


 シノが指を構える。


「ジュゲン滅者・指先滅鍵!」


 何体ものモンスターが、波のように一瞬で消し飛んだ。

 その横ではバルトが大剣を構える。


「ジュゲン闘士・裂断殲滅の崇剣」


 大きな欠伸を一つしながら剣を振るい、スケルトンの群れをまとめて斬り伏せる。

 さらにバクオウがバイソンへ変身し、ゴーレムたちへ突っ込んだ。


「ジュゲン変性者・荒野憤怒の獣牛!」


 ゴーレムたちはまとめて吹き飛ばされ、地面に砕け散る。

 三兄弟が再び集まったところで、ザンが背後から拍手しながら現れた。


「見事だ。実に見事だな」


 シノが振り返る。


「……ありがと? で、あんた誰?」


「ザンだ」

 彼は胸を張る。

「ドッコウ団のカイダンチョウだ」


「誰も好きじゃないって噂の反逆系カイダン団体?」

 シノが怪訝そうに言う。


「まだ存続してたのか」

 バルトが眠たそうに呟く。

「人生って不思議だな」


「悪いやつらなんだよね?」

 バクオウが不安げに尋ねた。


「悪かどうかは主観だ」

 ザンは肩をすくめる。

「モンスターから見れば、お前らの方が悪だ。連中の住処に土足で入り込んでるんだからな。だが、人間は俺たちを悪だと決めつける。ルールに従わないからだ」


 彼は一歩前へ出た。


「で、そのルールの結果がこれだ。仲間は殺され、カイダンチョウは臆病者みたいに逃げた」


 そこへオーガが一体、ザンへ突進する。

 だがザンは一瞬で間合いを詰め、その顔面へ手をかざした。


「ジュゲン滅者・殲滅突撃銃」


 アサルトライフルが形成され、放たれた弾丸がオーガの身体を消し飛ばした。

 シノたち三人は目を見開く。


「うわ……」

 シノが息を呑む。

「ちゃんと本物だ」


 ザンはシノへ手を差し出した。


「お前ら、もう新しい指導者が必要だろ。うちに来い」


 シノは戸惑った。


「でも……うちのカイダンチョウが許すわけ――」


「消えたんだよ。もう一か月もな」

 ザンは淡々と言う。

「時代は変わった。乗り遅れるな」


 ザンとゼクは再びバンへ乗り込んだ。


「乗る気があるなら、俺のところへ来い。渋谷だ」


 そう言い残し、走り去っていく。

 三兄弟はその場に立ち尽くした。


「ど、どうするの?」

 バクオウが尋ねる。


「俺はどうでもいい」

 バルトはあくび混じりに言う。


 シノは顎に手を当てて考えた。


「うちのカイダンチョウと同じくらい信用できるカイダンチョウが、一人だけいる」


 彼女はきっぱりと言う。


「オマリロ先生に聞こう」


 シンカイダン邸――


「先生、ちゃんと聞いてください!」


「ムジンシャが先生を狙ってるんです!」


「お願いです! あのスライム、もう手放してください!」


 屋敷のリビングで、子供たちは口々に訴えていた。

 だがオマリロは杖を軽く打ち鳴らし、それだけで全員を黙らせた。


「先生……?」

 ザリアが首をかしげる。


「心配はいらん」

 オマリロは言う。

「状況は分かっている」


「待って、先生。それって、あのスライムに兄がいるって最初から知ってたの?」

 ノノカが目を見開く。

「先生、自分を危険にさらしてるのよ!」


「兄スライムは私のところへ来る」

 オマリロは落ち着いた声で言う。

「罠に落ちる」


「でも、すごく強いんです!」

 リカが食い下がる。

「先生も強いのは分かってます。でも、ちゃんと気をつけてください!」


 そこへエメルがぴょんぴょんとリビングへ跳ねてきた。


「何かあった?」


 オマリロはそのまま歩き出す。


「状況は制御下だ」


 その時、玄関の扉がノックされた。

 ハンが開けに行くと、そこにはシノが立っていた。


「ハン?」


「シノ? えっと……どうした?」


「先生にちょっと相談したくて」


 オマリロが振り返る。

 疲れたような目だ。


「話せ、女」


 シノはすぐさま彼の前へ駆け寄った。


「はい! えっと、新しいカイダン団体があるんです。ドッコウ団って名乗ってて、人助けしてるっぽくて。ユカさんが一か月も行方不明だからって、私を誘ってきたんです。先生、入るべきだと思いますか?」


「入れ」

 オマリロは即答した。

「それが賢い」


「えぇっ!?」

 子供たちが一斉に声を上げる。


「ほんとに?」

 シノは目をぱちぱちさせた。

「じゃあ、そうします!」


 ザリアはオマリロの方を振り向く。


「先生の言葉は信じます。だからこれも信じますけど……本当にそれでいいんですか?」


 オマリロは頷いた。


「女と男が同行する」


 彼はレイとハンを指した。


「待ってください」

 ハンが状況を察して口を開く。

「これって潜入任務ですか?」


「そうだ」

 オマリロは答える。

「相手は企んでいる。こちらも仕掛ける」


 シノの頭の上で電球が灯ったように、ぱっと表情が明るくなる。


「あっ、分かった! ドッコウ団の企みを暴くんですね!」


 そのまま彼女はオマリロへ身を寄せた。


「先生、やっぱり頭いい!」


 だがオマリロはその場から消えた。


「……またいなくなった」


「そいつら、どこで会えって言ってた?」

 ハンがシノに尋ねる。


「渋谷。たぶんだけど、いかにも不良っぽい反逆少年団みたいなのを探せばいいと思う」


「そうか。じゃあ、やるしかないな」

 ハンは息を吐いた。

「先生からの任務だ。失敗はできない。行くぞ、レイ」


「うん! 任務だー!」


 三人はそのまま屋敷を出ていった。

 リビングにはソウシン、ザリア、リカ、ノノカの四人が残る。


 ノノカはソファに座り込み、テレビをつけた。


「まあ、私たちに今できることは少ないわね……。あ、見て。お父さん」


 画面には、アツシが大阪の街で巨大サスカッチの群れから市民を守っている様子が映っていた。

 ゴーレム形態となり、怪物を押し返している。


「どんだけダンジョンモンスターいるのよ……」

 リカが目を丸くする。

「そのうち殺人スーパーコンピュータとかも出てこない?」


 ザリアがリカの脇腹を小突き、ソウシンを指差した。


「……おい」


「あっ、そっか。ごめん、リトル・ブラザー!」


「大丈夫だよ、ビッグシス・リカ!」


 二階の自室では、オマリロがコーヒーを飲んでいた。

 すると、すぐそばにマリンが立っているのに気づく。


「女」


「オマリロ」


「何の用だ」


「どうやって入ったのかは聞かないの?」


「関係ない」


 マリンは鼻で笑う。


「まあそう言うと思った。私が来たって分かってたら、どうせ扉を開けなかったでしょ。だから少し工夫したの。コウイチとミズキの居場所は特定した。今は福岡で二人一緒に身を隠してる」


 オマリロは何も言わず、コーヒーをすする。


「で?」

 マリンが睨む。

「昔の女にちょっとくらい協力する気はないの?」


「ない」


「じゃあ、街のためなら?」

 マリンは言葉を重くする。

「東京も大阪も、他の場所も。どうでもいいとは言わないでしょ?」


「……」


「詳細は送れる。護衛のエージェントもつけられるけど――」


「いらん」

 オマリロは遮った。

「同行は学生のみ」


「本気なの?」

 マリンが眉をひそめる。

「まだルーキーなのよ。カイダンチョウが抵抗してきたらどうするの?」


「学生は価値を示した」

 オマリロは短く答える。

「対応できる」


「相変わらず頑固」

 マリンは深いため息をつく。

「でも、あなたを止められる人なんていないものね。頑張って、オマリロ」


 彼女がそう言った頃には、オマリロはもう立ち去っていた。


「……ほんと失礼。ありがとうくらい言えないのかしら」


 その時、エメルがぴょんぴょん跳ねながら部屋を横切り、近くのドールハウスへ入り込んで眠り始める。


「それにしても、ペットの飼い方まで雑……」


 渋谷――


 ハン、レイ、シノの三人は渋谷の街を歩き回り、ドッコウ団の痕跡を探していた。


「渋谷って言ってたよな?」

 ハンが確認する。


「たしかに」

 シノも頷く。

「ハッタリじゃなければだけど」


 レイが、壁にもたれかかっているスキーマスクの男を指差した。


「あの人とかどう?」


「たしかに、いかにもドッコウ団っぽい」

 ハンが小さく頷く。

「話してみよう」


 三人が近づくと、男は面倒そうにこちらを見た。

 シノはひらひらと手を振る。


「ねえ。ザンに会いたいんだけど、あなたがその窓口?」


 男は無言で彼女を見つめる。

 シノはハンとレイを引っ張って小声になる。


「ここはちょっと不良っぽい感じでいくべきかな?」


「やめた方が――」

 ハンが言いかける。


 シノは咳払いした。


「おい、そこのあんた。あたしをその団に入れろ。今すぐだ。嫌ならここでやるけど?」


 男の表情が、わずかに感心へ変わる。

 ハンは額を押さえた。


「……嘘だろ」


 男はいきなりシノへ拳を放った。

 しかしレイが前へ出て、それを受け止める。


「それはダメだよ!」


 続けてレイを蹴ろうとするが、レイは身をかがめて男を突き飛ばした。


 男は一つ頷く。


「……いい動きだ。速い。鋭い」


 顎を撫でながら、三人を見比べる。


「他はともかく、この女は十分使える。ついて来い」


「私?」

 レイがきょとんとする。


「……どうやらそうらしい」

 ハンは肩をすくめた。

「よくやったな」


「やったー!」


 三人はその男について路地へ入り、金属製の扉の前まで進む。

 男はそれを三回ノックした。

 中からしゃがれた声が返る。


「誰だ」


「ストーンだ」

 男が答える。

「開けろ」


「合言葉は?」


「奈落」


「入れ」


 扉の鍵が外れる。

 ストーンが顎で合図した。


「来い」


 三人は一瞬だけ顔を見合わせ、それから中へ入った。


 中はナイトクラブのような空間だった。

 男たちは革ジャンにジーンズ、女たちは革ジャンにスカート姿。

 酒を飲み、笑い合っていた空気が、三人が入った途端にぴたりと止まる。


 大柄な女がストーンの前に立ちはだかった。


「何連れてきたんだよ、ストーン」


「こいつがザンに呼ばれたって言うんだ」

 ストーンはシノを指す。

「それと、裸足の女の度胸は本物だ」


「ふーん。じゃあ奥の部屋にゼクがいる」

 女は言った。

「私が連れてく」


「任せる」


 ストーンは去っていく。

 女は三人に顎をしゃくった。


「ついて来い」


 歩きながら、レイがその女に話しかけた。


「ねえ、お姉さん。名前なんていうの?」


「ヴィーナス」

 女は振り返りもせず答える。

「でも馴れ馴れしくすんな、能天気女。ここにお前の友達はいない」


「まだね!」

 レイは明るく言う。

「でも、これから変わるかも!」


「ほんと、お前が評価通りかどうか祈るよ」


 やがて一行は奥の事務室へ通された。

 ゼクがニュース映像を見ながら立ち上がる。


「……ほう。誘いに乗ったか、シノ」


 だが彼はすぐ、ハンとレイに気づく。


「は? 何だこりゃ」


「私たちも入るために来たの!」

 レイが胸を張る。


「俺もだ」

 ハンも続ける。


 ゼクは勢いよく立ち上がった。


「マジで言ってんのか? 世界で一番有名な男の弟子どもが、ドッコウ団に入りたいだと?」


 三人は頷く。


「連中の師匠はどっかに消えた。だから今は居場所が要るんだよ」

 シノが説明する。


「なるほどな」

 ゼクは目を細める。

「うちは差別しない。ヴィーナス、こいつらの住居を当たれ。本当か確認しろ」


 それから三人を外へ促した。


「お前らはこっちだ」


「どこへ?」

 ハンが尋ねる。


 ゼクはにやりと笑った。


「価値を証明しに行くんだよ」


 ―――

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