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白い結婚から始まる貧乏令嬢の成り上がり ~いかなる時もエカテリーナは利益「だけ」いただきます!~  作者: 相生蒼尉
第2章

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38 実家の立て直しに協力する気持ちは無きにしも非ず



「久しぶりね、ライオネル」

「……姉上。何度手紙を送ったか、ご存知ですか?」

「4回、かしら。それ以上は読んでいないわ」


 私は指を折って届いた手紙の数を数えながらそう答えました。


「全部届いているではありませんか……どうして会ってくれないんですか!」

「そう怒らないで。私も忙しいのよ、色々と」

「家令のシーズニング卿からは、サンハイムの山荘にいるとお聞きしましたが……?」


 あら、スチュワートったら。

 言わなくていいことまで教えているわね……。


 どうも、エカテリーナです。


 今日は久しぶりの弟との面会ですわ。

 しかも……。


「ねえ、見て、ライオネル。この応接室も懐かしいわねぇ……」

「話をそらして誤魔化そうとしていますよね、姉上……?」


 ……私が結婚前に暮らしていたケンブリッジ伯爵邸での面会です。いえ、今はもうケンブリッジ邸ではありませんけれど。


「……私はつい最近までここで暮らしていたので懐かしいという風には感じません。姉上だって、別に何年も前という訳でもないでしょうに……」

「それでも懐かしいと思うのよ。こうして応接室でライオネルと話していると尚更、ね」


 結婚して家を出るということは、やはり特別なのです。

 それが、どんな形の結婚だったとしても。相手がドクズな旦那様であっても、です。


 ……今頃、新たな浮気相手の平民女性とお楽しみかもしれませんわね?


 もちろん、どうでもいいので気にしておりません。

 そんなことを思ってしまうのは、この応接室で私の結婚が決まったからでしょう。


「……それで、新しい屋敷はどう? ちゃんとやれているのかしら?」

「父上以外は特に問題なく……むしろ使用人はみな、かなり助かっているようですね。こことは広さが違うので」

「そう、それは良かったわね」

「ああ、庭師のディカー親子は少し残念そうにしていましたが……」

「うふふ、庭はかなり狭くなってしまったから、仕方がないわね。そうね、たまにこちらで庭の世話を頼んでもいいかしら? ちゃんと給金は払うわよ? ケンブリッジ伯爵家に」

「……そういうことなら、彼らも喜ぶと思います……」


 複雑そうな顔でライオネルはうなずきました。

 使用人の働きをかすめ取るようであまりいい気分ではないのでしょう。受け取ったあとに、ディカー親子へ少し分け与えればいいことですのに。


 さて、懐かしんでばかりもいられません。

 ライオネルを通じて、この屋敷を私が買い取りました。

 抵抗する可能性は低かったとはいえ、母を説得したのはライオネルです。よく頑張りました。母を説得すれば、父は問題ありませんもの。


 そして、別の元男爵邸をライオネルに売りましたわ。

 ケンブリッジ伯爵家は今、その元男爵邸で生活しております。没落しかけた伯爵家の身の丈に合った屋敷です。

 ちなみにそちらの男爵家の方々は、大夜会に合わせて王都を訪れる時に、この旧ケンブリッジ邸に宿泊する予定になっております。


 ライオネルはケンブリッジ伯爵邸を売り、元男爵邸を買ったのです。

 その差額で浮いたお金をうまく使うように……具体的には私の商会に投資するように言っておいたのですけれど……まだ、投資していないようなのです。

 タイラントお兄様からはそう聞いています。


 だから、相談したいのはそのことなのかもしれないと思ったのですけれど。


「それで、私に相談したいというのは……婚約の話でいいのかしら?」

「婚約の話はどうでもいいです。いや、どうでもよくはないけれど……今じゃないです」


 ……やはり婚約の話ではないようですわ。


「冗談よ。それで、資金はどうしたのかしら? まさか、お父さまが使ってしまったとは言わないでしょうね?」

「流石にそれは防ぎましたよ。母上が協力して下さったので」

「あら?」


 母がそういう部分で父を止めるとは思いませんでした。

 領地の経営に使うと言い出せば、そこには口出ししないだろうと思っていたのですけれど。


「何ですか、その意外そうな顔は……?」

「お母様がお父様を優先しなかったのが意外だったのよ」


「姉上は母上を何だと思っているんですか……。母上は私が伯爵家を継ぐ時のためにあの1万ドラクマを使うべきだとおっしゃっていて……。つまり、姉上の商会への投資ではなく、領地で何か事業をするべきだというお考えのようで……」


 まあ、それは正しい感覚でしょう。一般的には。


 流石はお母様というべきかもしれません。

 私の商会に投資して配当金を受け取ったとしても、現状では焼け石に水とも言えますから。


 ……将来的には損はさせないつもりでしたけれど、誰もが未来図を思い描ける訳ではありませんもの。仕方がないことです。


 もし、領地からの収入を増やすことができたのなら、それはそのままライオネルが伯爵位を継いでもずっと続く宝になる可能性もあるのですから。


 でも……そのための事業が思いつかない、というところですわね。

 お母様は家政の倹約は得意ですけれど、領地の経営に口出ししたことはございませんし。


 ……そもそも、ケンブリッジ伯爵家には、挑戦して、失敗することが許されるだけの金銭的なゆとりはありませんでしたから。


 ケンブリッジ伯爵領は王都に近いこと以外には本当に何もない領地です。

 古い家柄だから、王国がまだ小さな頃からそこに領地があったというだけ。


 だから事業にするのなら……まあ、いくつか思いつきますし、調査もしてはいますけれど……。


「つまり、どういう事業をやればいいのか、相談したいということでいいかしら?」

「……申し訳ないとは思ってるんです。でも、姉上くらいしか頼れそうにないし……」


 私がケンブリッジ伯爵家にいた頃は、資金など欠片も保有しておりませんでしたし、私に領地経営への口出しをさせるようなこともありませんでしたのに。

 まあ、資金が足りずにできることもなかったとは思いますけれど。


 別に実家を見捨てて滅べばいいとは思っていませんから、手助けするのは構わない。とはいえ、私に何の利益もないというのは許せないので……。


 エカテリーナ、行きます。


「まず、1万ドラクマのうち、5000ドラクマは出資しなさい、ライオネル」

「えぇ……姉上、それは……その……」


 ライオネルを私のところへと送り込んでいるのはおそらくお母様のはず。それはほんのわずかでも私からの同情を引くため。

 だから、決定権はライオネルにはないと考えた方がいいでしょう。


 5000ドラクマは無理としても、3000ドラクマは吐き出させたい。それがライオネルのためでもある訳ですし。

 どうせお母様ならそのラインを狙ってくるでしょう。倹約家ですもの。


 そのうちの2000ドラクマでケンブリッジ伯爵家を建て直すためのふたつの商会を起こす。そのために使うとして……その商会にはナナラブ商会からも出資しておくべきですわね。

 4000ドラクマずつで8000ドラクマ、タイラントお兄様に準備してもらいましょうか。出資比率は4対1くらいがいいでしょう。

 伯爵家の方は配当金ではなく、事業の方で税収を上げてもらえばいいのです。配当金はこちらの取り分だと考えれば私にも利益はありますし。


 残りの1000ドラクマはサラのところのザラクロ商会への出資という形でいいでしょう。

 ドレス代を少し割り引いて提供するという話を持ち掛ければ、お母様なら落とせます。前世でいう株主優待のようなものですわ。

 配当金との相殺でドレス2着分という手も……あり、ですわね。そちらの方がいいかもしれません。


「お母様の説得はあなたが頑張りなさい、ライオネル」

「でも、姉上……」

「いずれあなたが伯爵家を継ぐのです。母親だからと従うばかりでは何もできませんよ。しっかりなさいな、跡継ぎなのですから」

「……はい」


 渋々という感じですけれど、ライオネルもうなずきました。『姉上……母上は3000ドラクマしか認めて下さいませんでした……』と泣きついてくる姿が既に見えている気がします。


「ただ、説得のための材料は少しだけ教えます」

「え? いいんですか……?」

「あなたは弟だもの。私だって、ライオネルのことは心配しているのよ、これでも」

「……本当ですか……?」


 ……何かしら? その疑いの目は?


 別に嘘ではありません。

 家族としての情がゼロという訳ではないのです。無償奉仕はしたくないというだけの話ですので。


 では、引き続き……エカテリーナ、行きます。


「5000ドラクマの出資金を使って、ケンブリッジ伯爵領を改革するために必要な商会を新たに立ち上げるつもりです。そのために必要だと、お母様には伝えなさい」

「新たな商会、ですか……?」


 輸送のための商会と、販売のための商会を用意しなければなりません。

 そのあたりの事務的な部分はタイラントお兄様に丸投げでいいとして……商会の名前ですわね。


 輸送と……農産物の生産や販売ですから……クロサガ商会とタネサカ商会でいいでしょう。


 誰を会頭にするかはよく考えなければいけないけれど、クロサガ商会はドットがいいかもしれません。今は御者として務めていますし、ちょうどいい退職先になる可能性が高いでしょう。退職後もちゃんと職があればタバサとの結婚もできるでしょうし。


 タネサカ商会は……後で考えた方がいい、か。

 農業や畜産業に詳しい人材をどこかで見つけなければなりませんわ……。

 マークスの谷の農園で探す方がいいかしら……?


「姉上? いったい、何の商会を……?」

「あら、ライオネル。まだ何の契約も成立していないというのに、私が全てを説明するとでも?」


 情報にも価値があります。

 そう簡単に教える訳にはいきません。


「あ、いえ……。そんなことは思ってません」

「よろしい。ああ、そうそう。出資すればドレスがお買い得になるとお母様に伝えなさい。それなら説得材料になるでしょう?」

「あ、はい! ありがとうございます、姉上!」


 ……この子もお母様はお買い得ドレスの話なら飛びつくと理解しているのね。そこは何だか悲しくなってしまいますわ。


 私は笑顔の弟に微笑みを返しながら、心の中で苦笑いしたのでした。






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