◇睨みあう二人◇
「・・・ニルス様」
やばい、ばれた。
頭の中でどうやってここを切り抜けようかと忙しく考えていた俺は、ニルスの怒りが亜空間のことを黙っていたことではないことに気が付いていなかった。
「その男は、誰なんだ?何故抱き合っている?」
抱き合って?
俺は目の前のレオに視線を戻した。
端正な横顔。少年から青年へと移行しつつある、線の細い、でも、鍛えられた身体・・・に抱きしめられている自分。
……に気が付き、ぎょっとした。
うぉっと!近い!近すぎます!
こいつに接近されていい思い出はなかったんだっけ!
てか、さっき頬にキスされた!
何故に?何かの儀式なのか?呪いか?呪いの儀式なのか?
・・・・落ち着こう。
単なる礼だな。おそらく。
レオを助けるのは当たり前のことじゃないか。謎の軍団に襲われた時、レオだって俺のことを助けようとしてくれたし。レオは身内じゃないか、たぶん義弟になるんだし!
「…お前こそ・・・。いや、お前が金でアリサを買った貴族か」
俺を自分の背後押しやって、レオが低い声で唸るように言う。
お互いに親の仇でも見るような目つきでにらみ合う二人の少年。
「返してもらうぞ」
「寝言は寝て言え」
レオがおかしい。
そりゃ一緒にパーティを組んだりして多少は歩み寄れたとは思ってはいたけど、 ウィルに近づく不審な女として、そもそも俺の事を警戒して排除しようとしていたじゃないか。何故態度をかえる?
「そもそも、自分の不始末のために、自分の想い人を奴隷落ちさせるような奴に、まかせられるか!誰が大人しく返すものか。」
ニルスも言ってることがおかしい。
そもそも俺はニルスの奴隷じゃないし、第一想い人というか彼氏は兄のウィルの方だし。
「アリサは、俺の兄の恋人だ」
レオが訂正した。
こ、この発言は・・・ウィルの恋人として認めてくれているのか?、ものすごい前進じゃないか?
ついこの間、俺を押し倒して兄から離れろと警告ぶちかましてくれた同じ相手とは思えない。
「ふん。横恋慕か。見苦しい」
「!」
レオは本当のところは、俺のことを本当に認めてくれているわけじゃない、だからそんな侮辱はゆるせなかったのだろう。ぶわっと闘志がその身体から吹き出す。
「事情も知らない癖に、わかったような口を聞く!」
「自分のケツを自分で拭けないような奴が何をいうか!」
ニルスの身体からも殺気というか闘気というか、そんな気が噴き出す。
まるで不良のメンチ切りのようにお互いがお互いをねめつけあう。
俺は途方にくれた。
ここは二人を止めたいが、
「喧嘩をやめて~。わたしのために争わないで」とか言えばいいのか?
いやいやいや。
気持ち悪いだろ、そんなポジション。
自惚れがすぎるというものだ。
二人とも、歳は同じくらいで、背格好も似ている、そして同じように鼻っ柱が強いときている。対峙した瞬間お互いにお互いを気に入らない奴と認識したのであろう。
とりあえずここで二人が争うのは意味がない。
俺の所有権はニルスの父親のキャスター・シュタインが握っているし、俺の恋人はレオの兄のウィルだ。
二人が争うなら、まだわかるが、ニルスとレオが争うのは意味がわからない。
お互いに丸腰でよかった。ニルスも部屋着のままだし、レオも寝間着のままだ。
剣を腰に佩びていたなら、今頃抜いていたかもしれない。
「もどれよ、アリサ。俺はお前を放すつもりがないと・・・言っただろ?」
いやいや、それニルスが決めるこっちゃないですよね?
それに、俺は砦の皆が心配だ。
何とか、レオだけでも皆の安否を確かめにいってほしい。
そのためにレオの体調が戻るのを待っていたんだ。
「…勝手にこいつの・・・主人顔するな」
お互いの間合いを計るように構えをとりつつ対峙する二人。
このままではニルスが危険だ。
レオは相当強い、対してニルスは一緒にダンジョンに潜った時の様子から、レオの実力には到底かすりもしないことがわかっている。
この、相手の実力も計れない癖にギャンギャンと吠えかかる悪癖はどうにかしないと・・・将来が慮れる。
「ニルス様。契約が残っているし、俺はシュタイン家をすぐには離れられません。逃げ出すこともしませんから」
このままレオと、手を取り合って逃亡するのでは?という疑惑を否定してやる。
「レオ、君が意識がもどらない間にアジャールに禍がふりかかったようだ。
一緒に、すぐさま砦に駆けつけたいが、奴隷契約を結んでしまった。
それは君の命を繋ぐため、高額な医療用装置をこの亜空間ごと商人さんに譲ってもらうための対価だ。・・・勝手にやってしまったが、レオがまだ・・・感謝の気持ちを持ち合わせているならば、王都へ使いをやって、借金分をシュタイン子爵に支払って、解放してほしい。一緒にアジャールを取り戻そう」
そして二人を睨んで言った。
「今は、こんなところで争っている場合では、ない」




