◇目覚め◇レオ視点
俺こと、レオは眠っていたらしい。しかもかなり長いこと。
ぽつり。
ぽつり。
ぽた。
何かがずっと自分の中にしずくのように染みわたっているのを感じていた。
でも、もうそれはこれ以上は入ってこないようだ。
ちょっと前までは重くてあげられなかった瞼に力が入った。
目を開ける。
夕陽の朱い色が部屋の中を満たしている。
なにかの気配が一瞬して、すぐ途切れた。
その気配の方を向くと、土くれがあったがすぐにそれはサラサラと音をたてて下に落ちていってしまった。
頭だけを動かし、周囲を見ると、白い上等な紗を何枚も重ねたような球状の繭を横にして、上だけを切り取ったような、そんな入れ物に寝かされていた。
立ち上がったら踏み抜くかも?と思えたが、全体重を二本の足で支えて立ってもそれは別に沈んだりしなかった。
軽くジャンプして飛び降りる。
少しふらついたが床に無事降りれた。
ここはどこだろう?
見覚えのあるような気がする部屋。
壁の色も木の床も、ちょっとだけ懐かしい、素朴な色。
王都の家じゃない。
あぁ兄の家だ。
「兄さん?」
誰も答えない。この時間だと、まだ砦かな?
「スミス夫人?」
買い物にでも行っているのだろうか?
「…アリサ?」
風が窓辺のカーテンを揺らしていた。物音ひとつしない。
違和感がする。
自分のいる部屋はアリサの部屋のようだが、記憶とちょっと違うようだ。
俺は部屋の戸をあけ、家の中を探す。
記憶の中の兄の家と、少しずつ何かが違う。
俺は玄関の戸を開けて外へ出た。
家の庭からすぐアジャールの草原に繋がっていた。
さわさわさわ・・・
風が草原を渡る。
夕陽のような朝焼けのような朱色の光。
空を見上げる。
…太陽がない。
「ここ、どこだ?」
草原の向こうは夜空。星が瞬いているが、いつもの夜空とは違う。
目をこらすと何か白っぽい靄のようなものが草原の向こうに見える。
そしてなにやら水音もする。
俺はふらふらと誘われるようにその場所へ歩いていった。
そこは不思議な場所だった。
石で作られた人工的な池に湯が沸いていた。
下から泡がぼこぼこ湧き出している。
その向こうには人一人がすっぽりと入るような壺が5つほど並んでいて、そこに 植物の茎からやはり湯が湧き出て注がれている。
ふと右手を見ると背の高い岩の方から流れ落ちているのもやはり湯だった。
左手には屋根の下に木で作った巨大な桶にやはりなみなみと湯がはってある。
手をつっこんでみる。
あたたかい。
ザバン
音がしたのでそちらを見ると湯けむりの中で誰かが湯につかっていた。
目をこらすと白い華奢な裸身がぼんやりと見える。
思わず自分の目を手で隠すのと、「だれ?」
という誰何する声が一緒になった。
「レオ!」
誰かが俺の名前を呼ぶのと水が跳ねる音が近づいてきて、俺はびしょ濡れの誰かに抱きしめられた。
「ご、ごめん。覗くつもりじゃ・・・」
言いかけると相手ははっとしたように身体を放した。
「大丈夫、水着着てるし」
水着が何かはわからなかったが、何かは着ているようだ。
俺はおそるおそる、声の主を見た。
やっぱりアリサだった。
少し痩せたかな。顎がシャープになり、目が潤んでいるのは・・・何故だろう?
「レオも入る?土埃まみれだったものね」
彼女はカラフルな下着らしきものを身につけていた。胸と尻とを完全に包むタイプのもので、俺が知らないものだった。
「そこに、レオの水着があるから、それ、あっちの着替えるとこで着替えてきて?」
言われるまま、着替えをすます。ズボンの丈の短くしたものだ。
上半身には身につけるものがなかったのだがいいのだろうか?
「そこに座って」
着替え終わっていくと小さな台の上に座らせさせられた。
「お湯かぶせるからね」
アリサの主導で、足元からお湯がかけられる。
「熱くなかった?」
首をふると、
次は頭から湯がかぶせられる。
「石鹸つけるから目閉じていて。」
どうやら頭を洗ってくれているようだ。
指の腹でマッサージをするようにこすられる。
気持ちがいい。
「傷は・・・治ってるね。大丈夫みたい」
次に泡立てた石鹸で背中を洗われる。
くすぐったくて変な気持ちだ。
「ま、前と足は自分で洗って?」
もちろんそのつもりだった。石鹸を手渡される時、彼女の手ごと握ってしまった。小さい・・・。
ひととおり洗うと、お湯をかけて流してくれる。
「もう目、開けて大丈夫よ。お湯に入って?」
そう言われて、促されるまま、湯の中に身体を浸す。
気持ちがいい。
自然と息を吐いていた。
「目覚めたばかりだから、あったまったらすぐ出ましょう?湯あたりおこすかもしれないし」
50数えてと言われ、素直に数える。
湯からあがると、肌触りのいい布を差しだされた。
それで身体をふくと、着替えを渡された。
見たことのないような服だった。
着方がわからなかったので適当にひっかけると、アリサが直してくれた。




