◇光明◇
俺が奴隷生活をしている間に世の中は大きく動いていた。
がくがくと首が揺れるほどリングルを揺さぶって、彼から事の子細を聞く。
俺がリュリュとガレージもどきの小屋に隔離されていた頃、
アジャール平原に突如として魔獣の群れが涌いて出た。
それはリスボレイを飲み込み、魔の地であるアジャール砦の南側に向かって移動をはじめ、砦は完全に孤立してしまったと。
ウィルは、ライラさんは、クリスは、ディーンは・・・剛腕の盾のメンバー、スミス夫人
みんな無事だろうか?
「ワルシャール国の王都も、避難民の受け入れとか騎士団の派遣で、ハチの巣をひっくり返したような騒ぎだって」
俺はきびすを返して走りだした。
皆から見えないような物陰を探して。
「あっ、おい」
ニルスが引きとめようと起き上がったが、双子に止められた。
「一人にしてあげようよ」
皆の死角まで走ると、俺は亜空間への扉をインベントリより出した。
一気に飛び込み、ダルトンを探す。
「ダルトンさん!?」
やはり亜空間にダルトンはいないようだ。
俺は念じて、紙とペンを具現化させた。
彼は転生者だ。だけど日本語を覚えているだろうか?
不安は残るが、急ぎ、アジャール砦の孤立の話を聞いたこと、至急連絡をとりたい旨を書いて、 テーブルに置いた。
そして眠っているかのようなレオの傍に寄った。
「寝ている場合じゃないよ、レオ。ウィルが、みんなが大変なんだ」
涙が頬を伝って、レオの頬に落ちた。
ああ、俺、泣いてるんだ。そう思ったら歯止めが効かなくなった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
声をあげて泣いていた。不安に、悪い予感に押しつぶされそうだ。
奴隷とかやってる場合じゃないのに、今すぐアジャールへ飛んでいきたいのに。
俺には自由がない。この状況を切り抜ける方法も思いつかない。
俺は、無力だ。
絶望が胸を支配する。
2年なんて、ここにいれない。
すぐにでも、皆の安否を確かめたい。
感情の発露を無理やり抑え込んで、俺は亜空間から出た。
「 うぉっと!どこから出てきた?どこにいた?」
どうやらニルスが俺を探していたようだ。
突然現れた俺にびっくりする。
扉から出てくるところは見られなかったようだ。
だが、こっちの危機的状況からすると、皆で亜空間に退避とかも考えなければいけないかもしれない。
そもそも、俺の能力を隠していれるほど、この世界は平和ではないのかもしれない。ギリギリの綱渡り状態なのだ。
使えるものは使わないと、能力を隠して死んでしまったら本末転倒だ。
「その、元気だせよ」
下手ななぐさめだ。
俺はニルスに返事をせず、皆から少し離れたところで座って、頭を膝におしつけた。
考えろ、アリサ
諦めたら、そこで終わりだ。
俺のできること、俺の能力で使えるもの、使えないもの、
組み立てて、発展させて・・・何とかならないか?
魔法・・・は今は使えない、レオの延命が優先だ
剣術・・・使える。体術も使える。今の状況を脱するために最大限活用する。
ヘンシン・・・アイテムやワードロープ、使うべきだ。今使わなくてどうする?
亜空間・・・仮死状態のレオを見られるのはダルトンとの約束を反故することになるかもしれないが、非常の際にはここに退避もありだろう。
そういえば、亜空間でおれが具現化できたものは外でも消えたりせずにちゃんと存在してたな。考えてみれば、これ、かなりのチート能力じゃないか?
そこまで考えて俺は気がついた。
「俺はバカだ」
貨幣の複製は禁忌だ。だから無意識に自分の中で除外していたみたいだが。
なにか価値のあるものを、亜空間で具現化して、こっちでそれ売って、自分を買えばいいじゃん。俺はバカだ。なんで思いつかなかったんだろう。
ダルトンにもそれで対価を払えばよかったんだ。なんでわざわざ奴隷になるとかいう選択をしちまったんだ。
一筋の光明を見つけて、俺は急に力が湧いてきた。




