◇油断◇
「起きて、アリサ、起きて」
ビタビタと頬を叩かれ覚醒する。
俺は飛び起きて、構えようとしてふらつく。
「急に起き上がっちゃだめ。」
マリィが俺の顔を覗き込む。
「…どのくらい気を失っていた?」
「大丈夫、気を失っていたのは、ほとんど一瞬だったよ」
「エーテル飲む?」
リリィが差し出す。
「すごいね、魔法使えるんだ?」
「…今更だけど、他には黙っててもらえるとありがたい」
俺の頼みを彼女達は頷いて了承してくれた。
「わたしたちはそれでいいけど。他の人は…どうかな。特にニルスとか」
俺の買主であるシュタイン子爵は、攻撃魔法が使えないという触れ込みで俺を買っている。
ばれたら、もう解放してもらえないかもしれないし、奴隷商の方に万が一知れたら売買を撤回するとか、俺を買い戻すとか言い出すかもしれない。
ダルトンからの情報によると魔法使いは希少なのだ。
一度手に入れた強いカードを手放すとは思えない。
あれはそういう「能力」ってことで誤魔化されてくれないだろうか。
しかもダンジョンに入ってからの危機的状況で目覚めたとか何とかご都合設定で。
無理だろうなぁ。
気を失う前に、元の装備に無意識に戻していたようだ。
今は下履きとアンダーシャツの上に双子の魔法使いが自分たちのローブをかけてくれている。
「とりあえず服を着ようか?男子達がこっちを見れなくて困ってるみたい」
服を禄に着る時間すらなくて戦闘に突入したのだ。
今思えば、禄な防具もつけていない状態でよく戦ったといえる。
最後に残ったボスクラスは俺以外のメンバーだけでやっつけたらしい。
奴がやられなかったら、魔力枯渇を起こした俺は一番最初に殺されていただろう。危なかった。
眩暈がして軽く倦怠感もする。
物理の指輪がまた俺の魔力を吸っているようだ。
ということは、俺はこの指輪に蓄えた分まで魔力を使ってしまったという事か。
この指輪の元の持ち主は、魔力枯渇で動けなくなって仲間に迷惑をかけないように、動けるだけの魔力をプールさせる機能を指輪にプラスしていたようだがもう少し蓄えられる量を増やしたい。
さっきは危なかった。
しかしキツイ。レオと指輪、両方から魔力を吸われている。おかげで魔力の回復のスピードが微微たるものだ。
「ニルス様」
ニルスはふりむいた。なぜか顔が赤い。
「もう動けません。俺はお荷物にしかならないでしょう、先に進むのだったら置いていってください。」
「馬鹿野郎。見捨てるかよ。お前は俺の…俺の家の大事な奴隷だ」
男気あふれる言葉だが、正直置いていってもらった方がありがたい。
ダルトンの亜空間に退避して寝ていた方が回復が早そうだからだ。
「それに、素材を剥ぐ時間も欲しいですし」
トーマスが横から口を出す。
「と、言うことだ、お前はそこで横になっていろ」
そういうとほら、という風に小瓶を俺に突き付けてくる。
「飲んどけ」
ハイポージョンだった。けっこうお高いのに。
「いただきます。」
俺は礼をいって受け取った。
腕を噛まれたハッサンは腕を布で吊っていた。
骨が折れたのかもしれない。俺の魔力が回復したら、ヒールをかけてやろう。
俺は横になったまま頭上を見上げた。
落ちてきた天井部分は暗く壁の部分に蔦ははっているがはるかに高い。
これは登るとか無理だな。
進むしかないのか。
このメンバーではさっきのレベル以上の魔獣が出たら、きついだろう。
「お前の技、効果短すぎだろ」
何故かニルスは俺の隣にきて座る。素材剥ぎはいいのか?
「でも、・・・すごいよ」
これは不問にしてくれるって事かな?
「見直した。強いんだな」
「もっと強くなりたい」
俺は目を閉じて呟く。
今回は、誰も死んだりしなかった。
それだけでもよかった。
この世界の命は俺がいた世界より、た易く消えてしまう。
今、この場にいるという、巡りあわせを何故もっと大事に出来ないのか。
そう思えるのは自分が恵まれているからか?
あの子にとっては、あっちの世界は生きていたいと思える世界ではなかった。
(俺がいたのに)
俺のこの手じゃ、あの子の命を繋ぎ止められなかった。
目をあけて手を広げ、目の前でかざす。
「強くなる。もっと」
守れるように。大事なものをこの手の中に繋ぎ止めておけれるように。
翳した手をはっし!と取られてニルスを見る。
「俺のマナをわけてやる。」
握られたニルスの手から魔力がゆっくり流れてくる。
「効率悪いな。」
俺は無防備だった。まさかニルスがあんな事をするとは。
手を放し、俺の身体の両脇に腕をついて。
「こっちの方が早い」
顔を覗き込まれたと思ったら、口を塞がれていた。
マナが一気に流れ込んでくる。
びっくりして固まった。
まじビックリした。超びっくりした。
「ちょっと!ちょっと。そういう事は特別親しいというか、そういう関係じゃなきゃしちゃだめって、さっきも言ったでしょ!」
マリィが止めようとニルスの身体をひっぱっている。
さっきもしようとしたのかよ。
油断ならねぇな。てか油断してたよ!
「緊急事態だ」
ニルスはすぐに俺から離れたが、俺の位置からはニルスの唇をその舌がちろりと舐めるのが見えた。
「アリサは家族みたいなものだ」
なんだ、その妙な色気は。
しかもどさくさにまぎれてベロチューとは。
ニルス・・・おそろしい子。




