◇嫉妬◇
グレテルが切れている。ナイフみたいに尖っちゃってんだよ。
暗い色をその瞳に浮かべ、ヤバい空気を纏っている。
近づく者を皆、傷つけちゃうから寄らないでくれオーラを出している。
とりあえず落ち着こうよ。ニルス。
味方を傷つけても仕方ないしさ?
壁を叩くのをやめて宙を見て、あらぬ方を睨んでいる。
拳からは血がだらだら流れている。怖いわ!
俺はリリィとマリィと少し離れたところで、コンビニ前の不良よろしくンコ座りでそんなニルスを見守る。
「…ニルス?」
「…今回の事は、俺達も浅はかだったんだよ。脅されたとはいえ恥の上塗りになるような事になってしまって・・・」
「君の父上のせいじゃないし、そんなに自分を責めないでくれ」
なかなか出来た友人じゃないか。
ま、一度はドタキャンしてニルスのSAN値下げちゃった連中だけどな。
リングルという少年も毒消しのおかげで具合がよくなったみたいだし、どうするつもりなんだろ?
「やつらより強くなって、ぜってー殺る」
ぶっそうだな。
「アリサ・・・もうあんな不甲斐ない事にならない。だから・・・俺を強くしてくれ!」
「その前に・・・怪我を治しておきましょうか?」
俺は軽いヒールをかけてやる。みるみる血が止まり肉が盛り上がってくる。
「奴らをやっつけるための大事な手でしょ?こんなんじゃ剣だってちゃんともてませんよ」
「アリサ!」
ニルスが感極まって抱きついて泣いている。
ちょっと待てよ。俺は言わなきゃいけないか?このセリフを。
――決意した君は美しい!。さぁ夕陽に向かって走るんだ!――
――ってここはダンジョン中でしたね。夕陽見えませんですね。
考えて、違う言葉をかけた。
「漢だったら、一つにかける。かけてもつれた糸を解くんだ。
曲げちゃならない人の道。おてんと様が見ているからな」
じっちゃんが見ていた時代劇の主題歌の歌詞しか浮かばなかった。
なんかいい事言われたような雰囲気になって少年達も頷いているが正直すまんかった。穴がったら入りたい。
「正々堂々と、勝とう。今回のことはただの嫌がらせじゃないことは気がついているだろう?ニルス」
なんか深い理由があるのかね?
「そうよ、ニルスのお父様は恋仲の二人をくっつけるために自分は身を引いた懐の深い人なのよ」
「女性の間では美談なのに、男性の方は反対の評価っておかしいわ」
マリィとリリィが口をはさむ。
「故意的にデビットが事実を捻じ曲げているんだ」
「なぜだ?」
「ニルスを見下したいからじゃないかな」
「なんで?爵位から言ってもむこうがすでに上じゃないか」
「君の元義母さんが嫁いだのはグランべリー侯爵家だよね?君達のどちらかを侯爵家の養子にするという話があがっているんだよ」
漏れ聞こえてくる話から判断すると、そのデビットがいろいろ嫌がらせをしてくるのは単なる嫉妬ではないだろうか?
ジェラシーというのはやっかいな感情だ。
それゆえに嫌な態度をとられるというのも。
「と、いう事は、ニルスやニルスの父上の評判を落として何か企んでいるって事だよね?」
「そういえばラーナ様にダンスを断られた事をずいぶん根にもっていたようですね?」
何気なく呟いた俺の言葉に少年たちが食いついた。
「それだ!」




