◇せつなさと不動の心◇
「ラーナを守ってくれたんだってな」
ニルスが俺を呼びとめて言った。
「礼を言う。」
目を逸らしつつ言う。素直じゃない、素直じゃない。が、
・・・・グレテルがデレた。
「お嬢様の護衛として当然です」
面白いのでじっと見つめてやる。みるみる顔が赤くなっていく。
人に礼を言うとか、今まで経験なかったんだろうね。
ま、この位で許してやるか。
「…俺にも教えてくれないか」
小さすぎて聞こえない。
「え?」
「…俺にも・・・」
「なんだって?」
ばーさん飯はまだかのぅ。
「……」
じゃなくて、ちゃんと聞こえている。俺はニルスをからかってやったのだ。ニヤニヤ。
初日に「趣味じゃない」とか言われたのをまだ根にもっているのだ。
ツルペタで悪かったな!
ニルスの奴、俺の胸見て言ってたものな!
この辺にしといてやるか。
「ニルス様が習うので?」
彼は頷いた。
「俺も、ラーナを守れるようになりたい」
まぁまぁ、麗しい兄妹愛だこと。
「…まずはレンブラントに聞いてみましょうよ。護衛隊長は彼ですし」
「…」
ニルスが黙った。なんだ?
「お前も、ああいう奴が好きなのか?大人で・・・」
「言ってる意味がよくわかりませんが、恋人はもっとイイ男ですよ?」
俺もデレて見た。
いいじゃんか、たまには対抗してみたって。自分で恋人がいるんだとアピールしないと、ウィルとそのままフェードアウトしそうなんだもの。
てか2年も行方不明とかって、間違いなく・・・そうなりそうだな。
軽く落ち込む。
「ふん。口でなら何とも言えるな」
あら?信じてない?ちょっとその辺にいないような人だよウィルは。
豹になるし…。
今日はやけに「会いたい」気持ちが止まらない。
せつない。
というわけで子爵家の鍛錬場なぅ。
いやぁ、ウィルとレオってすっごい強かったんだなぁ。
レンブラントとニルスの剣の流れがものすごく遅く見える。
そしてそんなレオと張り合ったベータも相当な使い手って事で、たしかにギルド ランクはFとEランクばっかりだったけど、「剛腕の盾」の連中って、いい腕してたんだな。
ほんの一か月かそこら前のことなのに懐かしい。
考えてみれば「アジャールの町」って魔獣事情でいえば最前線ってことで、相当強い魔獣を常時相手にしてるってことで、自然と腕があがるって事か。
「えいっえいっ」
微笑ましい事に、俺の立ち回りに感化されたのかリュリュまでが木剣を振っている。
かわええ。癒される。
レンブラントとニルスの鍛錬が終わると俺の出番だ。
「いいですか、ニルス様。俺の教える体術の心得は『柔よく剛を制す』ですよ」
「え?お・・・おれ?」
いかん、漢モードになると無意識に自分の事を俺と言ってしまう。
もういいか。一回出ちゃったら、あと何回出しても同じでしょう。
「俺の指導は厳しいぞ。ついてこれるか?」
小娘ですが言ってみました。ジゴ●ー気取ってます。
若干引き気味でしたがニルス様も「お、おう」と言っていたから問題ないでしょう。
「いいですか。手はこちらで足はこう、足をこう外側に拡げすぎるとバランスを崩してしまいます。」
柔道の技は教えるのにも身体が密着する。
教えているうちに、ニルスの挙動があやしくなる。
「…集中できていないようなので、今日はここまで」
俺は腹がたって、指導を途中でやめた。
武術の習得中に煩悩に振り回されるとは、なっていない。
「未熟者。まず不動の心を鍛えてこい」
「そ、そんなこと言ったって、そんなにお前がいい臭いなのが悪いんだよ!」
前屈みになって涙目で叫ぶニルス。
まったく、こっちの世界の連中はちょっとしたことですぐ発情しやがる。
なっとらん!
ふと気が付いて見ると、可愛そうな者を見る目でレンブラントがニルスを見ていた。フォローは頼んだ!




