◇看病◇
俺に看病しろってことね。
理解した。
そりゃ、うつりたくないものな。
臨時に作られた病室はガレージの地面に直接板を乗せ、その上に布団を乗せてあって、壁もところどころ穴があいている。簡単な煮炊きの道具と水瓶は用意されているから、これで乗り切れということか。
これじゃ地面からの冷気がそのまま昇ってきてしまうし隙間風もふせげない
トイレも外だ。
せっかく治まってきたはずの下痢が再びはじまったようで、リュリュはひっきりなしにトイレに行く。
そのたびに外気にさらされ、咳こむ。
これではよくなる気がしない。
外で荷車の音がした。俺が外に出ると、あの召使が大量の麦わらを台車に乗せもってきてくれていた。
「旦那様から言い使ってきました。何かご利用のものはありませんか?」
「塩と砂糖、それに米のようなものはありませんか?」
食べられないリュリュにおかゆを作ってあげるのだ。
召使はお安い御用ですと言って去っていった。
「よいしょ」
俺は麦わらを運び入れた。
床からの冷気を遮断するように、敷き詰め、壁の穴に押し込んだ。
これで少しはマシになっただろう。
ついで、召使がもってきてくれた塩と砂糖を沸騰させたお湯に溶かしてポカ●スェ●トもどきを作る。
部屋の中でお湯を常時沸かして、湿度と温度をたもつように気を配る。
さぁ、あとはリュリュの体力がどこまでもつかだ。
2日目、あいかわらず熱が高い。
熱でうつらうつらしている。俺の事を「お母さん」と呼んだ。
時々、しっかりと意識が戻るのだが水分をとらせるので精一杯だ。
3日目、下痢が止まった。お腹に食べ物がなくなったからかもしれないが。
目を覚ましているのに、幻でも見ているのか目を見開いている。
「いやだ、行きたくないよ。怖いよ」
と何回も繰り返す。そして最後に「お母さん、お母さん」と母親を呼ぶ。
手を握ってあげたが、振り払われた。
4日目、俺も疲れてきた。隣の布団でうとうとしていると、魔物にファイヤを受けた夢を見た。うなされて起きるとリュリュが俺の布団に潜りこんで俺にしがみついていた。
リュリュの身体が熱い。そのせいかな、あの夢。
5日目、ポカ●スェ●トもどきを気に入ったようで何度も飲みたがる。そろそろおかゆを与えてもいいかもしれない。熱は2日目ほどではない。
6日目、熱は下がった。おかゆを重湯状よりつぶが入ったものにする。下痢はしないようだ。よかった。峠は越えたみたいだ。
7日目、目をあけると小屋の外でコトリと音がした。扉をあけると卵やパンが置いてあった。後ろ姿がチラリと見えたが、あれは子爵か?
8日目、完全に熱が下がった。卵入りのパンかゆをパクパク食べる。目の下の隈も消えた。すっかり「あーん」が癖になったようで、自分で食べるように言うと口を尖らせた。
かわええ。
9日目、早朝、念のためにリュリュの使っていたトイレ(ただ、地面に穴を掘っただけ)
を念のため、ファイヤで焼いておく。その上から土をかぶせて埋めておいた。
子爵邸の庭は広く、少し散策すると、手の入っていないところに野生に近い瓜を見つけた。アジャールで冒険をしていた時にベイリーが取ってくれたものと一緒だ。
ふたつほど取って、小屋に戻ってから皮をむいて、一口頬張ってみる。半日たっても俺の身体に異常がなかったので、リュリュにも食べさせる。
ほんのり甘くておいしいので、口当たりがいいのだろうたくさん食べた。
10日目、リュリュはすっかり元気になった。俺もうつってはいないようだ。
少しだるい気がしたので横になっておく。
リュリュに強請られて、土間に枝で絵を描いてやった。ものすごい喜びようだった。
一番喜んだのはヒュドラの絵で、これに乗って空を飛んだことがあると言ったら、俺を尊敬のまなざしで見てきた。
11日目、そろそろ本宅から何か言ってきてもよさそうなものだが、このままここにいていいんだろうか。
わからないように魔力でガレージは補修したので居心地のよい空間になった。
リュリュの身体を沸かした湯で布を濡らして拭いてやる。垢がよじれてきた。
12日目、誰かが扉をノックするので起きて見てみる。
扉の前に牛乳がおいてあった。この世界にも牛がおり、牛乳は庶民の手には入らない。周囲を確認すると双子の気配がする。わざわざ届けてくれたのか、反抗期だが根はいい奴なのかもしれない。




