◇売られる◇
毎日、レオの顔を見ているか、鍛錬しているか、亜空間で何かを創造しているかだった俺は、ようやく商人さんに呼び出された。
例の国民的に有名なアニメの扉が現れると、商人さんが久しぶりに顔を出す。
そこで俺は、もうすでに隣国ダークジールにいることを知らされた。
亜空間は扉のあるところに出入り口が設定されるらしい。これは輸送など、用途がいろいろあるのではないだろうか。
渡された粗末な服に着替えさせられ、インベントリの事や魔法は使えないことにすると伝えられた。
レオに今はマナを渡さなくてはならないから仕方がない。そちらを優先しなくてはならないから。
まず非合法の奴隷商に連れていかれた。そこで他のものと一緒にロンダリングされた俺は、麻っぽい、首と手の出るところに穴があいているだけの服、一枚にされた。俺が来ていた商人さんが用意してくれた服は、没収だ。
必要なものや大事なものはインベントリやアイテムボックスに入っているから没収はされないのだが、布の服一枚で下着もつけさせてもらえず、スースーして気持ちが悪い。
それから黒い覆いをかけられた馬車に乗せられ、そこから町の奴隷商館へ移動させられる。馬車から降りる時にチラリと町の様子が見えたが、アジャールとは違う建築様式に異国なのだなと実感した。
商館に着いた俺は比較的身ぎれいにされている奴隷と一緒にされたが、そうでないグループもいるようだった。
商人さん曰く、この商館の奴隷商はまともな方だそうだ。
たしかに最初に連れていかれた方は、酷い扱いを受けていた者もいて、汚れと臭いがひどかった。
それを檻の外からバケツで水をかけて洗っていたのを見た時には、天に祈りたい気持ちになった。
人の尊厳もへったくれもない光景だったし。
売り物にされているのは人族の他に獣人族、ドワーフやエルフなど妖精族もいた。皆、死んだような、諦めの目をしている。
ここにいるのは犯罪者から奴隷になったような者ではない。
皆、借金のかたに売られてきたりしたものだ。
中には拐された者もいるようだが、こうやって「商品」となってしまうと、どうやってもここからは逃げだせないようだ。
まず、愛玩奴隷や性奴隷が別室に連れていかれた、処女かどうかを調べるのだそうだ。糞だ。吐き気がする。
俺のいるグループは年配だったり、怪我をしていたりどちらかといえば残り物的な面子だ。
ちなみに隣の檻は屈強そうな戦士タイプばかりの檻だ。
俺のように若い女性はあまり残っていない。
あれ?なんか俺、目立ってる?悪目立ちしてる?
入れられた檻の中で、隅の方に寄れば、商談を終えたと思える商人さんが、俺の方へやってきた。
「それでは元気で。時々はあちらでお会いいたしましょう」
「はぁ。商人さんもお元気で」
そう言えばこの人に売られたんだっけと思ったがあっさりした別れだった。
あちらというのは異空間のことか。俺は扉をもっていないんだが。
どこか現実感がないまま、本当に俺は奴隷にされてしまったらしい。
「ないわー。はぁ。ないわー」
頭を抱えた。
「どうすりゃいいのよ」
俺の独り言に隣の中年の女性が返事をした。
「諦めるしかないね。いい主人に当たれば、いい生活を送れるかもしれない。奴隷にしては、の注釈がつくけどね。あんたみたいな若い子は諦めがつかないだろうけど」
それだけ俺に言ったと、顎で別の檻の方をしゃくった。
「あっちみたいになってないだけ、まだいいよ。」
彼女が指示した方を見ると、そっちの檻には、明らかに病人だったり精神を病んでしまっているような人達がいた。
ぶつぶつと独り言を言っている女性や、声をあげているのだろうが、声帯でも切られているのか、口だけを大きく広げて動かしている人もいた。
その中に子どももいた。
病人なんだろうか、時々咳をしているようだ。兎耳が頭部から生えている。
丸まって、背中をこっちに見せている。お尻が丸見えなんだけど・・・。
そのお尻には丸い尾がついている。兎人族なのかもしれない。
「あっちも地獄、こっちも地獄か」
下着をつけていないので気をつけて座りながら、思わず呟いていた。
「そうね。地獄ね」
俺の隣に、先程の女性が座った。
「夫に売られたのよ。義母の薬代のために」
ポツリと女性は言った。
そりゃぁキツイ・・・。
「嫁ぎ先ではずっと酷い生活を強いられたけど…まさか売られるとは思ってなかったの。3年の契約奴隷の身分だけど、契約が切れても、嫁ぎ先のあの家にはもう戻れないかもしれないわ」
どこの世界でも、嫁の立場は低いものなのだろうか。
「あなたは?」
「義弟の治療に借金しまして。さっきの商人さんに」
「そう」
俺は、いろいろはしょって答えたが、充分伝わったみたいだ。
「つらいわね。お互いに」
それきり、彼女は黙った。
子どもでも、残して来ているのかもしれない。兎人族の子どもを見ながら、涙を手で拭いているのを、俺は見てみないフリをした。
暫くして、お店が開いたようだった。
いろんな身なりの人が俺達のいる檻の前で立ち止まり値踏みする視線を向けてくる。
居心地はとても悪い。気分も最低だ。
愛玩や、性奴隷は別の場所で売られているらしいから、俺はそういう対象ではないと考えていいのだろうか。
何人かは俺を指さして店の人に何か言っているのだが、条件が合わないのか、店の人に促されて違う檻の方へ移動する。
変な人に買われるのは御免だ。さりとて、こちらから買い手を指名できるわけもない。




