◇とある商人の事情◇
商人の話
リスボレイを抜けてから王都を迂回して一路ダークジール国へ。
わたしは主の命令で、アジャール、リスボレイ襲撃で集めた魔石を運ぶ。
ダークジールでマネーロンダリングならぬ、魔石ロンダリングしてからジンタン国へ持ち込むためだ。
今の主に仕えるようになってから10年とちょっと。
わたしの役割は相変わらず、「運び屋」だ。
たまに、ちょっとした工作員のような仕事を任せられる事もある。
今、わたしの作った亜空間には、そんな時に知り合った少年少女を閉じ込めている。
わたしの主は非情だ。人を人とは思っていない。
平気で嘘をつき人を騙し、他人から奪う。
アジャールの襲撃の時もリスボレイ近郊での襲撃の時も、わたしは主に逆らえず、また罪を重ねてしまった。
わたしにかけられた「隷属の誓い」
何が誓いなものか。呪いだろ、あれは。
いつかチャンスがあれば、この境遇から抜け出て、と思っていたがもう10年もたってしまったのだ。
その間、自ら命をたつこともできず、ただただ罪を重ねる日々が続いている。
そんな死んだような時間を、ささやかな人助けを心の支えにしていたわたしに、天が使わせてくれたような出会いがあった。
わたしには「ダルトン」として生まれる前には、違う世界の日本という国に生きていたという記憶がある。
主の命令で潜入活動をしていた時に、なつかしい顔を見つけたのだ。
前世の知り合いというわけではない、でもその顔立ちやふとした時に現れる仕草には、この世界の物ではない、懐かしいにおいがした。
それより、彼女の行った救急救命処置は、日本ではポピュラーなものだった。
彼女は日本人だ。
そう確信した時の歓喜の気持ちをわかってもらえるだろうか?
話しかけたい、わたしの事情についても話したい。
そう思ってしまっても仕方のないこと。
けれど、わたしは自制した。
わたしは奴隷だ。そして主は悪党だ。わたしに関わるということは、わたしが抱えている闇に近づけてしまうことだ。
涙をのんで、彼女と別れた。
しかし、縁というものは不思議で、わたしと彼女の縁は切れてしまわなかったらしい。
リスボレイ近郊での隊商襲撃の際、彼女と再会したのだ。
魔獣の毒で死にかけていた少年を拾った。どこかで見たことがあるなと思ったが、砦で会った少年だとはなかなか思い出せなかった。
主の刃からは救いだせたものの、少年の命は風前の灯だった。
わたしは主にも、その存在を隠しているアイテムを使うことにした。
一旦その場を離れ、準備をととのえ、少年のところに再び戻ると、彼女が少年に取りすがっているのを見つけた。
ああ、まだ天はわたしを見捨てて・・・いや彼女を見捨てていなかった。
わたしの主は恐ろしいことを計画している。
彼女を逃がさねば、決してわたし絡みでないとわからぬように。
しかも、今まで保護してくれていた人達と離されて、よりどころのない彼女が
飢えて死んだり、魔獣に殺されたりしないように、気を配って。
そして何よりも、これからおこるであろうワルシャール国の悲劇と無関係なようにしなければ。
わたしは非道とも思える申し出を彼女にした。
少年を人質にとられた格好になった彼女は、覚悟を決めたようだった。
すまない。わたしを恨むことだろうが、今考えられる最前の手だと思う。
彼女達を閉じ込めた亜空間へ、食糧をもっていくと、面白いことになっていた。
何もないはずの亜空間に家が建っていたのだ。
こんな使い方、わたしには出来ない。
これは彼女の能力なのだろうか。




