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JKだけど異世界で真の漢に俺はなる  作者: 相川ミサヲ
第3章
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◇迷惑な同行者◇


 アジャールの町をぐるっと取り囲むように、高い壁がそびえている。

 この町が出来て、ほぼ150年。それは外敵からの侵入を阻んで中に暮らす人の安寧と平和を守ってきた。

 町は、大陸の最南端にある魔の地から溢れてくる魔獣を、蓋をするように押しとどめるための砦に寄り添うように発展してきたため、まだ若く、自由で活気がある。


 メインストリートは僅か2キロ弱であろうか。

 20分も歩けば終わってしまう。

 それでも人通りはそこそこあるし、店も活気がある。


 一番賑わっているのは、素材を扱う問屋であろうか。

 およそ2週間間隔で王都とアジャール間を行き来するための、隊商が出ている。


 本日はその日になっている為、輸送専門の業者が問屋の前に幌馬車や騎獣を乗り付け、喧噪を醸している。


 出発を2週間毎と揃えているのは、アジャール平原を渡るためだ。

 魔獣ばかりではない、盗賊や自然の災害に備えて、できるだけ固まって行動するのだ。

 大勢なら、誰かは生き延びる。

 そんなサバンナの草食動物の大移動のような事が繰り返されているのだ。


 つまりはそれなりに過酷という物であろう。


 長い隊商の列に、俺たちはバラバラに配置されていた。

 レオ達騎士学校の生徒は、自主実習を兼ねているのであろう、隊商の前側に護衛隊と共に配置され、俺はしんがりに近い方だった。


 木箱が整然と積まれた馬車のちょっとしたスペースにライラさんと司令部長官の息子、エド・コスナーと3人どうやら乗り込む事ができた。


 「歩いてついてこい」、でなくてよかった。

 ライラさんは途中立ち寄る町、リスボレイの人だ。

 砦の補修に呼ばれてアジャールへ来たが、滞在予定が過ぎてしまい、一旦故郷へ帰るとのこと。

 と、いう事はあとの王都までの道程は、この馬車にエド・コスナーと二人きりになるという事だ。気がすすまない。


 2人とも恋愛脳のため似た者同士という認識でいたが、本人達によれば違うらしい。俺の見るところ、ライラさんは経験に基づいての言動であり、エドは机上論的な発言が多い。俺は町を出発してすぐからの二人の恋バナには辟易していた。


 正直うっとおしい。この二人の口を誰か止めてくれ。


 ライラさんは出発前の俺とウィルの様子から、女の勘的な何かで関係に気づいたらしい。

 「やっぱり!」

とはしゃいでいる。

 「どうりで、ウィルがあなたのことを熱っぽく見つめていたはずだわ」


 それは最初にウィルに救助された日のことかな。

 その熱っぽい視線の訳は、おそらく俺のステータスに「異世界人」てな表記が視えたからであろう。

 ウィルにはステータスが読めるというスキルがある。

 それもあって、今の俺は彼には隠し事ができない…気がする。


 ゆうべもそうだった。俺の不安をすべて見透かし、ひとつひとつ不安を取りさるためのアドバイスをくれ、蜜のように甘い時間をくれた。

 「俺を片時も忘れないように刻み付けたい」

と言って、身体中につけられた痕が、彼のことを考えると熱をもったように熱くなる。身体の内側も反応して熱に浮かされたようだ。


 今すぐにでも彼のことが欲しくなる。我ながら、やっかいだな、と思わないでもない。スイッチが入りかけたのに気がつき、深呼吸をして生じた欲求を霧散させる。


 当分会えないんだから。ボケてる場合じゃないだろ。


 「その首のところにある痕、悩ましいですね」

 エドもぎりぎりアウトな距離感の持ち主だ。

 気がついても、そこはスル―してくれよ。


 「でも、そんなに簡単に伴侶を決めちゃっていいのでしょうか?

もっといい相手が現れるかもしれないかもしれないでしょ」

 もっといい相手という所にアクセントを置いて言う、


 「失礼だけれど歳の差もありますし、価値観にすれ違いとか理想にずれ違いとか、起きるんじゃないかって思いますよ」

 つまりは自分の方が優良物件だと言いたいのであろうが、まだつきあい始めの俺に不吉な事を言わないでくれ。


 でも、例えそうなっても、そうなった時はそうなった時だ。

そもそもこっちは異世界人なのだ。ぜったいすれ違いとかズレはあるだろう。

それも織り込み済みなのだよ。ウィルは。



 「エドと結婚できる女性はきっと幸せね」

 だけど、誰にも勘違いを起こさせるような言動は何とかしないといずれ自分の首をしめるぞ?

 笑顔でチクリと言ってやるのだがエドは気が付いているのか、いないのか、ちっともめげてくれない。


 「愛の前には歳の差なんて」

 陶然とした様子でライラさんが言う。おーい帰ってこい。


 歳の差、歳の差って言うけど、ウィルと俺は10離れているかいないかだ。


 元の世界じゃ些細な事だけど、こっちでは出来るだけ年齢の近い人と結婚するのが常識らしい。

 それどころか女性の方が年上というカップルが多い。

 あまり若すぎる妻を娶ると、夫の方が死んでからの余生が長すぎるというのが理由らしい。

 さすが異文化、こういうところも元の世界と違う。


 が、常識は常識、ぶっちゃけたところを言うと男性の常として若い娘を好む傾向はあるらしい。

 しかし世間の無言の圧力に捕えられ、だいたいの人は「常識どおり」の結婚形態をとるようだ。

 所属コミュニティから逸脱しすぎるのは居心地悪そうだものな。


 と、どこかの法人類学者的な事を考えているとリスボレイの近くまできた。


 「わたしも、ダーリンに可愛がってもらうわ」

 あら、パートナーいるんだね?ライラさん。


 どおりでディーンがあっさりと断っていたはずだ。



   「あとで教えて?」

   「『魔術師年報』最新の技術だぞ?」

   「お礼は、あ・た・しで」

   「断る!」



 たしかにそこで「じゃ遠慮なく」とか言ってたら泥沼のスタートだ。

 って言うか、ライラさん、冗談にしてはギリギリすぎでしょ。


「 誰かに決めなくても、美味しいところだけ頂くってのもアリだと思うわ」

 意味深に微笑むライラさん。


 いやそれうまくいってないでしょ?ライラさん。

 ディーンさんかなり迷惑そうだったよ?

 堅実にいこうよ。俺の元の世界じゃこんな諺があるんだよ?


 「二兎追う者は一兎も得ず」


 だけどここに賛同者がいましたよ。


 「いろんな相手と付き合ってみて、それで分る事もあると思うな」

 いや、それ、分かりたくない事まで分かってしまいそうだし。

 恋愛初心者には夢は必要だよ。


 「恋愛観、すれ違ってますね」


 俺は苦笑しながら言った。ウィルがいるのにお試しで誰かとつきあってみるとかできない、したくない。

 誠実なのが一番だ。わざわざ泥沼展開に近づかなくてもいいでしょ。


 「例えば、このパンの中から好きなパンをお食べなさいと言われて、メロンパンを齧ってしまったのに、あとであんパンを見つけて、そっちにしますって言えないのと一緒じゃないかな」


 「めろんパンとかあんパンとか…わからないけど」

 例えが悪かったのだろうか、何か違う事を想像しちゃったようでエドは前かがみ気味だ。

 「ふたつとも食べてみるっていう選択はないのかい?」

 「ありませんね」

 きっぱり言ってやる。ライラさんも降りるし、この手の話は打ち切りにしたい。


 恋愛脳の二人と違って、こちとら初めての「恋人」の存在に振り回されているウブな女子高生だ。

 恋愛経験値が乏しいのだからあまり刺激的な話は避けてほしい。



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