◇ツインのシングルユース◇
リスボレイで一泊。一部の荷物はここで引き取られるし、ここで護衛の人は交代するらしい。レオといよいよ顔を突き合わせることになる。
何か言われるのは間違いない、どう出てくるのかも怖い。
宿屋の手配で不備があった。
2人部屋がふたつ。
トリプルとシングルを頼んだのだが。宿屋の受付の人は首を傾げて
「何か不都合が?」
と聞いてきた。
ああ、こりゃ俺のこと男子とカウントしてんな。
レオと相部屋とか身の危険しか感じない。死亡フラグを勝手に立ててくれるなよ、お髭の主人よ。
かと言ってカミルとかバートンと一緒とかもなぁ。
なんてったって…結婚を約束した相手がい、いるんだし。
「僕たちの部屋にベットをひとつ追加できませんか?」
カミルが提案し、狭いのを我慢して男子ズはツインの部屋を無理やり3人で利用することになった。
俺だけツインのシングルユースで申し訳ない。
ちなみにエドはこっちの親戚の家に泊まるらしいので別行動だ。
はっきり言ってホっとしている。
「あぁぁ。疲れたなー。夕飯にしようよ。とりあえず」
レオ達3人は護衛の手伝いをしていたため、ずっと緊張が続いていたらしい。
バートンが催促するので俺達は宿屋の隣の飯屋へ移動して食事にすることにした。
食事の席で色違いのペアルック的な服装なのに、俺とレオの間の空気はよそよそしい。
そんな空気に耐えれずにバートンがその場の雰囲気を変えようとして自爆してくれた。
「あ、なんか首筋についてますよ」
こいつもか、そこはスル―してくれ。頼むよ。
「なんかに噛まれた?オレいい傷薬持ってるよ?…」
彼は自分のポケットから薬を取り出そうとする。
カミルがそれを視線で止めるべく、目配せをするが気がつかない。
「…治すなと言われてるんで」
俺は首筋を手でかばいつつ、バートンの気配りを辞退する。
そうなのだ。ウィルはこの痕を治さないように俺に言い含めた。
「これは俺のものだという目印だから、消したらダメだよ」
超甘い顔で言われてドキドキしちゃいましたよ。
それを律儀に守ってる俺も俺なんだが…。まぁひとつの様式美みたいなものですハイ。
「なんで?だってそれ噛まれた痕だよね?」
バートン?
わざと?わざとなの?
カミルが匙投げた、おでこに手をあてている。
俯いていたレオの肩がブルブルと震えてる。
マズイ。一触即発な気配がするんだが…。
このバカが、とカミルがバートンの手を引っ張っていき、俺とレオは二人っきりでテーブルに取り残された。
お願いだ!二人きりにしないで。
「え?なんで?」「だって…え?」「どうして?」
俺の願いもむなしく、カミルにドナドナされつつ、バートンは疑問符を飛ばしながらも遠くに連れていかれてしまった。
どうしろというのだ。この重い空気を。
俺は無意味とわかっているが咳払いをしたり天井を見上げたりした。
・・・そうだよ現実逃避しているんだ。
他のテーブルの女冒険者達の「ねぇねぇ見て」「おそろいね」「かわいいー」
とかいう声ももはや破滅までのBGMにしか聞こえない。
タスケテー!
しばらくたってレオがなにかぼそっと言うのが聞こえた。
俺にか?今、俺に話かけた?
「え?何?」
「…どうしてそうなった?」
「えーと」
空耳じゃなかったらしい。
「何がきっかけで…兄さんと…」
やっぱりソコ気になりますよね。
もっと罵られたり、皮肉な言葉を投げつけられると思っていた。意外に冷静なようにも見える。
俺は覚悟を決めた。
「…ウィルの尻尾を握ったの」
レオははじかれたように顔をあげた。
俺の顔を凝視している。
「うそ」
いや、嘘じゃないし。あれは俺でもどうかしてたとしか思えないが、ああいう結果になってしまった事は後悔していない。
「たしかにハシタナイと言われても仕方ないと思う。その謗りは甘んじて受ける」
俺は覚悟した。今度は両頬を張られる位じゃすまないかも。
「ズルイ…」
え?なんつった?
「ズルイよ。そんなの」
ガタンと椅子を倒して立ち上がり、レオは走り去った。
「おまちどー」
一人走り去ったレオを茫然と見送っていると、ウェイトレスが頼んでおいた食事を4人分運んできた。
4人掛けのテーブルに4人分の食事、テーブルに着いているのは俺一人。
「…誰でもいいから戻ってきて」
半泣きになった。
けっきょく手をつけるのをためらっている内に料理はすっかり冷め、傷薬をポケットに戻したバートンがバツの悪そうな顔をしながらカミルに連れられて帰ってくるまで、俺は居心地の悪い思いをし続けた。
レオに至っては戻ってこない。
「おねーさん。ツレ、調子悪くて部屋に戻っちゃったんで、これ部屋へ持って行っていいですか?食器はあとでこっちに返しますので」
カミルがテキパキとその場を治め、残った俺達は黙って食事の時間をこなした。
味がまったくわからなかったし…。
食事の席で会話がはずむはずもなく俺たちは、それぞれの部屋の前で別れた。
「明日はもっとレオの態度もきっとよくなってるよ。おやすみ、ちゃんとゆっくり眠るんだよ」
ああ、バートンが何故レオの友達なのかわかった気がする。
面倒見がよくて、気立てがいい。
「これ以上うっとおしい空気を振りまくようなら、僕も黙ってないし」
黒い微笑みを浮かべてカミルも言う。
その時はお願いしちゃうかも?
あんなヤンデレでもいい友人を持っているものだ。
変なところで感心した。




