◇とある治療師の野望◇
たしかに昨日の会議では、騎士学校の生徒達を王都へ戻すようにという命令が出たとは聞いていた。
が、これはない。不意打ちじゃないか。
俺、こと砦の治療師、クリスは、ややバツの悪そうな表情をしている友人、豹頭である砦の守備隊帳を睨んだ。
「アリサは無理に王都に行かせなくてもいいのでは?」
前々から、俺はウィルにそう言っていた。
正直、砦の防衛上、Bクラスの「戦塵の刃」のパーティが抜ける事もあって戦力に不安しかない。今度また襲撃があったら、そう考えるとぞっとする。
だから優秀な治療師の卵のアリサが砦に残ってくれたら心強い。
まぁ、女、子どもに頼りきるつもりはないけど。彼女の応急処置の腕と治癒の力はここで生きるものだ。他所へはもっていかれたくない。
なのに、ウィルの奴、渋面を作って悩んでいるようだった。
またこのアリサが優秀で、ほぼ全属性に適性があるとか出鱈目で、この前なんか F、Eランクのパーティに加入したと思ったらCランク相当の「沼なまず」を討伐してきたというじゃないか。
記憶なんてもう思い出さなくていい。
このアジャールの守り手の一人になってくれれば。
「まだ二人とも子どもなんだし」
ウィルの奴はいい意味でも、そうでない意味でも保護者気質っていうか…
現実を見ようとしないっていうか、身内に対してはダメダメだな。
ウィルが引きとめないんだったら…いっそ俺が…
そう思いはじめた時だった。
ウィルの弟君が暴走したんだ。
俺にも覚えがあるが、弟君位の年齢の少年というのは、今にも噴火しそうな火山と一緒で、きっかけさえあれば、大爆発をする。
それを潜り抜けないと次に行けないから耐えるしかないんだけど。
ひとつ屋根の下に年頃の血のつながっていない異性がいて、何も思ったり感じたりしないわけがないだろうに、ウィルの奴、そういうのに鈍感というか。
さすがに、その後は気をつけて二人を見ていたようだけど。
しかし、いいよね。あの年頃の女の子って。
肌なんか瑞々しくてやわらかそうで。
ウィルはアリサが冒険者として活躍しはじめてから人を使ってまで見守っていたようだけど、それで返って心配になってきたみたいで。
他人にやるぐらいなら、とか冗談ぽく言ってたな。
目つきが真剣だったけど。
そりゃ自分で囲ってしまった方が他人にかっ攫われる心配はないだろうけど。
ほら、でもちょっと歳の差とかあるじゃないか?
弟君でもよかったんじゃないか?
そう思うのは嫉妬からだけじゃないからと思いたい。
たしかに噂にはなってたし。
独身の騎士団の隊長さんが女の子を家に住まわせてるって、普通スキャンダルなんだろうけど、こう、なんか生暖かい空気がね、たしかにあったと思うよ。
周囲の応援するような空気も、暴挙の力になったというか背中を押したというか。
……手出しちゃったか~。
「明日、王都に立ちます」と、挨拶をしにきたアリサの首筋にキスマークを見つけて俺は複雑な気持ちになったよ。
「まだ子どもなんだし」とか言ってた本人が手、出しちゃっていいのか?
弟君、口から魂が出てたね。
心が現実逃避してトリップしてるの丸わかりだった。
とりあえず、ウィルだけをちょいちょいと手招きして呼び出し、一言嫌味を言ってやったさ。
「…まだ子ども、じゃなかったのかい?」
ウィルの奴、バツの悪い顔をしてたよ。
多少は自覚あって反省はしてるみたいだ。
「俺は歳の差15歳を目指す。吠え面かくなよ」
もっと若い嫁を貰って、ウィルの前で見せつけてやるのだ。
でないとこの悔しさは晴れない。
そうだ。弟君の事を言えないのは自分だってわかってる。
こう何日も何日も泊り込んで仕事していると、あっちの方が我慢できなくなる位まで溜まってくる。
あぁ彼女欲しー。
その前に、彼女を作るための休みが欲しー。
でも後で考えてみると、15歳の歳の差ということは俺はあと何年かは独身のままだという事に気が付いた。
だめじゃんか。




